終章
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会場から無事に脱出し、少し落ち着いた執務室。扉が開くと、先ほどまでのおバカな王の仮面を脱ぎ捨てたクヴァレが、どこか満足げに肩をすくめて入ってきた。
「……お疲れ様、アイスベルク。派手にやってくれたね。おかげで会場は滅茶苦茶だ」
彼は国王の威厳などどこへやら、昔からの相棒に向けた気安い笑みを浮かべる。アイスベルク様は、私の腰に回した腕を緩めることなく、冷ややかな瞳で友を見下ろした。
「お前の『処刑場』の仕上げに付き合わされただけだ。……だが、掃き溜めのような連中が全員、尻尾を出してくれた。上々の収穫だろ」
「ああ。君が彼女の盾となって守り抜く姿を見せてくれたおかげで、敵も焦って飛び出してきたよ。協力感謝するよ、アイスベルク」
二人の間には、言葉を介さずとも通じ合う、積み重ねられた年月がある。クヴァレ王は私の背後にいる私に気づくと、まるで獲物を確保した猟師のような、いたずらっぽいウィンクをした。
「君が彼女という『獲物』で敵の気を逸らしている間、僕は裏でしっかりとこの国の膿を出し切っていたんだ」
クヴァレ王は愉快そうに笑いながら、ふと何かに気づいたように言葉にする。
「そういえば、一つだけ王家に伝わる古い話をしておこうか。……『仮面の夜、刻印に結ばれた者同士が踊り、互いの魔導回路を共鳴させるとき、魂は決して解けることのない錬金術の契約を結ぶ』という、少々風変わりな伝承があるんだが……」
アイスベルク様は眉をひそめ、不快そうに言い放つ。
「……今はそんな迷信を語っている場合か? クヴァレ王」
「あはは、そうだね。ただの酔狂な言い伝えさ。君たちが踊っているのを見て、ふと思い出しただけだよ。……さて、これ以上邪魔をするつもりはないよ。今日の顛末は、僕が最高にドラマチックな『王と宰相の勝利』として公表しておくから。……世間にはそこに、『愛に駆られた宰相が、愛する令嬢を命がけで守り抜いた』という、二人の愛を証明する英雄譚というスパイスを添えてね」
クヴァレ王はそれだけ言い残し、満足げに執務室を去っていった。
扉が閉まり、静寂が戻った執務室で、アイスベルク様はふう、と小さく溜息をついた。私の手を取り、震えが残る指先に、吸い付くように口づけを落とす。
「……あいつのやり口には慣れているが、今日の舞踏会で君をあんな風なトラブルに巻き込んだことだけは、どうしても許せないな」
彼は冷徹な宰相としての仮面を脱ぎ捨て、私を愛おしむような、それでいてどこか鋭い視線で覗き込んできた。
「二度と、あんなふうに君を危険には晒さない。……だが、もう安心しろ。今日という日を通し、俺はこの世界で誰よりも君の近くにいると証明できた。……君が俺の傍にいれば、どんなトラブルからも守り切ることができる」
刻印が熱を帯びるたび、脳裏にクヴァレ王の言葉が冷たく反復される。
――『仮面の夜、刻印に結ばれた者同士が踊り、互いの魔導回路を共鳴させるとき、魂は決して解けることのない錬金術の契約を結ぶ』。
それは、単なる守護の力ではなかった。
彼が纏う魔導装置の膨大なエネルギーが、私の首筋の刻印と激しく共鳴し、二人の魂を強引に縫い合わせていく。
クヴァレ王は「ただの気分転換」などと笑っていたが、実際はどこまでが彼の計算だったのだろうか。
この仮面舞踏会こそが、王家が代々伝承を受け継ぎ、ひそかに守り続けてきた「魂を結合させる禁忌の儀式」そのものだったのだ。
彼のことだ、二人が踊ることで刻印が共鳴し、こうして魂が混ざり合うことさえも、最初からすべて見越していたのかもしれない。
舞踏会の夜、私は彼の愛に、静かに、そして抗いがたく溺れていく。この疼きはもう消えることがないだろう。彼という揺るぎない魂の一部として、一生を添い遂げることができるのだと気づいてしまったから。
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