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落第剣士が古代魔法に巻き込まれ一億年修行 ~七王の技を宿して世界を救う~  作者: バナナ


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第41話 合同戦の敵味方

四日後、地下第三訓練場へ入った瞬間、ミナ・フェルンは胸の奥が狭くなるのを感じた。

 カイの右肩と右脚は集中修行に耐え、黒影歩は十二歩まで安全域へ入った。五人はこの四日間、旗を取る役、救助へ回る役、退路を守る役を何度も確認してきた。今日は、その圧倒的な速さへ頼り切らず、分担が本当に通じるかを試される日だ。

 円形の場内は、合同戦に合わせて二つの陣地へ分けられている。中央には青い旗。周囲には腰までの石壁、木組みの見張り台、救助対象を示す藁人形が配置され、そのさらに外側を白線と監査席が囲んでいた。勝利条件は旗の確保。だが、倒れた者を放置した班は救助規則違反で即時失格になる。

 監査席の最上段には、四つの院章を着けた代理観測者が並んでいた。白冠院の救務監補エルナは、白い短髪と柔らかな目を持つ小柄な女性だった。腰には武器ではなく救護帯を巻いているのに、階段を上がる足音が一度も乱れない。ミナには、倒れた人へ最初に手を伸ばし、それでも自分まで倒れない強さの人に見えた。

 黒帳院の記録官シオンは、黒髪を首の後ろで結び、片眼鏡の奥から場内の亀裂まで見ていた。薄い手袋の指が一度動くたび記録札が三枚めくられる。カイを人ではなく情報として測りかねない冷たさを感じ、ミナは少し身構えた。

 赫陣院の戦技査定官ドーガは、赤銅色の肌と傷だらけの両腕を持つ大男だった。座っていてもガロウより肩幅があり、木剣一本で場内の全員を止められそうな圧がある。ガロウが対抗心を隠さず見上げるのを見て、ミナは似た者同士だと思った。

 蒼廷院の指揮監査官フィオナは、青灰色の長髪を一本の簪で留めた若い女性だった。穏やかな顔のまま両班の立ち位置、監査官、非常口を順に見ている。誰より静かなのに、彼女が一言命じれば全員が動きそうだった。

 四人は四帝の代理であって、上下関係はない。白帝レイガの白冠院は救助と防衛、黒帝クロエの黒帳院は情報と追跡、赤帝バルガの赫陣院は戦闘評価、青帝ユリアの蒼廷院は規則と指揮を専門とする。同じ行動でも、測る尺度が違う。その四つの記録が、復学判定へ同時に提出される。

 今日戦う相手も同じ一年生だ。敵役ではあっても敵ではない。その当たり前を、ミナは入口で何度も自分へ言い聞かせた。

 向かいの班から、ひときわ姿勢の整った男子生徒が進み出た。紺の制服は皺一つなく、短い灰髪もきれいに撫でつけられている。細身だが、木剣を握る右手には厚い剣だこがあった。鋭い目で陣地を測る立ち姿から、見栄だけの班長ではないと分かる。

 その視線がカイで止まり、露骨に険しくなった。

 「確認しておく。俺たちは、危険物と同じ場で戦うことに同意していない」

 ミナの頬が熱くなった。

 「危険物って、誰のことよ!」

 ミナが半歩踏み出すと、監査席の視線が一斉に集まった。

 「S級二種・A級五種の保存技能。測定不能の帰還者。ほかに誰がいる」

 言い返そうとしたミナの前へ、カイの腕が静かに出た。

 一億年の修行から帰った彼は、以前のように肩をすぼめてはいない。それでも相手を睨み返さず、背筋を伸ばしたまま言葉を選んでいた。その横顔を見るたび、ミナは嬉しさと寂しさを同時に覚える。十二分前まで、自分の視線だけでも戸惑っていた少年が、今はひどく遠い時間を知っている。

 「不安を言う権利は彼にもあるよ」

 カイはミナを制した腕を下ろさず、対戦班長の強張った肩を見た。

 「でも、カイは危険物じゃない」

 その言葉だけは譲れず、ミナは隣の横顔を見上げた。

 「うん。だから、結果で人間だと分かってもらう」

 穏やかな声だった。怒りを飲み込んだのではなく、怒りに決めさせていない。その強さに、ミナは舌の上へ残った反論をのみ込んだ。

 対戦班長は納得していない顔のまま、木剣を肩へ戻した。

 「制御できるなら示せ。俺は班員を賭けない」

 班長の木剣を握る指に、白く力がこもる。

 「俺も同じだ。君の班員も、俺の班員も賭けない」

 開始まで二十分。両班は監査官の指示で地形確認へ散った。

 ミナは中央旗までの道を歩きながら、相手班の四人も観察した。盾を持つ小柄な女子は、緊張すると左足を半歩引く。二刀の少年は身軽だが、周囲の声に反応するたび視線が逸れる。残る二人は対戦班長の指示を一度も聞き返さない。彼が班員から信頼されていることが、整った隊列から伝わった。

 だからこそ「危険物」という言葉だけで嫌いになるのは簡単すぎる。彼は自分の班を守ろうとしている。その守り方がカイを傷つけたのだ。

 「まだ怒ってる?」

 隣へ来たカイに、ミナは正直に頷いた。

 「怒ってるよ。でも、あの人が班員を大事にしてるのも分かる。それが余計に腹立つ。カイだって、同じように誰かを大事にしてるのに」

 言い切ったミナの息は熱く、カイは濡れた床へ一度視線を落とした。

 「そこは、これから見てもらうしかない」

 静かな答えに、ミナは眉を上げて彼の逃げ道を塞ぐ。

 「一人で我慢して、いい人みたいに終わらせないでね」

 カイが少し目を丸くする。

 「傷ついたなら、傷ついたって言って。私たちまで平気な顔をしなきゃいけなくなるから」

 カイは剣柄へ触れかけた手を止め、一呼吸ぶん沈黙した。

 「……分かった。危険物と言われたのは、やっぱり嫌だった」

 その一言で、ミナの胸にたまっていた怒りが少しだけ形を変えた。代わりに、彼が感情を言葉にしてくれた安堵が広がる。

 カイは旗へ向かわず、外周の退路を歩いた。濡れた床、低い梁、観客席へ続く非常階段。剣士なら中央を見る場面で、彼は負傷者がどこを通ればぶつからないかを確かめている。

 「旗、取りに行かないの?」

 ミナは中央の青旗と、カイが見ている非常階段を見比べた。

 「俺が行けば、相手は俺へ人数を割く。勝ちやすくはなる。でも崩れた時に、退路を見る人がいなくなる」

 説明する指先が、床から階段までの経路をなぞる。

 「また救助役を選ぶんだ」

 責めたつもりはないのに声が曇り、カイがようやく彼女を見る。

 「勝つ気がないわけじゃないよ。勝つために、全員が戻れる形を先に作りたい」

 ミナは返事をせず、彼の隣へしゃがんだ。古い石柱の根元に、髪の毛ほどの亀裂が走っている。指先の《火花》を小さく灯すと、亀裂は裏側まで続いていた。

 「これ、昨日はあった?」

 ミナが亀裂を照らす間、セレスは記録板を素早く繰った。

 「整備記録では補修済みです」

 セレスが記録板を抱えて近づく。銀髪を耳へ掛け、亀裂と記録を交互に見た。

 「ただし安全判定は今朝も合格。負荷をかけなければ問題なし、という記載です」

 セレスの瞬きが二度続き、記録と現物の食い違いを示した。

 「負荷をかける合同戦の朝に、それでいいの?」

 リゼットが眉を寄せた。金髪を高く結んだ彼女は、班章を胸へ留め、既に指揮役の顔になっている。

 「監査官へ再報告します。試合開始前に返答を得る。それまでは、この柱から三歩を進入禁止にするわ。異論は?」

 ガロウが大きな身体を屈め、柱へ耳を当てた。

 「十二秒ごとに、下で何か響いてる。水じゃねえな」

 普段なら豪快に笑う彼の声が低い。ミナの背中へ冷たい汗が浮いた。

 五人が陣地へ戻ると、星の杖から淡い輪郭が立ち上がった。

 少女の姿をした投影体、アステリア。床へ届かない銀白の髪、星明かりを閉じ込めたような瞳、触れようとしても指がすり抜ける身体。初めて見た時、ミナは息を呑むほどきれいだと思った。同時に、武器を持たず物へ触れられない彼女を、万能の案内役だと考えてはいけないとも知った。

 「退路候補は二本。北の階段と、西の保守路」

 空中へ二筋の光が現れる。

 「どっちが正解?」

 ガロウが聞くと、アステリアは首を横に振った。

 「正解は保証できない。私が受け取れるのは杖と観測札とセレスの記録だけ。下層は未観測。見えていない崩落まで、あるともないとも言えない」

 以前なら、その不確かさへ苛立ったかもしれない。今は違う。分からないと言えることが、班を守る情報になる。

 監査官から亀裂への回答が届いた。今朝の検査では荷重試験を実施しており、数値は基準内。合同戦の継続は可能。ただし当該柱から三歩以内は進入禁止とし、教師が監視する。

 リゼットは回答を読み上げた後、全員の顔を見た。

 「安全判定を信頼する。でも、十二秒周期の振動は別件として扱う。セレスは回数を記録。ガロウは音が変わったら即座に申告。ミナは旗へ進んでも柱側を照らさない。カイは西側退路を優先。私も条件を増やしすぎない」

 リゼットは一人ずつ目を合わせ、命令ではなく確認を待った。

 「監査官が大丈夫って言ってるのに?」とガロウが聞く。

 太い腕を組むガロウへ、彼女は記録札の空欄を向ける。

 「大丈夫という記録と、私たちが感じた異常は両方残すの。片方を消せば、判断じゃなく思い込みになるわ」

 セレスが記録札へ十二秒と書き、アステリアは二本の経路へ「未確定」の文字を添えた。小さな不安を全員で共有したことで、ミナはむしろ呼吸しやすくなった。

 作戦会議で、カイは旗奪取役を辞退した。ミナとガロウが中央を押さえ、セレスが相手の動線を記録し、リゼットが撤退条件を管理する。カイは負傷者回収と退路確保。アステリアは二候補を表示し続ける。

 「本当にいいの?」

 ミナが小声で尋ねた。

 「俺が旗を取れば、みんなに認めてもらうのは早いかもしれない。でも、それだけで認められても、たぶん長くは続かない」

 カイの視線は旗ではなく、ミナが走るはずの足場を確かめていた。

 「じゃあ、私が取る。あなたが帰る道を見てくれるなら、安心して走れる」

 言ってから、胸が急に熱くなった。カイは少し驚き、それから柔らかく笑った。

 「頼む、ミナ」

 開始鐘のため、監査官が右手を上げた。

 場内の声が消える。その静けさの底で、どん、と鈍い振動が返った。

 ミナは反射的に数えた。十二秒後、もう一度。

 封鎖済みの下層から、誰かが規則正しく床を叩いている。

 監査官の手が振り下ろされ、合同戦の鐘が鳴った。

 開始前の試走でカイが十二本の標柱へ同時に剣痕を残した時、観客席は一度、完全に静まり返っていた。上位班の生徒でさえ「見えなかった」と青ざめ、ミナは誇らしさに頬を緩める。対戦班長だけが悔しさを噛み殺し、「だからこそ止める」と木剣を握り直した。監査官は星騎候補の欄へ、まだ確定ではない印を付けた。


【主人公ステータス】

対象:夜凪カイ

種族:七紋人

個体ランク:B

レベル:Lv.8

HP:320/320(ランクB)

魔力:430/430(ランクB)

攻撃:136(ランクB)

防御:119(ランクB)

速度:150(ランクB)

技能:基本剣術(ランクB・Lv.8)/黒影歩(ランクB・Lv.7)/迅雷駆(ランクC・Lv.2)/鏡砕返し(ランクC・Lv.1)/焔皇砕(ランクD・Lv.1)/蒼天鎧(ランクC・Lv.2)/虚空掌握(ランクD・Lv.1)

状態:通常安全出力B・条件付き上限A。第51〜58話は実戦C〜B級相当だが、事務上の評価・所属とは区別する。

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