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落第剣士が古代魔法に巻き込まれ一億年修行 ~七王の技を宿して世界を救う~  作者: バナナ


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第39話 白い牙の支え方

夜の訓練場で、獅堂ガロウは一人、標的へ拳を向けていた。

 右肩には包帯が巻かれている。医療班からは大出力禁止を言い渡された。それでも仲間の技能値が上がるたび、自分だけが止まっているようで腹の奥が焼けた。

 「《白牙皇》!」

 白い圧力衝撃が標的を砕く。同時に右肩へ激痛が走り、膝をついた。

 「そこまでにしよう」

 入口からカイの声がした。

 ガロウは反射的に怒鳴った。

 「見てんじゃねえ! 帰れ!」

 カイは逃げず、砕けた標的と肩を見た。帰還前なら怯えて言葉を失った少年だ。今は静かだが、その目に憐れみはない。

 「痛いのを隠して強いと言われても、俺は信じない」

 憐れまないまっすぐな目が、ガロウの中に溜まっていた情けなさまで暴いた。

 「一億年も修行した奴に、置いていかれる気持ちが分かるか!」

 吐き出した瞬間、惨めさで胸が詰まった。

 カイは少し黙り、隣へ座った。

 「分かるとは言えない。でも七界で、俺は何度も運ばれた。立てなくて、師匠の背中に縛られた。支えてもらわなければ、一億年へ届く前に死んでいた」

 説得のために飾られた言葉ではないかと、ガロウは横目でカイの顔を探った。

 「慰めか」

 短い疑いに、カイは視線を外さず首を振った。

 「違う。支える方が弱いとは思わない、という話だ」

 訓練塔から、梁を模した長い鉄材が運び込まれた。レイガも来ていた。最初から二人の会話を聞いていたらしい。

 「白牙皇を前へ撃つな。梁の下から圧力を広げ、支えろ」

 技の向きそのものを変える命令に、ガロウは反射的に白い拳を握った。

 「俺の技は砕くための――」

 言い慣れた定義を、レイガの一問が途中で止めた。

 「誰が決めた」

 言葉に詰まる。

 レイガは砕けた標的の破片を一つ拾い、ガロウの前へ置いた。破断面は中央だけが白く、周囲には無数の細い亀裂が走っている。

 「お前の衝撃は一点へ届く前に周囲へ漏れている。肩の痛みを力で押さえるほど、漏れは広がる。敵だけなら倒せても、床、梁、隣の人間まで壊す」

 ガロウは反論できなかった。模擬戦で壁へ返った衝撃も、負傷した肩から出力が歪んだ結果だった。

 カイは梁の下へ白墨で十六個の点を打った。

 「全部を同時に押さなくていい。一打ごとに、圧力が薄い場所を俺が音で示す。ガロウは次の一呼吸でそこへ広げる」

 白墨の十六点とカイの剣を見比べ、ガロウの眉間に皺が寄った。

 「俺がお前の合図に合わせるのか」

 自分の間合いを預ける抵抗を、カイは無理に否定しなかった。

 「最初は。途中から、梁の沈みを自分で感じてほしい」

 ガロウは気に入らなかった。強い者は自分の間合いで技を放つものだと思っていた。それでも砕けた標的と痛む肩を見比べ、左拳を梁の下へ置く。

 「一回だけだ。役に立たなきゃ俺のやり方へ戻す」

 退路を残して出された合意に、カイはそれ以上条件を足さなかった。

 「それでいい。試して決めよう」

 梁が落下する。ガロウは下へ入り、衝撃を上へ放った。強すぎた圧力で梁が跳ね、横へ傾く。カイが剣の腹で軌道を逸らし、レイガの白壁が受け止めた。

 「失敗だ」

 レイガは容赦なく告げる。

 「砕く癖を残したまま支えれば、守る物ごと飛ばす」

 ガロウは歯を食いしばった。二度目は弱すぎ、梁が肩へ沈む。痛みで視界が白くなった。

 「やめるか」

 レイガの確認に、ガロウは白くなった視界の奥から顔を上げた。

 「やめねえ!」

 怒鳴に似た答えの横で、カイは梁の振動を剣の腹で測った。

 「なら、俺が時間を作る」

 カイが梁の横へ立った。基本剣術の一定した打ち込みを梁へ加え、振動を刻む。一打ごとに四歩一呼吸。ガロウはその間隔へ圧力を合わせた。

 二分。五分。八分。

 三分目、右端の白墨点が沈んだ。ガロウは反射的に強い衝撃を撃ちかけ、肩に走った痛みで止める。代わりに左足を半歩開き、腰から圧力を送った。梁は跳ねず、水平へ戻った。

 六分目には汗が顎から落ち、床へ黒い点を作る。白牙皇を薄く広げる操作は、全力で撃つより神経を使った。力を抜きすぎれば梁が沈み、焦って足せば反対側が浮く。何度も上下へ揺れ、そのたびカイの剣打ちが遅い側を知らせた。

 「右、半分。次は中央を保つ!」

 剣音に重なる合図へ、ガロウは反発を返しかけて梁の沈みを感じ取った。

 「分かってる! ……いや、今のは助かった!」

 強がりを言い直すと、不思議に呼吸が楽になった。八分目を越えた時には、剣音が鳴る前に梁の沈む方向を足裏で感じられた。

 カイの腕が震え始める。ガロウも肩が焼ける。それでも衝撃を前へ撃たず、梁の下面全体へ薄く広げた。

 「お前、もう限界だろ!」

 自分の肩よりカイの震える腕を先に見つけ、ガロウの声が荒くなった。

 「八分が前の限界だった。ここから先を、一緒に作りたい」

 十分快。カイの呼吸が乱れる。ガロウは自分の圧力だけで梁を支え、彼の負担を減らした。

 「打つな。今度は俺が持つ!」

 十二分の鐘が鳴る。

 梁は跳ねず、落ちなかった。

 ガロウは解除の瞬間にも気を抜かなかった。安全鎖が重量を受けたことを目で確認し、圧力を三呼吸かけて徐々に薄くする。急に手放せば梁が鎖へ落ち、反動で跳ね返るからだ。

 「保持終了。周囲、異常なし」

 自分の口から出た確認に、ガロウは少し驚いた。以前なら標的が壊れた音を勝利の合図にしていた。今は誰も傷つかず、梁が元の位置へ戻ったことが成功だった。

 レイガの合図で安全鎖が重量を受ける。ガロウは尻から床へ落ち、痛む肩を抱えて笑った。

 「見たか! 壊さず十二分だ!」

 カイも隣へ倒れ込み、息を切らしながら笑う。

 「見た。俺も連戦八分 -> 十二分。ガロウが支えてくれたから続いた」

 《白牙皇》E/Lv.2 -> E/Lv.3。攻撃力が増えたのではない。一点破壊しかできなかった圧力を、梁一本へ均して十二分支えた。

 ガロウは初めて、守るための強さを誇らしいと思った。

 レイガが五人分の試験票を掲げる。

 「明朝、十五分連続救助。五地点、補給一回、黒影歩一回。全員で完遂しろ」

 あと三分。今度は仲間全員で越える壁だった。

 治療棟へ戻る途中、ガロウは右肩の痛みを隠さず申告した。治療術師は驚いた顔をした後、攻撃出力を使わなかったため炎症は悪化していないと説明する。ただし十二分の保持は左腕と背中へ負担が移っており、翌朝まで冷却が必要だった。

 「技が上がったのに、休めってのか」

 不満を漏らすと、カイが隣の寝台から答えた。

 「上がったから休む。明日使うために」

 強さと休息を対立させない答えに、ガロウは隣の寝台へ顔を向けた。

 「お前、昔は助けられるのが嫌で黙ってただろ」

 見抜かれた過去に、カイは包帯の巻かれた腕を見下ろした。

 「今も、恥ずかしい時はある。でも黙って倒れたら、誰かが俺を運ぶ役を急に背負う」

 ガロウは天井を見た。強さは自分一人の所有物ではない。負傷も同じで、隠せば班全体の予定を狂わせる。

 「明日の俺は、梁と搬送を支える。殴る役は必要な時だけだ」

 新しい役割を口にしたガロウへ、カイは隣の寝台から笑った。

 「頼りにしてる」

 真っすぐな信頼を受け、ガロウは照れ隠しに寝台を軸ませた。

 「軽く言うな。俺は重いぞ」

 二人は笑った。

 セレスが持ってきた記録には、《白牙皇》の変化が図で示されていた。以前は前方へ尖った一撃。今回は梁の下面へ広がる平らな圧力。最大破壊力は増えていないが、守れる面積と維持時間が増えた。

 「強くなるって、数字がでかくなるだけじゃねえんだな」

 ガロウが呟くと、カイは一億年を思い返すように目を細めた。

 「師匠たちも、最後には同じことを言った。倒せる数より、帰せる数を増やせって」

 明日の十五分で、ガロウはその言葉を自分の力として証明するつもりだった。

 その日の最終測定で、カイは基本剣術と黒影歩を初めてB級域へ同期させた。《蒼天鎧》で梁の破片を受け、《鏡砕返し》で二つだけ軌道を逸らし、《焔皇砕》は三割の威力で寸止めする。見学席の生徒は歓声すら忘れ、教員が「生徒の到達速度ではない」と低く漏らした。レイガは全てを片手の白域で押さえ込み、「国家代表も十三欠月上位も、この程度では止まらない」と告げた。

 帰寮前、非番に入ったレイガが訓練具倉庫へ来た。何も言わず、傷んだ木剣の柄布を外し、新しい布を同じ幅で巻いていく。戦場で武器を預かる時と同じ、迷いのない手つきだった。

 ミナは火花杖の焦げを布で落とす。セレスは記録札の角を揃え、リゼットは蒼律具の留め金へ油を一滴だけ差した。アステリアの星光が、暗い棚の奥を静かに照らす。

 ガロウが右肩をかばいながら支柱具へ手を伸ばすと、カイが反対側を持った。

 「一人で持てる」

 手を離さないままの強がりを、カイも力で奪おうとはしなかった。

 「分かってる。でも、半分だけ頼んでほしい」

 ガロウは手を離さなかった。代わりに、重さを半分だけカイへ渡す。

 レイガは二人を見ても止めず、巻き終えた木剣を棚へ戻した。その隣には、ガロウの肩幅に合わせて短くした補助帯が置かれている。誰が直したのか、札はなかった。

 「先生、これ」

 肩幅に合わせられた補助帯を掲げると、レイガは札のない棚へ目をやった。

 「倉庫の備品だ。使える者が使え」

 ガロウは礼を言わず、補助帯を肩へ当てた。レイガも返事を求めない。力を奪わず、重さだけを分ける。昼に学んだ支え方が、生活の動作にも残っていた。

 寮へ戻ったガロウは、消灯前、右肩を固定したまま、左手で保持姿勢を三度だけ確認した。足幅、腰の高さ、圧力を抜く順番。攻撃の構えより地味で、鏡に映る姿も格好よくはない。それでも背後に人形を置いてみると、自分の大きな身体が盾として働く位置が分かった。

 「明日は、これで全員を帰す」

 四度目の保持姿勢を始めず寝台へ身体を預ける。休む判断まで含めて、今夜の訓練は成功だった。


【主人公ステータス】

対象:夜凪カイ

種族:七紋人

個体ランク:B

レベル:Lv.13

HP:238/254(ランクB)

魔力:262/286(ランクB)

攻撃:98(ランクB)

防御:87(ランクB)

速度:116(ランクB)

技能:基本剣術(ランクB・Lv.6)/黒影歩(ランクB・Lv.5)/迅雷駆(ランクC・Lv.1)/蒼天鎧(ランクD・Lv.1)/虚空掌握(ランクD・Lv.1)

状態:通常安全出力B・条件付き上限Aへ到達。ただし長期高出力と三技能同時使用は不可。

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