表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落第剣士が古代魔法に巻き込まれ一億年修行 ~七王の技を宿して世界を救う~  作者: バナナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/62

第32話 勝利条件は誰が決める

地下第一訓練場の中央に、レイガが一人で立っていた。

 その周囲へ救助人形が五体。出口は北、東、南の三か所。壁の砂時計が落ち切るまで十分。昨日までと違うのは、教師から勝利条件を与えられていないことだった。

 カイは開始線の内側で仲間を見た。ガロウは右肩を庇いながらも、レイガから目を外そうとしない。リゼットは出口と人形へ交互に視線を送り、セレスは記録板を抱えている。ミナは五体の人形を何度も数え、唇を引き結んでいた。

 戦えば、レイガには届かない。一億年分の剣理があっても、救助動作を混ぜた連戦では現世の脚が三分で重くなる。黒影歩は安全三歩を維持し、反動は九十秒へ縮んだ。それでも九十秒の空白を仲間に預ける事実は変わらなかった。

 「申告は開始前に一度だけだ」

 レイガの声が訓練場へ響く。

 「お前たちが勝利条件を決めろ。私が達成可能かどうかを判定する」

 与えられるはずの正解が来ず、五人の間に短い戸惑いが落ちた。

 「撃破だ」

 ガロウが即答した。

 「お待ちなさい。全員が出口へ到達することを条件にすべきですわ」

 リゼットが鋭く返す。セレスは記録板を胸へ寄せた。

 「十二秒周期の領域変化を持ち帰るなら、情報回収も価値があります」

 セレスの視線が数値板に向いたままなのを見て、ミナは救助人形を抱く腕に力を込めた。

 「人形はどうするの?」

 ミナの声が大きくなった。

 「置いていくなら、何のための救助訓練なのよ!」

 四つの正しさがぶつかった。誰も間違っていないからこそ、声だけが強くなる。

 カイの記憶には、似た場面が幾度もあった。七界では王たちが答えを示し、彼は正解を身につけた。今なら最短手順を一息で命じられる。けれど、それをすれば四人はカイの答えに従うだけになる。

 「ガロウ。先生を倒した後、何を守りたい?」

 倒す手順ではなく理由を問われ、ガロウの拳がわずかに緩んだ。

 「何だ、その聞き方は」

 カイは急かさず、その苛立ちの奥にある答えを待った。

 「撃破を選ぶ理由を知りたい」

 ガロウは苛立って舌打ちしたが、やがて人形へ目を向けた。

 「敵が立ってりゃ、運んでる背中を撃たれる。だから先に潰す」

 単なる好戦心ではないと分かり、カイは小さくうなずいた。

 「リゼットは?」

 名を向けられ、リゼットは背筋を伸ばして南出口を指した。

 「人が残っていれば勝利とは断定できませんわ。出口へ全員を出すべきです」

 明確な断定の後、カイは記録板を抱く少女へ視線を移した。

 「セレス」

 セレスは並ぶ数値と人形を一度ずつ見比べた。

 「同じ失敗を防ぐ情報が必要です。ただし、人形を捨ててまでとは考えていません」

 その条件付きの答えを受け止め、カイは最後にミナを見た。

 「ミナは、五体全部だね」

 先回の置き去りを思い出したのか、ミナの栗色の目が強く光った。

 「うん! それと、黒影歩を使ったカイも絶対に置いていかない」

 最後の一言で、胸の奥が熱くなった。自分は運ぶ側だけではない。動けなくなれば、救助される側になる。

 カイは四人の顔を順に見た。

 「全員を出口へ出す。救助人形五体と、反動で動けない仲間も含めて。一人も置いていかない。先生の撃破と記録回収は、その条件を邪魔しない範囲で行う。これでどうだろう」

 ガロウは不満そうに鼻を鳴らしたが、頷いた。リゼットも、セレスも同意する。ミナは強く「それがいい」と言った。

 レイガへ申告すると、左眉から頬の傷がわずかに動いた。

 「受理する。開始」

 ***

 白帝領域が開いた。

 北出口が白壁で閉じる。五人は東へ向きを変えた。ガロウが先頭で人形を担ぎ、リゼットが停止条件を表示する。セレスは領域変化と仲間の位置を二系統で記録し、ミナの火花が床標識を照らした。

 カイは剣を抜いた。レイガへ斬りかからず、進路へ伸びてくる白い拘束帯だけを短く払う。一振りごとに足を止める。基本剣術の連続運用は三分が限界で、救助動作を混ぜると二分しか保たなかった。

 一体目を東出口へ。二体目を運び始めたところで、床が傾いた。

 「南へ変更!」

 リゼットの声に全員が向きを変える。しかしレイガは南へ白壁を立て、東を再び開いた。出口を追えば、運搬距離だけが増える。

 「出口を追わない。中央で二体まとめる!」

 カイは人形の脚側を持った。腕が重い。七界なら指一本で運べた重量に、現世の肩が悲鳴を上げる。

 三分を過ぎる頃、呼吸が乱れた。保存された動作へ戻れば速い。だが長い歩幅を一度使えば、次の人形へ向かう脚が残らない。カイは剣を鞘へ戻し、短い歩幅で運搬へ専念した。

 四体目を南出口へ出した時、砂時計は残り十秒だった。

 最後の一体は北西。レイガとの間にある。

 ガロウが拳を握る。

 「俺が道を開ける!」

 踏み出そうとするガロウの肩を見て、カイはすぐに首を振った。

 「間に合わない。肩も使わせない」

 退けられたガロウの拳が震え、詰める声に焦りが滋んだ。

 「じゃあ諦めるのか!」

 カイは人形までの距離を見据え、敗北を選ぶのではないと伝えるために息を整えた。

 「違う。今日の限界を全員で見る」

 カイは北西へ走った。レイガへ剣を向けず、拘束帯を一つかわし、人形へ手を伸ばす。

 終了鐘が鳴った。

 指先は人形の袖へ触れたが、運び出せなかった。

 「四体救助。条件未達。お前たちの敗北だ」

 レイガの宣告に、ミナが悔しそうに目を潤ませた。ガロウは床を蹴り、リゼットは唇を噛む。セレスだけが震える手で結果を書いた。

 カイも悔しかった。一億年を生きたのに、十分で五体を救えない。その事実は鋭く胸へ刺さる。

 それでも、負傷者はゼロだった。黒影歩も使っていない。全員が自分で決めた条件のために最後まで動いた。

 「負けたけど、昨日とは違う」

 ミナが涙を拭きながら言う。

 「うん。次に削る一分が分かる」

 カイが答えると、レイガは初めて小さく頷いた。

 だが観客席の扉から監査官が姿を現した。銀縁眼鏡の奥の目は、四体の救助ではなく条件未達の文字だけを見ている。

 「最終模擬戦を明日に繰り上げます。次も敗北した場合、退学審議へ戻します」

 十分で得た手応えへ、翌朝までという重い期限が落ちた。

 カイは五体目へ触れたまま、すぐには立てなかった。息が乱れたせいだけではない。自分で決めた条件に、自分の手が届かなかった悔しさが重かった。ミナが差し出した手を握り、ようやく立ち上がる。ガロウは救助済みの四体を一列へ並べ、空いた一か所を睨んだ。

 「次は、あそこを空けねえ」

 低い声に、四人がそれぞれ頷いた。失敗は同じでも、今度は何を取り戻すべきかを全員が見ていた。

 治療室で身体確認を終えた後も、五人は帰らなかった。卓上へ救助人形を模した五つの木片を置き、四体までしか運べなかった手順を再現する。

 ガロウは最初、撃破を外したせいで遅れたと主張した。しかしセレスが時間記録を示すと、レイガへ向かわなかった分だけ負傷確認が二回増えていた。リゼットは出口を追って進路を変えた四十秒が無駄だったと認め、ミナは火花を高く上げすぎ、足元確認を遅らせたと話した。

 「俺は、みんなへ理由を聞くことに時間を使った」

 カイが言うと、リゼットは首を振った。

 「そこは削りませんわ。聞かなければ、開始してから命令が割れていましたもの」

 リゼットの言葉に、今日の長い問いかけにも意味が残った。

 「でも明日は、もっと早く聞く必要がある」

 問いを省くのではなく短くすると理解し、セレスが筆を取った。

 「なら質問を決めておきましょう」

 セレスが板へ三項目を書く。守る対象、撤退条件、技能を使えなくなった時の代役。全員が自分の答えを短く言う練習をした。

 最後にガロウが木片の一つを中央へ戻す。

 「四体で満足はしねえ。でも、次は勝手に先生へ突っ込む前に言う。俺が殴りたくなってるってな」

 不器用な宣言に、ミナが小さく笑った。敗北を自分たちで選んだ条件に照らして測れたから、翌日の恐怖にも具体的な準備を置けた。


【主人公ステータス】

対象:夜凪カイ

種族:七紋人

個体ランク:B

レベル:Lv.6

HP:252/254(ランクB)

魔力:283/286(ランクB)

攻撃:98(ランクB)

防御:87(ランクB)

速度:116(ランクB)

技能:基本剣術(ランクB・Lv.6)/黒影歩(ランクB・Lv.5)/迅雷駆(ランクC・Lv.1)/蒼天鎧(ランクD・Lv.1)/虚空掌握(ランクD・Lv.1)

状態:通常安全出力B・条件付き上限Aへ到達。ただし長期高出力と三技能同時使用は不可。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ