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落第剣士が古代魔法に巻き込まれ一億年修行 ~七王の技を宿して世界を救う~  作者: バナナ


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第22話 測れない生徒

帰還から一時間後、レイガは医療塔の隔離診察室にいた。

 地下封印機関室より三層上に造られた部屋で、壁も床も白い耐魔素材に覆われている。中央には診察台と訓練用の空間があり、その周囲を透明な隔壁が囲んでいた。

 隔壁の内側では、夜凪カイが椅子に座っている。

 煤は落とされ、破れた制服も簡易治療衣に替えられていた。外傷らしい外傷はない。だが、膝の上に置いた両手には力が入らず、指先がときどき小さく震えている。

 顔色も悪い。

 それでも、姿勢だけは崩していなかった。

 十六歳の生徒が検査を待つ姿には見えない。判決が下る場所を何度も経験し、その結果がどちらへ転んでも受け入れる準備を終えている者の座り方だった。

 レイガには、それが気に入らなかった。

 覚悟があること自体は悪くない。

 だが、夜凪の静けさには、本人の希望より先に周囲の判断を受け入れようとする癖が見えた。

 隔離、封印、拘束。

 何を命じられても、自分が危険なら仕方がないと考える顔だ。

 それは従順さではない。

 一億年という時間が、他人に期待する習慣を削り取った結果なのだろうと、レイガは見ていた。

 廊下から硬い靴音が近づいてきた。

 一定の間隔で、迷いがない。

 足音は診察室の扉の前で一度止まり、認証術式が短く鳴った。扉が左右に開く。

 入ってきた人物は、レイガから三歩離れた位置で立ち止まった。

 銀縁眼鏡。性別も年齢も判断しにくい整った顔。皺一つない濃紺の監査服。胸元には学園監査部の銀章があり、腰には武器ではなく、複数の数値板が収められていた。

 学園監査官。

 固有名を名乗らないこと自体が、監査部の慣例だった。

 個人として生徒を裁くのではなく、制度の執行者として判断する。その建前を守るため、審査中は名前を用いない。

 監査官はレイガにも、隔壁の中のカイにも挨拶しなかった。

 診察台横の数値板へ歩み寄り、表示された記録だけを見る。

 呼吸数。脈拍。筋力損耗。魔力出力。技能反応。帰還時の測定失敗記録。

 人間ではなく数値を先に見る。

 それが監査部のやり方だった。

 数値板の右端には、四つの照合欄が縦に並んでいた。白冠院は救助と帰還、黒帳院は記録の連続性、赫陣院は戦闘出力と停止再現、蒼廷院は命令下での連携を評価する。同じ帰還記録でも、四つの欄は同じ危険を見ていなかった。

 レイガは教員として生徒の教育と安全に責任を持つ。一方、監査部は学園全体の危険管理を担う。危険技能を持つ生徒に対しては、授業停止、封印具装着、退学勧告、場合によっては拘束措置まで命じる権限がある。

 制度上、監査官はレイガの上司ではない。

 だが、危険判定が発令された場では、教員の裁量を制限できる。

 レイガはその権限を何度も見てきた。

 必要な制度だとも理解している。

 だからこそ、数値だけで夜凪を処理させるつもりはなかった。

 監査官が隔壁へ近づいた。

 その瞬間、カイの右肩がわずかに下がった。

 力を抜いたのではない。

 いつでも立てるよう、重心を移したのだ。

 視線は監査官の手元、腰の数値板、扉の位置を一度ずつ確認している。敵意はないが、拘束される可能性を想定している。

 監査官はその反応を見ても表情を変えなかった。

 「夜凪カイ」

 呼名が隔離席の術式へ触れ、カイの足元だけが白く囲われた。彼はその狭い円から出ずに応じる。

 「はい」

 返答を認識した記録板に、地下機関室の項目が開いた。監査官は帰還直後の三つの発光記録を順に示す。

 「帰還時、未登録技能を複数使用したと報告されています」

 監査板では、「未登録技能」の文字の下に、黒、無色、蒼の反応波形が並んだ。どれも自分が選んだ結果だと認め、カイは否定を挟まなかった。

 「使用しました」

 使用の自己申告に照合印がつき、三つの空欄がカイへ向けて展開した。監査官が求めているのは弁明ではなく名称だった。

 「使用技能を述べてください」

 カイは黒い歩法、空間を止めた掌、身体を覆った蒼い層を発動順に思い返した。現世で使った長さまで削り、三つだけを列挙する。

 「黒影歩を一歩。虚空掌握を一歩一呼吸。蒼天鎧を一層です」

 三つの名称を照合するたび、台帳側には該当なしの赤線が増えた。監査官はその不一致を一つの告発として読み上げる。

 「いずれも学園技能台帳に完全な登録がありません」

 カイは「完全な登録がない」という指摘に、七界と現世の境を引き直した。技能の古さではなく、この身体で使った日を答える。

 「現世では、今日初めて使いました」

 記録板では「今日初めて」の今日だけが強調された。ならば技能そのものを得た時点は別にあると、監査官は質問を遡らせる。

 「習得時期は」

 カイは一拍置いた。

 「七界にいた間です」

 七界という回答の横に、現世時刻では記入不能の空欄が残った。監査官はそこへ入れる尺度を、本人の時間へ切り替える。

 「主観時間は」

 壁の時計は帰還から十二分しか進んでいない。カイはその秒針を見ず、七界で数えることをやめた年月を一つの概数へ畳んだ。

 「およそ一億年です」

 診察室に沈黙が落ちた。

 監査官は反応を示さず、数値板へ入力する。

 その態度を見て、レイガはわずかに眉を上げた。驚いていないのではない。驚きを判断材料へ混ぜない訓練を受けている。

 「現時点で提示可能な処置案を通告します」

 監査官は数値板を読み上げた。

 「第一案。危険技能保持を理由とする退学勧告。第二案。全身封印具を装着したうえでの長期隔離。第三案。技能構造が解明されるまで、監査部管理区画で拘束」

 隔壁の内側で、カイの指先が止まった。

 表情は変わらない。

 だが、脈拍表示が一段上がる。

 「異議がある」

 レイガが言った。

 監査官が初めて彼を見る。

 「白帝レイガ教員。あなたには意見提出権があります」

 レイガは外套の裾を椅子の脇へ払い、審査官の権限説明を最後まで聞いた。

 「意見ではない。審査手順の不足を指摘している」

 レイガは「意見」という枠へ収められた瞬間、提出用の椅子から立った。不足しているのは感想ではなく審査の工程だと、立場ごと突き返す。

 「不足とは」

 不足の中身を問われ、レイガは隔離円の中に一人で座るカイを顎で示した。処置案を三つ並べる前に聞くべきことが残っている。

 「本人の選択が一度も確認されていない。危険技能を持つことと、危険行動を選ぶことは別だ。白冠院の帰還評価は、最後に誰を連れて帰ったかまで見る」

 最後に誰を連れて帰ったかという評価軸を、監査官は地下機関室の被害記録へ切り替えた。反論の焦点を、選択から出力結果へ戻そうとする。

 「結果として地下機関室では規格外技能が使用されました」

 規格外の文字の隣には、搬送済み生徒四名の生存印が並んでいた。レイガはその印を指し、技能を使わなかった場合の結末を突きつける。

 「使わなければ生徒が死んでいた」

 四つの生存印を見ても、監査官は安全判定欄を開かなかった。救助の成功と再使用時の保証は別だと、審査側の線を守る。

 「安全性の保証にはなりません」

 保証にならないという語を、レイガは測定失敗の欄まで指で引いた。同じ一回を、救助だけ軽く、失敗だけ重く扱わせる気はない。

 「一回の救助が保証にならないなら、一回の測定失敗も危険認定の根拠にはならん」

 監査官の目がわずかに細くなった。

 レイガは続ける。

 「反復試験を要求する。本人がどの出力を選び、どの地点で停止できるかを測れ。保存されている技能の最大値ではなく、現世で本人が扱う値を確認しろ。赫陣院式の最大威力だけでは、生徒の判断は測れん」

 反復試験の提案に対し、監査官は保存領域のS級二種を拡大表示した。本人の停止判断より、存在する最大値を先に危険とみなす。

 「高出力技能が存在する時点で、封印措置は合理的です」

 封印措置の根拠が「存在」だけだと聞き、レイガは自分の教員章を卓上へ置いた。認定済みの高出力技能者を同じ論理へ乗せる。

 「存在だけで処分するなら、俺も封印しろ」

 監査官の目が教員章へ落ち、そこに刻まれた認定印で止まった。カイとの違いとして示せるのは、過去に審査を通った事実だった。

 「あなたは学園認定を受けています」

 認定印を盾にされ、レイガは古傷の残る手で章を裏返した。その印がなかった時代にも、目の前と同じ疑いを向けられていた。

 「認定前の俺を測った連中も、似たような顔をしていた」

 監査官は数秒黙った。

 レイガは視線を外さない。

 やがて、監査官が隔壁の操作盤に触れた。

 「限定的な再測定を許可します。ただし異常出力を検知した時点で即時中止。本人が停止命令に従わない場合、拘束術式を使用します」

 拘束術式の条件が告げられると、隔離円の外周に青い鎖紋が浮いた。レイガはその紋とカイの間へ立たず、まず本人が条件を選べる形を求める。

 「本人にも条件を説明しろ」

 説明要求を当然と返した監査官は、処置案の板をカイの正面へ回した。退学、封印、拘束の三案が、初めて本人から読める向きになる。

 「当然です」

 隔壁の内側で、カイがこちらを見ていた。

 助けを求める目ではない。

 自分の代わりに争っているレイガを、理解しようとする目だった。

 レイガは短く言った。

 「夜凪。お前が受けるか決めろ」

 カイは少し驚いたように瞬いた。

 それから、静かに頷いた。

 「受けます」

 受けると答えたカイの足は、命令線の外へ一歩も出ていない。レイガは従っただけの返事ではないか、声よりその姿勢を疑った。

 「命令されたからではないな」

 命令ではないと問われ、カイは拘束紋から測定用の木剣へ目を移した。知りたいのは処分の軽重ではなく、現世の手で止められる境界だった。

 「はい。自分が何を使えて、何を使えないのか、確かめたいです」

 レイガは、「使えるものと使えないもの」を自分で確かめるという答えに、木剣の柄をカイ側へ向け直した。試験を始める理由が、監査官から本人へ戻った。

 「なら始めるぞ」

 ***

 隔壁の床に、二つの測定円が浮かび上がった。

 カイは中央へ立ち、ゆっくり息を吐いた。

 身体はまだ重い。

 膝の震えは治まっていたが、力が戻ったわけではない。休息によって表面上の反応が落ち着いただけで、筋肉の深い部分には鈍い疲労が残っている。

 監査官は隔壁の外から説明した。

 「最初に、技能保有情報と現世出力を分離測定します。抵抗せず、呼吸を一定に保ってください」

 一定呼吸の指示に合わせ、カイは胸元の測定灯が一拍ごとに白くなる速さへ息を落とした。開始前の異常まで申告対象に含めるため、停止条件も口にする。

 「呼吸を一定にします。異常があれば、開始前でも止めてください」

 頭上から淡い光が降りる。

 カイは何も発動しなかった。

 七界で習得した剣技も、歩法も、身体強化も、すべて意識の奥へ沈めておく。ただ現在の肉体だけを測定器へ渡す。

 正面の数値板に、最初の表示が出た。

 現世通常安全出力――D。

 監査官の指が止まる。

 続いて、別の欄が明滅した。

 技能保存領域――判定中。

 測定光が強くなり、カイの意識の奥へ触れようとする。

 七界で積み上げた無数の動作が、わずかな刺激に反応した。

 一振りで終わる剣。

 一歩で距離を消す歩法。

 一呼吸で空間を押さえる感覚。

 それらを表へ出さないよう、カイはただ受け流した。

 数値板の文字が何度も書き換わる。

 G。A。S。SS。

 最後に、表示欄全体が白く染まった。

 保存技能――基本剣術と黒影歩がS級、迅雷駆・鏡砕返し・焔皇砕・蒼天鎧・虚空掌握がA級。断片形《天断》は特殊・ランク外・未完成。

 診察室の空気が変わった。

 監査官の無表情が初めて崩れ、銀縁眼鏡の奥で目が見開かれる。

 レイガは腕を組んだまま動かなかったが、傷のある左頬がわずかに引き締まった。

 観察窓の向こうでは、医療担当者たちが声を失っている。

 現世運用Gと、S級二種・A級五種の保存技能。

 同じ人間の情報として並ぶには、差が大きすぎる。

 「測定器の不具合ではありません」

 監査官が確認するように言った。

 「三系統で同一結果。保存領域にはS級二種・A級五種の技能情報が存在し、現世肉体の通常安全出力はD。条件付きではBへ到達。断片形《天断》はランク外です」

 監査官席がざわめいた。Dは決して弱者の数値ではない。入学直後の生徒が持つ値としては上位で、しかも木剣の停止誤差は熟練教員より小さい。主任監査官は二度測定値を見直し、それでも同じ結果が並ぶのを見て、初めて眉を上げた。

 「だから、最初の測定では矛盾したんですね」

 カイは数値板を見ながら言った。

 「あなたは、この状態を自覚していましたか」

 S級、A級、D、条件付きBが同じ板に並んでいる。カイは等級名ではなく、木剣を振った肩の重さと表示を照合して答える。

 「正確な等級は知りませんでした。でも、感覚はあります」

 感覚はあるという説明を、監査官は保存技能の使用可否へ読み替えた。赤い「S」の欄を示し、意味を狭く確認する。

 「技能を使用できないという意味ですか」

 カイは「使用できない」と括られ、木剣の柄から手を離した。できるからこそ危険なのだと訂正するため、首を横へ振る。

 「違います」

 カイは首を横に振った。

 「使えないのではなく、使えば周囲を壊します」

 監査官の目がカイへ向く。

 「周囲とは、設備ですか」

 設備だけを指した問いの向こうに、隔壁外のレイガが立っていた。カイは壊し得る範囲から人間も自分も除外しなかった。

 「設備も、人も、自分の身体もです」

 七界で身につけた技を、そのまま現世へ持ち込むことはできる。

 少なくとも、発動の入口には触れられる。

 だが、十六歳の肉体は力を通し切れない。制御できなければ技が外へ漏れ、制御しすぎれば身体の内側が壊れる。

 帰還直後の救助で使った三つの技能は、いずれも極端に範囲を縮めていた。

 それでも膝は崩れた。

 今必要なのは、大きな力を測ることではない。

 小さく終わらせる技術だった。

 監査官が訓練用の木剣を一本、隔壁内へ転送した。

 「基本剣術の反復試験を行います。百回。強化技能、特殊歩法、外部魔力操作は禁止。一振りごとに開始と停止を明確にしてください」

 カイは木剣を受け取った。

 軽い。

 七界で振った武器の多くよりはるかに軽いはずなのに、今の腕には十分な重さがあった。

 「途中で継続不能と判断した場合、自分で申告してください」

 自己申告を求められた時点で、右前腕には木剣八十振り分の熱が残っていた。カイは痛みを隠さず数えるため、測定灯へ一度視線を送る。

 「はい」

 足を開く。

 構えは学園で教わった基本形に合わせた。

 一振り目。

 木剣を正面へ下ろし、止める。

 二振り目。

 三振り目。

 保存された記憶は、より速く、より短く、より強い軌道を提示してくる。腕の角度をわずかに変えれば無駄が消える。腰を深く入れれば威力が増す。足を半歩滑らせれば次の攻撃へつながる。

 すべて捨てた。

 今は百回を終えるための剣だ。

 二十振りを越えた頃、右手の握りが重くなった。

 四十振りで呼吸が深くなる。

 六十振りを過ぎると、木剣を止めるたびに前腕が震えた。

 「七十七」

 監査官の声が聞こえる。

 「七十八」

 カイは振る。

 「七十九」

 剣先を止める。

 「八十」

 振り下ろした瞬間、右肩に痛みが走った。

 鋭い痛みではない。筋力が限界へ近づき、関節を支え切れなくなっている。

 カイは木剣を下ろした。

 「中断しますか」

 監査官が尋ねた。

 「十秒、ください」

 八十振り目を止めた右手は、柄の上で細かく震えていた。十秒という申告が継続不能か回復待ちかを見極め、監査官は計時板を開く。

 「許可します」

 カイは目を閉じた。

 七界で使っていた基本の振りは、現世の基準では長すぎる。

 どれほど威力を落としても、身体の奥では次の軌道へつなぐ準備が始まってしまう。肩が疲れたのは、木剣の重さだけが原因ではない。無意識に、保存された連携を止め続けているからだ。

 ならば、軌道そのものを変える。

 七界の完成形を弱くするのではない。

 今の身体に合わせて、最初から短い剣を作る。

 カイは目を開けた。

 「続けます」

 八十一振り目。

 振りかぶる高さを下げた。肘を伸ばし切らず、剣先が有効範囲へ入った時点で止める。

 威力は落ちる。

 間合いも狭い。

 だが、肩への負担は明らかに減った。

 八十二。

 八十三。

 短い軌道を身体へ覚えさせる。

 七界の記憶は、そんな振り方では敵を倒せないと告げてくる。

 今は倒す必要がない。

 現世で振り終えることが目的だ。

 「八十九」

 肩は痛む。

 それでも、剣先がぶれなくなってきた。

 「九十」

 カイは、保存された完成軌道を意識から捨てた。

 正しい剣を振ろうとするのをやめる。

 十六歳の身体で可能な、不完全で短い現世型を選ぶ。

 九十一。

 九十二。

 呼吸一つに一振りを合わせる。

 九十五を越えた頃、右腕の感覚が薄くなった。

 九十八。

 九十九。

 最後の一振りを前に、カイは一度だけ木剣を下ろした。

 急がない。

 百回目だからといって、強く振る必要も、綺麗に振る必要もない。

 始めて、終える。

 それだけでいい。

 「百」

 木剣を上げる。

 短く振り下ろす。

 剣先が胸の高さへ届いたところで、カイは息を吐いた。

 止まった。

 肩も、肘も、手首も、次の軌道へ流れない。

 木剣は空中で静止し、一拍後、ゆっくり下ろされた。

 数値板が更新される。

 基本剣術――G/Lv.9。

 短軌道運用――可能。

 カイはその表示を見て、ようやく肩の力を抜いた。

 大きな進歩ではない。

 一億年の記憶から見れば、あまりにも小さい。

 だが、この身体で初めて作った剣だった。

 監査官は記録を長く見つめたあと、隔壁の解除操作を行わなかった。

 「審査結果を暫定通告します」

 カイは木剣を床へ置く。

 「夜凪カイの隔離措置は継続。ただし、即時退学、全身封印、監査部拘束の決定は保留します」

 レイガが尋ねる。

 「授業は」

 隔離継続の文字が消えないまま、レイガの問いだけが授業欄へ移った。監査官は未解除の隔壁を示し、通常復帰には線を引く。

 「通常復帰は認めません」

 ミナたちの顔が脳裏に浮かび、カイの胸が少し沈んだ。

 監査官は続けた。

 「ただし、教員立ち会いの反復試験を受ける権利を認めます。規定回数の安全停止を確認できた場合、段階的な授業復帰を審査します」

 完全な自由ではない。

 それでも、選択肢は残った。

 「受けます」

 カイは答えた。

 「何度でも」

 何度でもという決意に対し、監査官は測定予約欄を医療塔の管理下へ切り替えた。疲労した本人の熱意だけで回数を増やさせないためだ。

 「試験頻度は医療担当者が決定します。無断訓練は禁止です」

 無断訓練禁止の文字を見て、レイガはカイの震えが残る右手を確認した。監査官が再試験を急かす様子もない。そこで初めて、短く了承を返す。

 「分かりました」

 監査官が新しい記録欄を開く。

 そこでレイガが眉を寄せた。

 「まだ何かあるのか」

 審査を閉じるはずの板に新しい欄が開き、レイガの手が退室扉から離れた。地下機関室に関する追記だと察し、眉を寄せる。

 「地下封印機関室にいた生徒たちの証言と技能反応に不一致があります」

 カイは「生徒たち」と複数で告げられ、自分の数値から視線を外した。隔壁の向こうにいない四人の顔が浮かび、問いが漏れる。

 「不一致?」

 不一致の欄へ、帰還前と帰還後の五本の波形が重ねられた。自分だけでなく周囲四名の線まで変わっているのを見て、カイは続く説明を待つしかなかった。

 「夜凪カイの帰還前後で、周囲四名の魔力波形にも変化が記録されています。〈テオクラスト〉の装置に接触した影響を否定できません」

 カイは顔を上げた。

 監査官は感情を交えず、四つの名を読み上げた。

 「ミナ。セレス。リゼット。ガロウ」

 数値板に四人の記録が並ぶ。

 「以上四名全員に、技能監査を命じます」


【主人公ステータス】

対象:夜凪カイ

種族:七紋人

個体ランク:D

レベル:Lv.2

HP:136/138(ランクD)

魔力:109/112(ランクD)

攻撃:48(ランクD)

防御:41(ランクD)

速度:55(ランクD)

技能:基本剣術(ランクD・Lv.1)/黒影歩(ランクD・Lv.1)

状態:帰還後の測定段階。無位・未登録だが、通常安全出力D・条件付き上限Bで運用する。

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