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落第剣士が古代魔法に巻き込まれ一億年修行 ~七王の技を宿して世界を救う~  作者: バナナ


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第20話 修行を終えた俺

帰還門を越えた夜凪カイは、星環学園地下の封印機関室で、冷たい石床へ膝をついた。

 背後では七界転輪機ヘプタ・オルビスの最後の輪が減速している。正面十二歩には白帝領域の二層障壁。その内側で、ミナ、セレス、リゼット、ガロウが待っていた。

 ミナは七つ目の輪を数えていた姿勢のまま、煤けた顔をこちらへ向けている。セレスは抜き身の剣を持ち、ミナの右隣。リゼットの手には、非常扉の留め金を切った細身剣が残っていた。ガロウは右腕を力なく下げ、傷めた肩を左手で押さえている。

 四人の頭上には、保守通路から斜めに突き出した巨大な石梁が白い光で停止していた。

 カイの目的は、まず自分の身体状態を把握し、全員を安全に訓練場側へ戻すことだった。

 一億年ぶりに仲間へ会えた。今すぐ名前を呼びたい。抱きしめたいほど嬉しい。それでも、十六歳の身体に何が起きているか分からないまま動けば、目の前の人たちを巻き込む。

 カイは呼吸を整え、魂へ刻まれた七つの王印を一つずつ確認した。

 肺が小さい。心臓の拍動が速い。筋肉も骨も、七界で技法を完成させた身体とは違う。七重の封印が、過剰な出力を肉体へ流さないよう閉じていた。

 意識の中には、七界内で到達した試験記録と、十六歳の現世肉体で今すぐ安全に使える出力が、減算ではなく別列で並んだ。七界内試験値は保存層に残り、帰還や封印によって失われていない。

 黒影歩・連続安全歩数 七界内試験値:1000歩|現世安全出力:3歩

 迅雷駆・連続安全初動 七界内試験値:100回|現世安全出力:条件付き1回

 鏡砕返し・反転上限 七界内試験値:自重10人分|現世安全出力:自重1人分

 焔皇砕・集束維持 七界内試験値:100呼吸|現世安全出力:条件付き1呼吸

 蒼天鎧・安全展開層 七界内試験値:100層|現世安全出力:1層

 虚空掌握・安全半径 七界内試験値:10歩|現世安全出力:1歩

 虚空掌握・安全維持 七界内試験値:10呼吸|現世安全出力:1呼吸

 天断・対象条件 七界内試験値:帰還経路の一条件|現世安全出力:通常発動不可

 黒影歩は安全三歩。迅雷駆、鏡砕返し、焔皇砕は条件を限定すれば一度だけ。蒼天鎧は一層。虚空掌握は半径一歩を一呼吸。十六歳の肉体でも通常D、条件が揃えば一瞬だけBへ届く。学園生としては十分に規格外だが、耐久と魔力量に対して同時処理と連携だけが追いつかない、ひどく偏った状態だった。

 第七だけはさらに厳しい。七界と現世の双方が対象を一つへ固定した帰還時のような例外を除き、今の肉体では断片形《天断》さえ通常発動できない。完全な《天断終界》は前六技法と仲間の合意が必要で、一度終わらせた因果へカイ自身も戻れない。

 「カイ!」

 ミナが障壁へ駆け寄った。

 その声に胸が熱くなる。同時に、頭上で石の軋む音がした。

 帰還門を閉じるため、レイガの白帝領域が転輪機側へ集中する。保守通路の梁を支えていた白い光が薄れ、長さ十歩を超える石梁が数寸落ちた。

 真下には四人がいる。ガロウは右肩を負傷し、もう受け止められない。リゼットの細身剣では石梁そのものを砕けない。セレスがミナを連れて右へ抜けても、足元には非常扉の破片があり、二人分の移動には時間がかかる。

 問題は梁を破壊することではなく、四人を落下線から外すことだ。

 カイは安全値と位置を照合した。

 黒影歩三歩なら、ミナの前へ入り、石梁の死角へ回り込める。虚空掌握一歩、一呼吸なら、石梁全体は止められないが角度を数度変えられる。蒼天鎧一層なら、砕けた小片だけは防げる。

 一人では足りない。

 以前のカイなら、できないと知られるのが怖くて黙って飛び込んだ。同じ圧力の中で、今は違う選択をした。

 「先生、梁を一呼吸だけ遅らせてください!」

 カイが必要な時間を区切ると、レイガは崩落へ片手を向けた。

 「一呼吸、保つ!」

 白い力が梁を押し返す間に、カイは仲間それぞれの位置を見切る。

 「セレス、ミナを右へ。破片を飛び越えず、剣で外へ払ってください。リゼットはガロウの左へ入って、細身剣の柄を支えに身体を引いて。ガロウ、右腕は使わないでください!」

 指示を受けた四人の視線が交わり、動線が一つに揃った。

 「了解。破片幅を確認しながら右へ移動します」

 セレスが即答し、剣の腹で足元の石片を横へ払う。リゼットは細身剣を鞘へ収め、鞘ごと床へ突いて支えを作った。左肩をガロウの脇へ入れ、負傷した右側へ触れないよう身体を引く。

 「指図は好みませんけれど、判断は適切です。今は従いますわ!」

 恐怖で声が裏返っていた。それでも足は止まらない。

 レイガの白い光が石梁へ絡む。落下速度が一呼吸だけ鈍った。

 カイは三歩を一息で踏み込んだ。

 第一技法・黒影歩。

 安全値どおり三歩でミナの前へ到達し、石梁の落下線へ身体を差し入れる。痛みは走ったが、脚は止まらない。見守っていた生徒には最初の一歩しか見えず、ガロウが目を見開いた。

 「三歩だ。目より速い。だが脚が悲鳴を上げてる」

 リゼットも返事を忘れていた。帰還前なら教室の端で戸惑っていた少年が、上級生でも追えない歩法を、周囲を巻き込まず使い切った。その事実に、驚きと安堵が同時に胸へ押し寄せていた。

 基本剣術の摺り上げで、石梁の角へ刃を当てる。砕かず、重心をずらす。

 だが梁は予想より重かった。剣が押し戻され、落下線がまだガロウの左脚にかかっている。最初の仮説だけでは足りない。

 「訂正、落下線が左へ半歩残っています!」

 セレスの声で位置を確認する。

 カイは計画を変えた。

 半径一歩だけ虚空掌握を開く。石梁全体を握らず、剣と接している角の落下方向だけを横へ曲げた。

 一呼吸。

 頭の奥が焼け、鼻から血が落ちる。表示された安全限界と同時に手を開く。十一呼吸どころか、今は二呼吸目へ入れば神経が切れる。

 「今です。下がって!」

 セレスがミナを抱えて右へ抜ける。リゼットは細身剣の鞘を軸にガロウを引き、二人で障壁の端へ転がった。

 カイは蒼天鎧を一層だけ広げた。

 石梁が床へ激突する。轟音と粉塵が機関室を満たし、飛び散った石片が一層の膜へ当たる。百層あった七界の防御とは違い、薄膜は三つ目の破片でひび割れた。それでも四人へ届く小片を弾き、数秒で消えた。

 全員、生きている。

 安全値は机上の数字ではなく、救助の結果と一致した。

 黒影歩は三歩で止めた。虚空掌握は半径一歩、一呼吸で切った。蒼天鎧は一層だけ。迅雷駆、鏡砕返し、焔皇砕、天断は使わなかった。使える技を全部重ねるのではなく、必要な分だけ選んだから周囲を壊さずに済んだ。

 成功を確認した直後、カイの右膝が崩れた。掌の皮膚が裂け、剣の柄を血が伝う。

 「カイ……?」

 ミナが目を見開いている。喜びと恐怖のどちらを先に出せばいいか分からない顔だった。

 セレスは剣を下ろせず、倒れた石梁とカイを交互に見た。リゼットは細身剣を抱え直し、ガロウは負傷した肩を庇いながら立ち尽くしている。

 「黒影歩三歩、虚空掌握一歩一呼吸、蒼天鎧一層。表示値と結果が一致しました。……本当に、カイなんですね」

 以前なら、その視線に耐えられず俯いていた。カイは立とうとして、脚が動かないと理解した。

 「先生。肩を借りてもいいですか」

 差し出された頼みを聞き、レイガは迷わず隣へ腰を落とした。

 「来い。俺が支える」

 レイガの腕が背中を支える。強い人に助けられることは、弱さの証明ではない。次の判断を間違えないための選択だ。

 カイは四人へ顔を向けた。

 「ただいま」

 静かな声だった。

 笑おうとすると、目の奥が熱くなった。達観したわけではない。一億年ぶりに仲間の顔を見れば、泣きたくなる。ミナが駆け寄って制服を掴んだ瞬間、カイの涙も頬を伝った。

 「遅いよ……っ。急に消えて、呼んでも返事しなくて……!」

 ミナは怒っているのか泣いているのか分からない声で、胸を一度叩いた。

 「ごめん。俺には長すぎて……でも、帰ってきた」

 胸を叩かれた痛みより、触れられる距離へ戻った実感が先に込み上げる。

 「長すぎる、ですって? 現世では十二分よ。……こほん。まず、その隔たりを説明なさい」

 リゼットの声は尖っていたが、細身剣を握る指が震えていた。

 「十二分……」

 カイはその隔たりを受け止めた。

 現世では十二分。カイにとっては一億年。すぐに全てを説明することはできない。それでも、隠したままでは一緒に戦えない。

 「話したいことがある。七つの世界で何があったか、この身体で何ができて、何ができないか。俺一人では判断できないことも含めて、みんなに聞いてほしい」

 セレスが剣を鞘へ戻した。

 「観測上、以前の君ならその頼み方をしませんでした」

 セレスは責める口調ではなく、変化を確かめるようにカイを見る。

 「頼めなかった。断られるのが怖かったから」

 昔の自分を認める声に、ミナの掴んだ制服がわずかに揺れた。

 「今は?」

 仲間たちが答えを急かさず待つ中、カイは一度息を整える。

 「今も怖い。でも、黙って巻き込むほうが嫌だ。話して、一緒に決めたい」

 ミナが涙を拭き、制服を掴む力を少し緩めた。リゼットは咳払いをして鼻をすすったことを隠し、ガロウの左側へ立ち直す。ガロウの大きな手が、壊れ物へ触れるようにカイの背中へ置かれた。

 「帰ったな。まず食え。話はそれからだ」

 短い言葉と背中の重みが、ガロウなりの承認だった。

 機関室の奥で、拘束された神座解体結社〈テオクラスト〉の術者が笑った。

 「選定者が戻ったか。ならば、次はお前が神座になる」

 レイガの白い圧力が男の声を止める。

 言葉は残った。結社は転輪機を奪うだけでは終わらない。帰還したカイ自身を狙う理由が生まれている。

 カイは仲間たちを見渡した。

 「七重の封印を一つずつ確かめて、この身体を鍛え直します。それと、結社が何を知っているのか、みんなと調べたい」

 一億年の修行を終えたからこそ、独りで答えを決めない。

 現世での最初の選択は、限界を開示し、助けを借り、新しい責任を仲間と分けることだった。

 その先では、七王を宿す少年を巡る新しい戦いが、すでに動き始めていた。


【主人公ステータス】

対象:夜凪カイ

種族:七紋人

個体ランク:D

レベル:Lv.3

HP:116/120(ランクD)

魔力:90/96(ランクD)

攻撃:42(ランクD)

防御:35(ランクD)

速度:48(ランクD)

技能:基本剣術(ランクD・Lv.1)/黒影歩(ランクD・Lv.1)

状態:第一覚醒直後。保存熟練度は高いが、現世では七重封印のため通常安全出力D・条件付き上限B。

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