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異世界人材派遣センター 転生窓口の輪廻  作者: 七来夕


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2. 夢と現実の異世界転生


 眼前に広がる光景は本当に現実なのだろうか?


 どこまでも続く真っ白な空間。


 先程、俺に平手打ちをかましたであろうそいつは、いつの間にか椅子に腰掛けていた。


 それは少女だった。


 絹のような長い銀髪に宝石のような紺碧の瞳。


 その人間離れした美貌には見た目とは裏腹に、幼さを感じさせない雰囲気があった。


 このまま成長すれば、将来はアイドル顔負けの絶世の美女になるだろうと容易に想像できた。

 

「初めまして、御崎騎士(おさきないと)さん。異世界人材派遣センターへようこそ」


 少女に見惚れていると名前を呼ばれてハッとする。


 そして最初は気付かなかったが、現実では無視出来ないモノが目に入る。


 背中から生えている純白の一対の翼。


 頭の上には輝く光輪。


 その姿は正にイメージ通りの天使の姿そのものだった。


 最初はこれは夢だと疑った。


 しかし、さっき食らった平手打ちの痛みが、否が応にもこれは現実だと主張していた。


「私はリンネ、女神です。貴方は残念ながら——」


 天使ではなく女神だったらしい。


 いや、そんなことよりさっきの言葉は聞き間違いではないだろうか。


 たぶん、いや、絶対間違いない。


 非現実的な状況だからこそ俺には分かる。


 数多の漫画を読んできた俺には分かるのだ。


 そう、これはつまり——。


「異世界転生イベントキタアァァァア!」


 喜びのあまり思わず奇声を上げてしまったが仕方あるまい。


 なんせ夢にまで見た異世界転生である。


 死んで初めて夢が叶うとは、皮肉な話だが。


 目の前の美少女――いや、女神は呆れたような顔でこちらを見ている。


 しかし、その冷ややかな視線など気にならないくらいに俺のテンションはぶち上がっていた。


「はいはい、落ち着いてください、御崎騎士さん。まずは説明から始めますので――」


「わかってます! チート能力ください! 剣の才能! 魔法の才能! あと美少女とのハーレム展開も!」


「いや、だから説明を――」


「俺、絶対に異世界で無双しますから! 勇者になって魔王を倒して、美少女達と結婚するんで!」


 女神様が何か言おうとしているが、そんなの関係ない。


 だって俺はもう決めたんだ。異世界で新しい人生を始めるって。


 前世では何もできなかった。でも今度こそ、今度こそは――。


「ですから、あなたの生前の行いを計算すると、転生ポイントは二十三ポイントしかなくて――」


「二十三ポイント? それって多いんですか⁉︎ じゃあチート能力三つくらいいけます⁉︎」


「全然足りません。転生ポイントは最低100ポイントないとスキルの付与は――」


「は? 意味わかんないんですけど! 俺、トラックに轢かれて死んだんですよ!?

テンプレ通りじゃないですか! なのにチート能力なしとか、ふざけんなよ!」


 女神は深く溜め息を吐いた。


 なんだ? その態度。こっちは被害者だぞ?


 しかもなんだよ、転生ポイントって!


 どうして他人に自分の人生を評価されないといけないんだ?


 沸々と納得のできない苛立ちが込み上げてくる。


「まずは落ち着いて聞いてください。

あなたには最低保証として『格の維持と生存可能世界への転生』が約束されています。これは――」


「ちょっと待て! 格の維持? はよく分からないけど生存可能な世界への転生って当たり前じゃないのか?」


 話を遮ったからか、再度、深い溜息が女神から零れる。


 溜息を吐きたいのはこっちの方だ。


「異世界転生するだけなのに説明ばかり。


俺が知ってる異世界転生モノでそんな面倒な手続きなんてなかった。だいたい──」



「──少し、黙りましょうか」



 言葉を遮られ、背筋に悪寒が走る。


 女神の雰囲気が変わった。


 少女の姿をしているから、勘違いしていた。


 目の前にいる少女が、自分とは次元が違う存在なのだと、認識を改めさせられる。


「いいですか? 私は転生希望者に説明をするのが義務なので、説明をしているのです。


異世界転生希望者には貴方のような話を聞かない愚か者も少なからずいます。


最後まで話を聞かずに転生した人達がどうなったか……聞きたいですか?」


 聞きたくないよ、笑顔が怖いから。


 ちょっとテンションが上がり過ぎていて周りが見えてなかったかもしれない。


「では、まず貴方の転生ポイントでは最低保証しか受けられません。


最低保証とは先程言った通り、『格の維持と生存可能世界への転生』となります。


簡単に言えば、人ととして生存可能な世界へと転生する事です。


理解出来ましたか?」


 うん、とりあえず今と変わらないということは分かった。


 けど、それってつまり──。


「俺は特別な能力は授かれないって事?」


「そうです」


 無慈悲な肯定の言葉。


 彼女にとっては当たり前の事実なのだろうけど、俺にとっては大問題だ。


「それじゃあ異世界転生する意味がない! 俺にもう一度無為な人生を歩めと? 冗談じゃない!」


 何か、何かある筈だ!


 俺が異世界で自由を謳歌する方法が!


 頭を回せ! 物語の主人公ならこんな窮地乗り越えていくだろう!


「……どうにか能力を得る方法はないのか?」


 とりあえず、女神に聞いてみる。

 自分で考える前に分かっている奴に聞く方が効率的だ。


 女神は口元に手をやり、少し考える素振りを見せる。


「……あるにはありますが、オススメしません」


 ──ある。


 今あると確かに言った。


 この女神、情報を出し渋りやがった!


 言いたくないと言う事は、自分にとって不都合だからだ。


 俺の今後に関わる重要事項を勝手に制限するなんて何考えてんだ?


「あるなら教えてくれよ! ……俺は絶対に能力が欲しいんだ」


 俺の熱意に当てられたのか、女神は言いづらそうに口を開く。


「……最低保証を放棄することです。そうすれば能力を一つだけ与える事は可能です。


ただし、いいですか? 最低保証を破棄するということは——」


「能力が得られるなら問題ない! 俺は絶対に成り上がってみせる!」


 もし、本当に望み通りの能力が得られるなら、どんな場所で転生しても問題ない。


 英雄、発明家、もしかしたら神にだってなれる。


 まさに望むままの人生が送れるはずだ。


「本当に能力でいいんですね? 最低保証を放棄する意味が理解できていますか?」


 女神からの再三の忠告。


 正直鬱陶しい。


 さっさと転生して俺は新たな人生をスタートするのだ。


「分かってるさ。代償を払って能力を得る。至極単純な理屈だ」


 どうせ異世界なんてどこも似たりよったりだ。


 いつか異世界転生した時のために現代知識だってネットでちゃんと学んできた。


 異世界の未発達な文明でなら現代知識と能力で万事解決だ。


「——そうですか、分かりました。では、どんな能力がお望みですか?」


 能力は決まっている。


 もし異世界転生があったならどんな能力がいいか、ずっと妄想してたから。


「想像を実現する力。俺はそれが欲しい」


 色々考えたがこれが俺にとってベストだと思う。


 この力があれば何でも出来る。


 その世界にない物だって作れるし、状況に合わせて違う能力だって想像できる。


 その為に生前は知識を蓄えてきたといっても過言ではない。


 問題はこの能力が本当に貰えるのか。


 そこが問題だ。


 強力すぎるからやっぱ駄目、なんて可能性は十二分にある。


 なんせ転生ポイントなんてものがあるくらいだ。何かしらの制限付きでもおかしくない。


「想像を実現する力、ですか」


 女神は少し考えるように口元に指を伸ばし、こちらをジッと見つめてきた。


 少し欲張りすぎたか。


 そう思ったのも束の間、予想外の答えが返ってきた。


「いいですよ。では、能力は想像を実現する力ですね」


 そう言うと女神は空間から一枚の紙と羽付きペンを取り出す。


 それは中空で留まり、女神は何かを書くと俺に見えるようにその紙を動かした。


 それはまるで履歴書のようで、一番上の欄に俺の名前である御崎騎士(おさきないと)、その下に想像を実現する力と書かれている欄があった。

 

「これは一種の契約書です。貴方の経歴が記録され、転生後もどのような行動をしたのかがこれに記入されます。契約書に記載された内容は絶対で覆りません」


 説明を終えると女神は手元に紙を戻す。


 その女神の様子に俺は少し拍子抜けした。


 思ったよりすんなり許可が下りた。


 女神にとって大したことのない能力と判断されたのかもしれない。


 それともこの能力のヤバさを理解できる頭が足りないのか。


 まぁ許可されたなら問題ないだろう。


 過ぎたことは考えず先を見据えよう。


「では確認です。最低保証は放棄し、この能力で転生するで問題ありませんね?」


「いいですよ、放棄で! さっさと転生させてください!」



 ──この時、もう少し考えるべきだった。


 女神は何度も何度も警告していた。


 でも、俺は聞かなかった。


 だって、俺は主人公なんだ。異世界転生する主人公なんだから、きっと何とかなる。


 そう信じて疑っていなかったのだ。



「……わかりました。では、最後にこちらの契約書をよく読んでサインを」


 先ほどとは別の紙を差し出されるが、書類には長ったらしい注意文がずらりと書かれていた。


 昔からこういう利用規約みたいのはまともに読んだことがない。


 どうせ契約するのだから、読まなくても変わらないだろう。


 そう考え、俺は迷わずサインした。


 そして光に包まれる。


 ああ、ついに始まるんだ。俺の異世界ライフが。


 最後に聞こえたのは、女神の小さな呟きだった。


「……夢を見るだけなら自由よね」


 その意味を理解する間もなく、俺の意識は光の中に溶けていった――。


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