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異世界人材派遣センター 転生窓口の輪廻  作者: 七来夕


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2/7

1. ありふれた人生の最期はテンプレで


「——い。——きなさい」


 優しい女性の声に脳が揺らされる。


 まるで極上の子守唄だ。


 いつまでもその声に身を委ねたくなり、瞼が重くなる。


「——起きなさい。……起きないなコイツ」


 心なしか優しかった声に険が混じった気がする。


 ところで俺はどこにいるんだろうか?


 気になって目を開けると同時に平手が振り下ろされる。


「へばぁ⁉︎ 暴力反対!」 


 スパァン! と叩かれた頬から快活な音が鳴り響く。


 寝てる相手に平手打ちする人って本当にいるんだなぁ。

 

 そこで気づいた。俺って確か——。


「……さっき、死んだよな?」


 ***


 異世界に行きたい。


 朝早く起きて、仕事をして、遅くまでサービス残業した後はスーパーで買った半額弁当で腹を満たす空虚な日常。


 毎日毎日繰り返される首を真綿で締められるような現実はまるで地獄だ。


 嫌気が差してくる。


 そんな俺の唯一と言ってもいい楽しみは暇な時間に読む漫画だ。


 特に異世界転生モノにハマった。


 その多くが現代知識と神様に貰ったチートの能力で無双するチープな設定だが、それ位簡単な内容の方が仕事で疲れた頭にはちょうど良かった。


 いつしか俺はそんなご都合主義で彩られたファンタジーの世界に夢を見ていたのだ。


 とある日の帰り道。


 俺はいつも通りコンビニに寄って酒とツマミを買い、歩きながらスマートフォンで漫画を読んでいた。


 もちろん異世界転生モノの作品だ。


 導入はテンプレ通り、社会不適合のいわゆるニート主人公。


 死因はトラックで気がつくと目の前に巨乳で可愛い女神様。


 転生して始まる俺なんかやっちゃいました? からのヒロインを助けてハーレム展開。


 多少の違いはあれど、これぞ王道。


 数年で使い潰されたテンプレ展開だ。


 続きは家で読もうとスマートフォンから目を離すと強い光が視界を襲った。


「んなっ!?」


 突然のことに思わず手で視界を覆う。


 指の隙間から見えたのはトラックがハイビームでこちらに突っ込んでくる瞬間だった。


 ——あ、これは死んだわ。


 避ける間も無く、俺の体は宙を舞った。


 数秒の浮遊感の後、俺の体が地面に叩きつけられる。


 体は動かない。


 視界の端でひしゃげて中身が溢れる酒の缶が転がっていた。


 ……あぁせっかく買ったのに、勿体無い。


 そんなことを考えられるくらいには冷静だった。


 不思議なことに体に痛みはない。


「──リス……認、…シ!」


 誰かが何か言っているが上手く聞き取れない。


 感覚が麻痺しているのか、まるで夢の中にいるようだった。


 そういえば、人間は許容量を超えた痛みに対して脳が無意識に痛覚を遮断するという話を聞いたことがある。


 痛みは命を守るためのアラートだ。


 それが機能しないということはつまり、そういうことなのだろう。

 

 思えばしょうもない人生だった。


 何者にもなれず、何も残さず。


およそ俺という存在がこの世界で存在した証は何も残っていないだろう。


 二十代半ばで死ぬなんて考えたこともなかったし、いつかは可愛い彼女と無難に結婚でもするのだろうと思っていた。


 ……まぁ、一度も彼女なんて出来たことはないけども。


 正直、この世に未練はない。


 あ、いや、童貞だけは卒業したかったかも。


 まぁそれ以外は特にやりたいことがあったわけではないし、努力らしい努力はした覚えがない。


 ただ適当に勉強して、適当に就職して、適当に仕事をして、毎日を惰性に任せて生きてきただけだ。



『──あなたは異世界で生まれ変わりたいですか?』



 そんな声が頭の中で響いた気がした。


 ——あぁ、そうだな。


 せっかくトラックに轢かれて死んだのだから転生して異世界にでも行けないだろうか?


 剣と魔法のファンタジー世界。


 そこならきっと、頑張れると思うのだ。


 そうして俺、御崎騎士(おさきないと)の人生は終了した。


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