❂「Walking on thin ice」8/12
(くそっ……!)
エドゥの胸中に焦りが渦巻く。重く沈む心臓を鼓動が打ち付けるように脈打ち、手の震えは止まない。ずぶずぶと沈む砂地の不安定さが視界から遠ざかる世界をさらに混乱させる。
_/_/キング・オブ・フレイム・モンスターズ_/_/
ボォ!
エドゥは咄嗟に右手を大きく振り上げ、掌から紅蓮の炎を放った。それは夜空に伸びる小さな火柱のように、儚げに空を切る。だが、炎は砂嵐の猛烈な勢いに叩き消され、白い渦に溶け込んでいった。
(……仕方ない。少し痛いが、この砂嵐から一度抜けよう。)
ズサッ。
飛び込もうとした刹那、背筋を冷たい風が撫でた。
――いや、風ではない。複数の“気”が、砂粒のようにざらりと肌を擦っていく。
_/_/シナスタジア_/_/
視界に映る岩陰の輪郭が、突然色と匂いを帯びる。鉄錆の赤は苦味、夜闇の黒は湿った土の匂い。五感が交差するあの現象だ。
(これは……カリムでもナディアでもない!?)
気配を探るが、脳裏に浮かぶ人影に心当たりはない。
――だったら、一体誰だ?
固く握った拳に汗が滲む。跳ねる心音が耳奥で鐘のように鳴り続ける。
「おっ!? 客が来るとは珍しいな!」
「どうだい、兄ちゃん! 俺たちと一杯やらねぇか!」
振り返ると、青白いオーラをまとった男たちが岩壁の隙間から揃って現れた。
半透明の体が焚き火の残光を透かし、辺りの空気を白く凍らせる。息が喉元で霜になりそうだ。
この冷えは、生者のそれではない――亡者。エドゥは幾度も遭遇してきた存在。とはいえ、群れで現れるのは稀だ。
「おい待て、こいつは珍しいぞ。生者が迷い込んでやがる!」
「いや、少し違うな。どこか……混ざっている。」
わずか数秒で内側まで見透かされた。身の内側を手探りされたような居心地の悪さに喉が鳴る。震えを悟られぬよう背筋を伸ばし、声を絞り出す。
「君たちは……何者だ?」
亡者たちは胸を張り、かつての誇りを思い出すように肩で風を切った。
「俺たちは国王陛下の兵隊よ!」
「国王? アミラの部下か?」
「アミラ? ……誰だ、それは?」
首を傾げ合う彼らを見て、エドゥは合点がいく。
亡者に“時間”の流れは関係ない。ここは初代国王と神獣が争った伝説の地――。目の前の兵士たちは、女王アミラのはるか祖先の軍勢なのだ。
「まさか……君たちは神獣と戦って散ったのか?」
「昔の話さ。」
「懐かしいわい。国に迫る化け物どもを斬り伏せた日々よ。」
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