❂「Walking on thin ice」9/12
青白い鎧が遠い戦火の記憶を映し出すかのように淡く揺らめく。
夜風が砂粒を巻き上げ、星明かりを閉ざす。ほんの一瞬、彼らの輪郭が月光に浮かぶたび、霜の粉が舞うように儚くチラつく。
「良ければ……聞かせてくれないか。その戦いのことを。」
エドゥの胸の奥に芽生えたのは恐怖だけではなかった。
歴史の彼方へ消えた声を、今この場所で拾い上げられるかもしれない
――そんな奇跡への渇望。
「ぜひ聞いてくれ。過去の栄光の日々を。」
兵士の一人が岩に腰を下ろし、懐かしむように空を仰いだ。
残響のような吐息とともに、かつて轟いた戦鼓のリズムが静かに語られ始める。呻くように低く、だが確かに力強く。砂漠の夜はなお深く、蒼白い焔が輪になって揺れ、亡き兵たちの物語を照らし出していた。
§
まだ「ルマーヤ」という名すら存在しなかった、はるか古の時代。
今では果てしない砂の大海と化した大地には、当時、豊かな河川が蛇行し、崖を縫うように白銀の滝が幾筋も流れ落ちていた。
水音が昼の静寂を満たし、湿った大気には緑の香りが混じる。人々はその潤沢な水辺に集落を築き、川辺の台車や小舟で物資を運ぶことで生計を立てていた。
──「キシャアアア!!」
大地の上を重々しく這う音が響き渡り、乾いた空気が一瞬引き裂かれた。キャラバンを守る鎧色の隊列を、五体もの巨大なワームが取り囲んでいる。黒鉄の甲冑さえ簡単に噛み砕く、獰猛な牙と蠢く鱗の連なり。商人たちの顔には蒼白い恐怖が浮かび、手にした樽や袋を落として後ずさる。
「なんでこんなに……!」
「もう終わりだ! あいつら、やばいぞ!」
慌てふためく声に、遠くの水音さえかき消される。ワームの巨大な頭部がじりじりと接近し、口を大きく開けたその瞬間──目の前の一人が絶叫し、呑まれんとする寸前で、突如として大地が脈打った。
──「キュビーーズム!!」
厚い砂塊がうねるように集まり、二本の巨大な手となってワームを掴み取る。砂の指が肉を抑え、中空へと投げ飛ばす様は、まるで星屑を弾き飛ばすかのように軽やかだ。
「そら、とっとと行け!」
荒々しい声とともに、ワームを放り投げた男は、全身に日差しを浴びながらも影のように涼やかな瞳をしていた。長身だが筋肉質すぎず、不思議と周囲を威圧しない佇まい。その素朴な風貌からは想像もつかぬ力が、彼の手元に集中している。
「あぁ……助かった! お礼をさせてくれ。名前を聞かせてくれないか?」
「名乗るほどの者ではないが……名乗ろう。ザハール、ザハール=バディア。それが、俺の名だ。」
彼が後に砂の国「ルマーヤ」を建国し、王座に就くなど、誰にも、彼自身にも知る由はなかった。
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