❂「Walking on thin ice」6/12
「やっぱり、やられたフリして何か仕組んだんだな。」
男の唇が悔しげにゆがむ。
「ご明答デス!」
ミステリンは振り子をそっと懐に仕舞いながら、わずかに勝ち誇ったように呟いた。指先が触れた冷たい金属の感触が、彼の瞳にさらなる狂気を灯す。
_/_/催眠マジック_/_/
ミステリンが仕込んでいた細い振り子は、激戦の合間にその役目を終えた。ワーウルフの視界に微かな揺らぎを生じさせ、錯覚を与える仕掛けは完璧に機能していたのだ。
「くそ、待ちやがれ!」
ワーウルフは吠え声を上げ、地面を爪先で踏みしめた。足元の砂が凍ったように凍りつき、一瞬だけ時間が止まったかのような錯覚を生む。だが、踏み込むよりも速く、
ブロロロロ!!!
バギーのエンジン音が轟き、ミステリンとアイスマンはハンドルを叩いたままその場から飛び去っていった。砂煙を巻き上げて後ろへと滑り去る姿は、溶けた蜃気楼のように儚げでありながらも、確かな勝利の証を残していた。
「しまった……。」
ワーウルフの男、スヴェンはただ、その去り行くバギーを見送るしかなかった。胸の奥で弱い炎が燃え上がり、悔しさと共に冷たい決意が張りついた。
§
「幻覚系の能力か?」
バギーの荷台で息を整えながら、アイスマンは戦いの余韻を振り返るように呟いた。鼻先にはまだ、砂と
燃料の混じった匂いが残っている。
「そんな大層なものではないデス。今回は単純に、見えている景色を反転させただけです。」
ミステリンは肩越しに笑みを浮かべた。白い帽子の影から透ける瞳には、いくばくかの誇らしさとともに、ほのかな疲労がにじんでいる。
(それを“単純”と言い切れるのが、スゴイところだが……。)
アイスマンはミステリンを尊敬のまなざしで見つめた。頭の中ではすでに次のステージの準備が動き出しているが、今はまだこの勝利の余韻に浸りたい気分だった。
「しかし、よく俺が飛ばされる位置がわかったな。」
アイスマンは右手で額の汗を拭いながら言った。砂風呂でも入ったかのように顔にまとわりついた砂が、冷えた頰をべたつかせる。
「そっちは完全に賭けでした。あれほどの能力者であれば、必ず距離を取ってくるだろうと……。そう思ったんデス。」
ミステリンは視線を前方へ向ける。砂粒が夕日に照らされ、金と紅のグラデーションを帯びて揺れている。遠方にはわずかに隆起した岩山が浮かび上がり、戦いの舞台となったこの場所が、いかに過酷な環境であったかを物語っていた。
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