❂「Walking on thin ice」5/12
「こんなもので、俺を止められると思うな。」
ワーウルフの声が砂塵に溶けて低く響く。焦げた砂が脚元を跳ね返る中、彼の両脚が再び異様に伸縮を始めた。乾いた風が頬を撫で、陽光がまばゆい氷柱を揺らす。
グググググ……。
まるで機械仕掛けのように膨張と収縮を繰り返した足は、瞬時にスプリングの役割を果たし、
ビョーイン〜〜!!
氷柱を蹴り上げると、そのままワーウルフは空へと跳躍した。大気を切り裂くような速さに、周囲の砂粒が舞い上がり、日差しを受けて金色に輝く。
「な、何!?」
アイスマンの眼が一瞬で見失いかけるほどの速さだ。氷柱の頂点を軽々と越え、まるで重力の法則を逆撫でするように、男は頂点から滑り落ちるように着地した。
「くそ!」
アイスマンは慌ててバギーの方へと走り出す。砂の上を力強く蹴り出しながら、視界の隅に残るワーウルフの姿を捉えようとする。その胸を打つのは焦燥と、勝利ではなく「バギーを奪う」という目的の意識だった。別に目の前の敵を倒す必要などない。ただ、バギーが手中になれば、この不毛な戦いを早く切り上げられる――それだけの話だ。
「させるか!!」
男が舌打ちをあげながら突進してきた。彼の視線は怒りに燃え、燃え盛るような情熱がその体から迸る。アイスマンに襲いかかろうとしたその瞬間――
「ぐっ!!」
強烈な蹴りが背後から飛んできた。アイスマンが後方へよろめくと、バギーとは反対方向へと吹き飛ばされる。砂の熱が服越しにも伝わる中、全身が震えた。
「まずは厄介な貴様からだ。」
男は冷酷な声で呟き、重力など恐れぬかのように地面を蹴り返しながらミステリンに視線を向けた。陽光が氷柱に反射し、まるで刃光のように輝いている。彼の表情には一切の容赦がなく、まさに“天敵”と呼ぶにふさわしい威圧感だった。
「!?」
ワーウルフの男はそのとき、心の奥で違和感を覚えた。目の前に倒れているはずの敵――自分がたった今叩きつけたはずの存在が、一切動いていない。目を見開き、砂ごと掴み取るように息を飲む。
ワーウルフは軽く片足を振り上げ、ミステリンを蹴り飛ばそうとした。しかし――
――体をすり抜けた。
「な、なにっ……!?」
その足は、“そこにいるはず”のミステリンの身体をかすめるのみで、実体を捉えられない。足が砂を切る音だけが不気味に響き、ミステリンの心臓は跳ね上がった。
「あらら、もう気付かれてしまいましたカ。」
背後からひらりとした声がした。驚きのあまり身体が一瞬固まる。振り返ると、そこにはバギーの座席に身を沈めたミステリンとアイスマンがいた。砂煙の合間から見下ろす彼らの顔は、まるで長い時間をかけて練られた策略の成功を確信しているかのような余裕に満ちている。
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