✟「今にも零れ落ちそうな雨雲の下で……」3/4
ピザファットは雨粒を掻き分けていく。
(何だ?いっつも上手く歩けなかったのに……)
ピザファットはラルフの目の前にスイスイと歩いていく。
ラルフはゆっくりとした動きでピザファットの方を見ていた。
「おりゃあ!」
顔面に一発ぶち込む。
「もういっちょ!」
2発目も綺麗に入った。
ラルフの兜がへこんでいく。
さらにもう一発。
ガシッ
メーティスがピザファットの拳を掴んだ。
{凄い速さだ。だが、私にもそれぐらいの芸当は出来る。}
「くそっ!俺っちのスピードに対応しやがったのかよ!」
{随分、好き勝手やってくれましたね!}
ピザファットを引き寄せると今度はメーティスが顔面に一発ぶち込んできた。
{これが、偽物との違いだ!}
ピザファットの頭に強い衝撃が走る。
兜が割れた。
そのままメーティスがピザファットの首に手をかけその巨体を持ち上げる。
{終わりだ!}
グググググ
メーティスは手に力をこめた。
バキバキバキ
ピザファットの首から嫌な音が鳴る。
ピカーン
その時、不思議なことが起こった。
聖剣から大きな手が飛びだし、メーティスを殴り飛ばしたのだ。
{何ですか、この力は……}
メーティスは立ち上がろうとしていた。
次の瞬間、大きな手から激しい光の球が放たれる。
{この力、まさか!!うぉぉぉぉ!!}
メーティスは遥か彼方へと吹き飛ばされていった。
ピザファットは鎧を脱ぐ。
「やっべー、色んなことが起こりすぎてわっけが分かんねぇ!」
大きな手は聖剣の中へと戻っていく。
「おいおい、どうなってんだよ!一体よぉ!」
ピザファットは聖剣を叩いた。
「もしもーし、誰かいらっしゃいますかー?」
コンコンとノックするが、反応がない。
「まぁ、いいか。とりあえず相棒たちのところに戻るぜ!」
ピザファットはエドゥ達のところに戻った。
「マクシモヴィッチ!相棒!」
ピザファットが目にしたのは、エドゥが宮本にやられかかっているところだった。
マクシモヴィッチも倒れている。
ピカーン
再び聖剣から大きな手が出てくる。
それは先程と同様に光の球を出し、宮本を襲ったのだった。
「……何!」
宮本も遥か彼方へと吹き飛ばされた。
エドゥは唖然としている。
「今のは、何だ?」
「分からねぇ、聖剣から手が生えてきたんだよ!なに言ってるのか分かんねぇと思うけどよぉ。」
{俺様の声が聞こえるか……}
エドゥの耳に言葉が流れ込んでくる。
「今のは、その聖剣が喋ったのか?」
ピザファットは首を傾げる。
どうやらエドゥにしか聞こえないようだ。
{バーカ、剣が喋るかよ。察しのわりぃ、あんちゃんだな。}
「まさか、いや本当に……」
エドゥは声の主が何者かを理解した、が、それはイメージとかけ離れていた。
そうその正体は……
{俺様の名前はサンシャシャ、森の守り神だ。記憶しとけ。}
「嘘だろ……。」
「どうした相棒?」
エドゥはピザファットに事情を説明する。
「えぇ!神様ぁ!嘘だろ!相棒!俺っちが持ってちゃいけない奴だこれ!」
ピザファットは聖剣をエドゥに押し付けた。
{おい!ぞんざいに扱うな。頭がくらくらするだろうが!}
「あのぉ。どうして聖剣の中に……?」
{知りてぇか?どうしてもっていうならしょうがねぇ!}
「いや、別にそこまでは……」
{いやぁ、しょうがねぇ!どうしてもってなら!どうしてもってなら教えてやろう!}
サンシャシャが語りだす。
{いいか、この聖剣は今"山の老人"の呪いにかかっている。そのせいで徐々に寿命が短くなっていってるんだ!}
「教会の遠征軍が戦った時に呪いがかけられたんですか。」
{おぉ、良く知ってるじゃねぇか!その通りだ!俺様はその呪いを解くためにこの剣の中に入って治療してやってるんだ。}
「暗殺教団を倒すためにこの聖剣が必要なんです。どれくらいで治るんですか?」
{ガハハハ、勘違いするな。奴らを倒せるのは俺様の力だ。この剣の力じゃねぇ。}
「どういうことです?」
{いいか、俺様の能力は命を吹き込む能力だ。それ以上でも以下でもねぇ!つまり不死の存在に無理やり魂を与えることが出来るって訳だ!ここまでいいか?}
「はい……。」
{だからこのままでも奴らは倒せる。むしろ、今の状態じゃねぇと倒せねぇ。}
「つまり聖剣が修復される前に奴らを倒さないといけないわけですね。」
{あぁ、俺様だって暇じゃねぇんだ。聖剣が元の力を取り戻したら、直ぐにでもでていってやる。}
「分かりました。聖剣が治るまであなたの力を借りても良いですか?」
{好きにしやがれ、ただその棒きれを振り回すだけで俺様の力は発動する。だけどな……}
サンシャシャがしばらくの間黙り込む。
エドゥは急かすことなく次の言葉を待っていた。
やがて、サンシャシャの口が開く。
{約束しろ。この聖剣はカティーニャ以外で使わないと。}
「……分かりました。」
{妙に聞き分けが良いな!気に入ったぞ。小僧、名は?}
「エドゥ、エドゥ=ベレンです。」
{改めて名乗ろう、俺様は神獣、真神、御神犬あらゆる名前をもつサンシャシャだ。エドゥ、決して忘れるな、神との契約は神聖なものである。契約を破ること、それは死よりも辛い罰が下される。ゆめゆめ忘れるな。}
「はい、必ず守ることを誓います。」
聖剣からはそれ以上言葉はなかった。
「相棒?」
「ピザファット、この剣は俺が使ってもいいか。」
「おう。」
「よし、まずはマクシモヴィッチを助けよう。」
「あぁ!」
エドゥはマクシモヴィッチに剣を突き立てた。
マクシモヴィッチはすぐに元気を取り戻す。
「なんだ。生きているのか……。」
「話は後だ。一旦休憩できる場所に行こう。」
「あぁ、とりあえず元の小屋に戻るか。ナタリーの嬢ちゃんたちも心配しているだろうからな。」
「分かった。話ながら戻ろう。色々聞きたいこともある。」
3人は歩いていった。
「嘘だ。ラルフはともかく宮本までやられるなんて……なんだあの不確定要素は!このままじゃ!私は消されてしまう!」
1人残されたハルトムートの前に連絡用の機械兵が歩いてきた。
「これは、黄金卿の……!」
ハルトムートはボタンを押し、通信を開始する。
「ハルトムートか。今、ラルフと宮本の位置情報が大きく変わった。何があった。」
「はっ!聖剣まであと一歩のところまで来たのですが、思わぬ妨害にあってしまい!」
「言い訳はいい。今聖剣はどうなっている。」
「はい、エドゥ=ベレンという男の元にあります。」
「私は、失敗は許さないと言ったな。」
「はい、私一人でも聖剣を取り返して見せます!」
「出来れば良いがな。ハルトムート、君は中々優秀だと思ったんだが、最近はそうでもないのかもしれないな。」
「必ず、必ず聖剣を手に入れてきます。」
「これが、最後の連絡だ。意味が分かるな。」
ハルトムートの額から汗が流れていく。
「それじゃあ、期待せずに待っているよ。」
連絡が終わる。
ハルトムートは木に蹴りを入れた。
「くそっ!くそっ!私の完璧な計画が次々と壊されていく!」
「黄金卿、ギ・パングのことですが。」
一方、AH社本部の一室から連絡していた黄金卿は配下の戦闘員とあることを話していた。
「あぁ、どうなった。」
「はい。是非金を輸出してほしいとのことでした。」
「ふん。そうだろう、あの派手好きな馬鹿猿がこの輝きを前に冷静でいられるはずがない。」
「はい、それはもうキャキャと喜んでおりました。」
「警戒すべきはあの姫だな。」
「はい。能力者で間違いないと思うのですが、能力を誰も知らないとのことでした。」
「どんな能力だろうが構わん、じわじわとなぶり殺しにしてやる。」
真っ黒な野望の炎がそこにはあった。




