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電車内8

「俺たちがこっちに飛ばされてから、アリカの時計が正しければ、かれこれ四時間。どうも、救助に来るような見込みはなし。ここにいれば元の世界に戻れるというような保証もない。俺の考えとしては、やっぱり移動すべきだと思うな。あてはないけど、電車の中にいつまでもとどまっていてもどうにもならないし」


 俺の考えをまず、二人に伝える。おっさんがそれに反ばくした。


「危険じゃないかな・・・それも。だってここがどういう場所なのか、僕たちは全く情報を持っていないんだよ?もし、ここが本当に異世界なんだったとしたら・・・・もしかしたら人間なんか存在しない、異形の支配する世界ってことも有り得るわけだろ?とても人間が生きていくことができないような、過酷な土地だってことも考えられる。それだったら、万に一つでも、何かの拍子に元の世界に戻ることを祈って、ここに居座ったほうがいいと思うな。こっちに突然飛ばされたんだから、突然、戻されるってこともあるんじゃないかな・・・」


 ポジティブなんだか、ネガティブなんだかわからない意見をおっさんは述べた。あてもなく彷徨うのは危険だという、おっさんの言い分にも一理ある。しかしそんな、日和見的発想で現状が改善するとは思えない。


「そんなことじゃ、餓死しちまうのがオチですよ。こっから動くべきだと思う。そうすれば、情報収集にもなる、どうすべきなのか、見えてくるはずです。動かなきゃ何にも始まらない」


 少し、語気を強めて主張する。だが、おっさんも食い下がった。


「でも、君も見ただろう。窓の向こうの怪物を。あんなのが一歩外に出れば、うようよしているかもしれないんだよ。自殺行為だ、危険すぎる」


 おっさんの消極的な意見に、苛立ちを覚えた。気弱そうな顔をしているのに、意外にもこのおっさん、頑なだ。引き下がる気配はない。このままでは水掛け論になってしまい、きりがない。しかし、ここで意見を翻すのも、何だか癪にさわる。そもそも、おっさんの考えは、希望的観測に過ぎない。ただの絵空事だ。何か行動を起こさなければ、俺たちに未来はないのだ。


「あなたの意見も、十分、自殺行為だと思うけどな。戻れるかもしれない、なんて、何の保証もない空論にすがってもな」


 おっさんの顔が引きつる。生き死にがかかっているのだ、自然、言葉が乱暴になった。このままでは平行線だ。わかってはいるが、引けない。


「行動するべきだよ、自分たちで。運だのみじゃだめなんだ」

「君はわかってないよ、リスクはなるべく避けるべきだ。過度な冒険心は危険なんだ」

「ここに留まっておくことのほうがリスクでしょうが!」



 パン!と大きな炸裂音が電車内に響いた。一瞬、何の音かわからず、辺りを見渡す。すぐに音の正体はわかった。狭いスペースから移動し、俺たちを見下ろすように、長椅子に腰かけて様子を観察していたアリカが、両の手を叩き、音を鳴らしたのだ。


「もう・・・いきなり喧嘩?おとなしそうな顔してさ、二人とも意外に血の気が多いんだねー」


「いや・・・これは・・その」

 

 おっさんと俺、お互いが恥ずかしそうに口ごもる。


「ねえ、こっち来てあれを見てよ、お二人さん」


 アリカが手招きする。言われるまま、おっさんと俺はアリカの方へと寄っていった。


「窓の外だよ、ずっと奥。暗いけど、よく見ればわかるから」


 異形の怪物がいた方とは反対側の窓。アリカの指す方を凝視する。木。どういう種類の樹木なのかわからないが、特徴のあまり見当たらない、広葉樹とかそういった類のものに見える。それが乱雑に並んでいる。いや、よく見ると、それだけではないことに気付いた。樹林の一区画、不自然な空間がある。空間の下には、樹木が切り倒された跡。切り株があった。


「まさか、あれ・・・」


 おっさんが小さく驚きの声を上げた。


「あれってさあ、たぶん、伐採した跡じゃないかと思うんだよね。よく見てみるとわかるけど、すごく綺麗に切断されてるんだよ」


「つまり、それって・・・」


「うん、まだわかんないけど、人間か、それに近い知能を持ったような生物がいるってこともあるんじゃないかと思うんだ」

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