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電車内9

「近くに、もしかしたら人里があるのかもしれない・・・・」


 おっさんが俄かに期待をはらんだ声を上げる。アリカはそれに頷くことはせず、外の切り株に目をやった。


「わかんない。車みたいに便利な運搬機械があるんなら、逆に人里離れた場所に人工的な林を作ってるってこともあり得るし。でも、見た感じ、この辺はそんな気配しないよね。まさに、雑木林って感じ。あの一区画だけテキトーに切ってる感じを見るに、その時にいる木材を、その都度調達していった跡のような気がするんだよね」


「それはつまり、この周辺に人か、もしくはそれに近い何かが生活してる可能性が高いってことになるんじゃないかな・・・・?」


 うーんとアリカは唸り、首をひねった。


「だから、わかんない。ユースケはどう思う?だって、あんなイヌゴリラがいるような世界だしねー。すっごい硬い皮膚で、木なんかスパッと切っちゃえるような生き物だっているかもしれないし。考えるだけ無駄って気もするのよ」


 イヌゴリラという安直極まるネーミングセンスにはあえて突っ込まず、俺は自分の考えを言う。


「でも、ちょっとは希望が出てきたよ。少なくとも、ここから動く理由にはなるんじゃないかな」


 横目でちらりとおっさんの方に目線をやる。おっさんは渋い顔をしている。


「動かない理由にもなるよ。生活の痕跡があるんだったら、現地の人がこの辺を通るのを待つっていうのも手だ」


 頭に血液が昇る。思わず、胸元につかみかかろうと伸びた俺の手を、おっさんは急いで制した。


「ま、待って、まだ続きがある。そういう手もあるけど、僕だってそれが最善だとは思ってないんだ。ちょっとでもあてが出来たんであれば、そっちのほうにすがってみたくもなる。暴力はだめだよ、ユースケ君。僕は見かけ通り喧嘩が弱いんだ」


 体が、スッと冷えていく。確かに、暴力はだめだ。先ほどから俺は、何だか焦っている。この中で一番冷静さを欠いているのは俺かもしれない。客観的に自分が見えて、急に恥ずかしくなった。


「すいません・・・・なんか、俺・・・」


「そうー、喧嘩はだめよー。仲間なんだから、仲良くしましょうね、男の子たち。ほら見て?夜も明けてきたみたいだしさあ、陰気になるのはやめよう、ね?」


 おっさんと俺は、言われて外を見た。急速に景色が白んでいく。木々の間々から夜の重さが消えていき、視界が軽くなる。朝が来る。そう、予感させた。アリカの時計。つまり、俺たちのいた世界の時間で言えば、深夜四時。明けるにはいささか早い時間帯である。


「朝が来るのか・・・この世界にも朝はあるんだね・・・」


 おっさんはしみじみと言った。柔らかな光が、俺たちの身体をほぐす。夜明け。いつも特に気にすることもなかった、当たり前と思っていた現象が、今はとてもありがたいもののように感じられる。出口の見えない、袋小路の状況にあって、それはまさに希望そのものだった。


「行こう・・・・ここから出よう」


 俺は改めて、ゆっくりとそう言った。


 

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