17,神威
シアと小太郎はガッツが飛んでいき、火喰鳥たちも飛び去ったのを確認してから街に戻り、冒険者ギルドへと赴いた。先程と同じように小太郎を外に待たせてから冒険者ギルドの扉を開けて中に入ると、それまで雑然としていた冒険者たちが一斉に二手に別れた。シアは目の前に出来た一本道をそのまま通り抜け、ギルド長を呼び奥の部屋に入ると報告をはじめた。
「すると、その腕輪が赤龍の魔力を吸い取っていたのか」
「そこまではわかりませんが……赤龍はその腕輪のせいでおかしくなったと言っていました」
「その腕輪はギルドで預からせてもらっていいだろうか?」
「はい。調べてみてください」
「でも、その赤龍はマグマの中で寝ていたのだろう。どうやって腕輪を足に嵌めたのだろう……?」
「熟睡していたみたいでわからないようでした」
「では、地震はその赤龍が腕輪を外そうともがいていたからだな」
「それは間違いないと思います」
「先程、赤龍が空を飛ぶのを目撃したという情報もある。おそらくシア君のいうことで間違いないだろう。その赤龍に危険はないのだね」
「大人しい赤龍でしたね。俺のことを兄貴って言っていましたし、あのマグマの中で鍛冶師が槌を振るう音を聴くのが好きだとも言っていました」
「シア君を赤龍が兄貴と言ったのかい?」
「ええ、よくわからないですけど、そう言っていました」
「それは傑作だ。ありがとうシア君、報酬は期待していてくれ」
話を終えるとシアは報酬をもらうために受付カウンターに出向いた。すると、職員が大慌てで飛んできて
「シアさん。今回の指名依頼の報酬ですが、二億エニになります。ただすぐに準備ができないので、また後日来ていただいてよろしいでしょうか?」
と、言ってきたのでシアは了承するとギルドを出た。
「なぁ、黒髪の美少年は一日で二億エニ稼いだんだよな」
「ああ、だとすると……」
「二日で四億……、三日で六億……四日で八億……五日で……」
「やめろ、やめろ、悲しくなる」
「ああ、酒でも飲むか。若くて美少年で金を稼いで……」
「羨ましくなんかないぞぉ~」
その日のギルド併設の酒場は大盛況だったという。
アラガンの家に着くと、妙に、やる気に満ちた顔のイワノフとアラガンが揃っていた。
「数日帰らないと思っていたよ」
「そのつもりだったんだが、火力が弱くてな」
「火力?」
「おう、流石は古代龍の素材だ。びくともしない」
「それで色々やってたら火力が急に上がりだしたんだ」
「へぇー、そんなことがあるんだね」
「すると不思議な声が頭の中に響いて来てな……」
「声?」
「オイラは復活したからじゃんじゃん槌を振るってくれって」
「オイラ……」
「で、これでシアの剣が打てるってアラガンと話をしたら……」
「うん。急に俺たちに話しかけてきたんだよ」
「……何て話しかけてきたの?」
「シアの兄貴の剣を作っているのかって」
「そうだと答えたら、明日工房に手伝いに行くから今日は帰れって」
「それで帰って来たんだ」
それを聞いたシアは今日あった出来事をイワノフとアラガンに話して聞かせた。すると、
「わはは、遂にシアは赤龍を舎弟にしたのか」
「最高だな。カール様に聞かせてやりたいよ」
と、妙にうけてしまい、シアも次の日は一緒に工房へ行くことにした。
次の日は朝からイワノフとアラガンと一緒に小太郎を触れて工房に出向いた。
すると、工房の前に着流し姿で真っ赤な髪をした長身瘦躯の男が立っていた。その男はシアの顔を見るなり、地面に正座をすると、
「シアの兄貴ぃ、昨日の御恩に報いるためにオイラにも手伝わせてくだせぇ」
と、言い出した。シアが、
「ガッツ?」
と聞くと、
「へい、人化してやってきました。火力には自身がありやす」
そう言うと土下座をはじめた。不思議そうな顔をしているイワノフとアラガンにシアが説明をする。
「龍にも色々いるけどね、長い時間を生きている龍なら人間の姿に化けることができるよ。母さんも古代龍だけど普段は人間のお婆さんの格好をしているからね。ガッツ、ありがとう。手伝ってもらっていいかな」
そう言うと、ガッツはやる気満々でイワノフとアラガンに、
「先輩方、オイラがシアの兄貴の舎弟ガッツであります。以後お見知りおきくだせぇ」
と挨拶し、炉のところに向かったのであった。
その炉に入っている火を見てガッツはこれでは古代龍の素材は絶対に加工できないと言い切った。ガッツによれば、古代龍は龍の中でも圧倒的に高貴な存在で赤龍が全力でブレスを放ってもびくともしないのだという。だが、
「それはこのガッツがどうにかいたしやすので、二人は素材が溶けだしたら加工する用意をしてくださいやし」
と言い、二人に準備をさせたのである。
準備が出来たところで、ガッツは自分の手のひらをおもむろに嚙み切った。驚くイワノフとアラガンに落ち着くように言うと、自分の血で素材をまんべんなく染め、超高温のブレスを細く長く素材に吐きつけた。すると、じわじわと素材が変形し始め溶けだしてくる。頃合いを見てイワノフとアラガンは素材を混ぜ合わせ出した。十分に用意された素材が混ざり合うと、規則正しい槌の音が響き渡る。親子で息を合わせながら二人は一心不乱に叩き続けた。
ある程度叩くとまたガッツが血をかけブレスで温める。その作業を何度も何度も繰り返した。最後にある程度の形が出来てくると焼き入れに入るが、超高温の素材を普通の水では冷やせないため、今度はシアも参加して魔法で冷やした。気がつけば作業を始めてから二ヶ月が過ぎていた。ハンナが作る弁当を小太郎が持ってきて作業をしながら食べる。全員が憔悴しながらも実に楽しそうであった。
最後の砥ぎはアラガンが行った。普通の砥石では砥げないため、マリアナの鱗を使って砥いでいく。アラガンが砥いでいる間に、イワノフとガッツが柄と鞘を作る。
アラガンがイワノフとガッツに手伝ってもらい刀身に柄をつけ、鞘に納めて最終確認を入念に行う。
やがて、納得した表情でアラガンがシアに剣を手渡した。
全員が何も言わずに外に出た。
小太郎が鋼鉄の棒を咥えて待っている。
シアはカールと同じような片刃の反りの入った剣を抜く。
波打つ波紋は晴天の空に浮かぶ雲の様に揺らめき、日の光は刀身に吸い込まれ光そのものと化していた。
その剣にシアは思い切り自分の魔力を流した。その魔力を母の魔力が優しく受け止めシアの力と化した。
一つ息を吐くとシアは小太郎に合図をした。
小太郎が目にも止まらぬ速さで鋼鉄の棒を口で投げつける。
シアの放つ神速の剣閃は鋼鉄の棒をあっという間に膾にしてしまった。
その様子を見たイワノフが
「神が剣を振っているみたいだな。凄い威力だ……」
そう呟いたのを聞いて、アラガンがシアに、
「その剣の銘は神威だ。神の子が振るう、神の如き威力を発揮する剣、ぴったりだろ」
そう言って満足そうに笑ったのであった。




