16、赤龍
シアと小太郎はアラガンの自宅へと戻ったが、その日はイワノフとアラガンは帰ってこなかった。ハンナによれば泊まり込みで作業をするから当分の間帰ってこないらしい。シアはしょうがないので、休ませてもらうことにした。次の日は何もやることがなかったのでハンナに場所を聞いてカルグスの冒険者ギルドに行ってみることにした。
カルグスの冒険者ギルドは活気に溢れていた。王都の冒険者ギルドでクレアが教えてくれたのだが、カルグスは山脈の麓にあるため山から来る魔物の襲来が多く、腕利きの冒険者が集まっているのだ。さらに、治安が悪い地域が街中にあるため用心棒を務める冒険者も多いとの話であった。シアは小太郎に外で待っていてくれと言うと、クレアが教えてくれたように、掲示板は見ずに真っ直ぐカウンターに向かった。すると、
「おい、なよなよした奴が来るんじゃねぇよ」
と、シアを突き飛ばそうとした男がいた。シアが避けると男はもんどりうってこけてしまい鼻血を流す。それを見ていた周りの者達が、
「あいつ自爆したな」
「絡みに行って自爆って間抜けだな」
と、口々にその男を馬鹿にしだした。それを聞いた男は隣にいた仲間が止めるのも聞かずに激昂し、剣を抜いてシアに襲い掛かった。だが、シアはクレインから、
「もし絡まれたら殺気を飛ばして威圧しろ。大半の奴はそれで気絶するはずだ」
と、教わっていたのでその男に殺気を飛ばすと、その男は白目を向いて気絶してしまった。隣にいた仲間がその男を連れ去ろうとすると、カウンターの奥から目つきの鋭い壮年の男性が現れた。その男性は職員から事情を聞くとシアのもとに歩いてきて、このカルグスの冒険者ギルドのギルド長だと名乗ると、
「あの男はこちらで処分するが、それで構わないかな」
「はい、別に何もされていませんので、ギルドで好きにしてください」
「助かるよ。ところで君はあまり見ない顔だが……」
そこでシアはタグをカルグスのギルド長に見せる。
「S級冒険者、シア・ペルサス……」
そう話した瞬間に、周りの冒険者も職員も一斉に動きを止めた。
「シア・ペルサス君、どうしてカルグスに?」
「友達に剣を作ってもらいにきました。待っている間にすることもないので、ギルドに来たのです」
「なるほど……、君にひとつ指名依頼を頼んでもいいかな?」
「指名依頼?」
「うむ。詳しくは奥で話そう。ついてきてくれるかな」
シアがギルド長の後ろについていくのを見ながら、その時、カルグスにいた冒険者たちは絶対に「黒髪の美少年」には喧嘩を売るなと一斉に噂を流し始めた。
「シア君、いきなりで済まない」
「どうしたのですか?」
「うむ。この山脈が活火山だというのは知っているかな」
「はい、友人に教わりました。そのマグマを利用して鍛冶をするとか」
「そうだ。だがそのマグマを食べる魔物がいるのだ」
「マグマを食べる?」
「火喰鳥というのだが、こいつがちょっと厄介な動きをしている」
「厄介?」
「うむ。火喰鳥自体は脅威ではない。基本的に大人しいし、マグマを食べてくれるおかげで活火山から多少大量のマグマが噴出しても街に被害はないからね。持ちつ持たれつなのだが……」
「では、何が問題なのでしょうか?」
「最近大地震があったのだ。その後、遠目にしか確認されていないのだが、急に火喰鳥が鉱山の一角めがけて食べたマグマをひたすらに吐き出し続けているという報告があったのだよ」
「マグマを?」
「その場所はミスリルがよく取れる場所でな、おかげでミスリル鉱脈が固まったマグマで駄目になりそうなのだ。済まないがその場所に行って調査をしてもらえないだろうか」
「調べて来ればいいのですか?」
「うむ。手法は任せるよ。ただ、場所がなかなか歩いてはいけない場所にあるのと、火喰鳥が暴れると街に被害が出る可能性があるからね。A級数人に頼もうかと思っていたのだよ」
「わかりました、場所を教えてもらえますか?」
ギルド長の指名依頼を受けたシアは小太郎にまたがり、その場所を目指していた。すると、大量の火喰鳥が確かにマグマを吐き続けていた。火喰鳥はそれほど大きな魔物ではない。体長2メートルほどの大きさで赤い皮膚を持ち、その皮は熱に強いため冒険者たちの鎧やズボンによく使われていた。気性も大人しく人に触られても嫌がることもない。そのため、養殖している者もいるらしい。
シアと小太郎が近づくと火喰鳥たちは一瞬警戒するような行動をとったが、シアと小太郎が何もしないため気を許したのか先導するような仕草を見せた。火喰鳥に先導されてシアが見たのは、傷ついた体で横たわる赤龍であった。その大きさは3キロメートルほどであろうか。その大きな体を小さく折りたたむように丸めて辛そうにじっとしている。
龍は人よりも知能が高い。ワイバーンなども竜と称されるが全く違う存在である。ワイバーンなどの竜は龍に似ているだけの魔物であり、龍は古来より自然を司る神聖な力を持つ神獣である。だが龍は粗暴で傲慢な者も多く、シアもカールと一緒に何十体も討伐していた。赤龍は火を司る。そのブレスは超高温の火炎であり土をも溶かしてしまう。その龍に火喰鳥がマグマをかけると、傷ついた場所からマグマを吸収しているように見えた。だが、傷にかけ損ねたマグマは岩肌の裂け目から流れ込んでいたのである。
「あの裂け目の下にミスリル鉱山があるのだろうな。小太郎、近くに行ってみよう」
「うん。でもあつそうだね~」
「えーと、小太郎。念話で火喰鳥に止めるように言えるかな?」
「やってみるね~」
小太郎が火喰鳥に念話を飛ばすと、火喰鳥たちはマグマを吐き出すことを止めた。話が通じたと考えたシアと小太郎はマリアナに教わった通り、熱気を防ぐ魔力の膜を全身に纏わせると、赤龍の顔付近に降り立った。
「おーい、赤龍、聞こえるか~」
シアが声を掛けると赤龍が目を開いた。
「俺はシアだ。となりのフェンリルは小太郎。念話でいいよ」
そう言うと、赤龍は念話で事情を説明しだした
「えーっと、シアの兄貴ぃ、オイラはしがねえ赤龍でガッツといいまさぁ」
「兄貴?」
「シアの兄貴ぃ、オイラはこのカルグスの山脈でマグマの中にいたんでさぁ。そしたら、オイラがぐっすり眠っていると足にこいつが嵌めらてたんでさぁ」
そういうガッツの足を見ると、何やら腕輪のようなものが嵌められている。
「嵌められてから、どうも気分が悪くなってこの腕輪を取ろうともがいてたんでさぁ。すると、意識が朦朧としてきて魔力がなくなってしまったんでさぁ」
「魔力がなくなる。龍の魔力は凄まじいはずだが……」
「理由はわかりやせん。ただそれから全く動けなくなりやして、体が朽ちかけていたんでさぁ」
「朽ちかける?」
「あの火喰鳥たちは必死にマグマをかけて助けてくれようとしてくれたんでさぁ」
「なるほど。じゃぁまずはその腕輪を取ろうか」
そうシアが言うと、腰の剣を一閃させる。だが、
「硬いな……」
「へい……オイラも頑張りましたがとれやせんでしたぁ」
「ふーむ。アストロンを使うか……」
次にアストロンに魔力をこめて腕輪を斬りつけるとスパッと斬れた。
「とりあえずこの腕輪はもらっておくな。調査依頼なんでな」
「おお、兄貴ぃ、魔力が回復してきやすぅ」
「ガッツは暴れたりしないよな?」
「そんなこと絶対にしやせん。このガッツはあのマグマの中で聴く鍛冶師が響かせる槌の音が最高に好きなのでやんすぅ」
「ふふ。わかったよ。じゃあ魔力を分けてやる。触るぞ」
そう言うと、シアはガッツに魔力を譲渡した。ガッツは大喜びで亜空間収納に入っていた大量の鱗と牙をシアに渡すと、
「この御恩は一生忘れやせん。このガッツ、シア兄貴の舎弟として生きていきやすぅ」
と叫んでから飛び立ち、火山の中に入っていった。




