第四十四話
トツカーナ伯爵邸の別名プッブリコ宮殿前に広がるカンポ広場に向かいます。
大鐘楼の鐘の音と、見張り塔の警鐘が街中に鳴り響きます。
ソプラ通りは小道から出て来た人々でごった返しています。
僕は母さまとジーヤと手を繋いで歩きます。
エリザが先頭に立ち、アンナが後ろです。
「冒険者だ、冒険者達が大勢きたぞ」
「道をあけてくれ〜、道の真ん中をあけるんだ〜」
「冒険者だ、道をゆずるんだっ」
「先頭はギルドマスター【攻め達磨】だ。みんな頼んだぞっ」
避難する人々があけた大通りの真ん中を冒険者達が険しい顔で駆けて行きます。
さっき帰って来たばかりの『やばいモグラ』『トライアングル』『やまびこ』さん達の姿も見えます。
少し遅れて『たぬきの皮』さん達まで西門へ向けて駆けて行きます。
皆、怖い顔をしています。
僕が見た事の無い表情をしています。
避難路となったソプラ通りはもの凄い人混みです。
市民達の様々な言葉が行き交います。
「この時間じゃ、東門から逃げても、日が暮れて隣り村までたどり着けねぇ」
「村に逃げても助からねぇよ、城壁があるここの方が安心だ。最悪、ここで迎え撃つんだ」
「ジュリア〜、どこだ〜〜〜」
「俺はこの武器一式を届けてから向かう。お前は先に広場へ避難してろ」
「あんた、大丈夫なのかい」
「替えの武器が無ければ戦いは続けられねぇ。俺が逝く」
「あたいより弱いくせに漢みせやがって。怪我したら承知しないよ、待ってるからね」
大鐘楼の鐘の音と、見張り塔の警鐘が街中に鳴り続けます。
「鍛治屋達も来たぞ。道を空けてくれーー」
「道を開けろ〜。鍛治屋の後ろから【戦乙女】も来たぞ〜。通すんだ〜」
鍛治屋さん達の中に知ってる人がいます。
ロック親方とお弟子さん達が荷車を引いて西へ駆けて行きます。
荷台には武器、防具が山積みです。
あの盾も見えます。
親方達の後ろを、大斧を担いだバニーちゃんが走ります。
それをレイピアを手に持った白猫店長さんが追い越します。
領兵や冒険者だけでなく、戦える者達は皆、それぞれの戦いに向かっています。
皆が住むこのシェーナの街を守るために。
僕は立ち止まります。
そして、言います。
「僕も戦うよ。僕のやり方で」




