5 運命には逆らえない
日曜日。
やることもないので勉強でも始めるか、と思った。しかし、学校という場以外では、生真面目に生きる気力がない僕は机に座ろうという気が薄く、結局は自分が好きな小説を読み返したりしていた。
いい一日だった。いや、結局勉強が出来ていない。真面目にやろう。
そう思い、机についたのは18時だ。ぬくぬくとした自分の部屋と言うのはよくも悪くも自身を甘くする。やや後悔しながら、今後のために今日あったことを学び、失敗を頭に刻み付けた。
シャープペンシルを取り、教科書を開く。
―――――ピリリリリッ
突然鳴った携帯にビクッと身を震わせてしまった。
本当に驚いた。勉強の集中に入る瞬間に鳴ったせいで意識の隙間を突かれた感触だ。
内容はどうせ母親の、今日ご飯何にする? だろう。
そう予測しながら携帯に手を伸ばすと予想が外れた。
――吉野早枝。
驚きからなんとか立ち直り、携帯を手に取った僕は恒例である最初の言葉を口にした。
「何の用?」
「やっほー、花火行こー」
「……なんなんだい? せっかく勉強をしようとしていたところを邪魔してくれた吉野早枝さん」
「今日は何となく不機嫌なんだね。花火行こー」
「ぶれないね。もう六時だよ。そんなに時間がないじゃないか」
「高校生は十二時まで遊んでも大丈夫でしょ」
「僕は良い子だから八時までが限界なんだ」
「プププ、今の本気で笑った」
僕は思った。
きっとこれは人を不快にすることを目的とする類いのイタズラ電話なのだろう。迷わず僕の指は通話終了へと伸び、ホッとため息を着く。
しかし案の定、すぐに携帯は再び音を鳴らした。
「もしもし、私今、あなたの家ノ前にいるの」
迷惑で謎ホラーだ。
瞬時に携帯を投げ捨て、玄関まで向かう。
彼女は本当に家の前にいた。
浴衣姿で、楽しむ気は満々らしい。
「迷惑なんだけど」
「死にかけた女の子の願いを叶えたら幸せになるって噂を聞いたことあるよ。花火行こー」
「このあと用事が入る予定なんだ」
「どういう予定なの! へんなこと言ってないでいくよー」
彼女の中では僕がいくこは決定事項らしい。
仕方ない、ついていくか、と思う。
その意思を伝えようとするなにを思ったのか、彼女は突然、ポケットから十円玉を取り出した。
チィーン。
小気味良い金属音を響かせたコインが、闇夜の中をくるくると落ちていく。そしてまるで手品師のような動きを見せる彼女の手に収まった。
「わかってるね? 十がかかれてる方が裏だよ? さあ答えて、表か裏か?」
彼女はボウリングのことといい、勝負事が好きのようだ。きっとこれで僕が負けたら祭りに引きずられていくことになるのだろう。
そんなことを予想し、僕はなんとなしに浮かんだ感情を彼女に伝えた。
「表」
「はいざんねーん。裏でしたー」
「……」
「運命には逆らえないものなんだよ」
何気に吐き出された言葉は深い意味を持った。死を背負った彼女の運命は、重い。
「……ちょっと待ってて」
たぶんもうこれを回避する手段はないのだろう。また、運命から逃れられない彼女に、少しくらいは付き添ってあげた方がいい気がした。助かればいいとまでは思わない。だが同情はする。
僕の、感情。自然と湧き出る、どうしようもない意志。……でも、こんなものに何の意味があるのだろう? 結果はなにもかわらないのだろう。僕が何を願おうと、何を祈ろうと、意味がない。神はいない。祈りは決して届かない。
――彼女を見ていて、少なくとも死んだほうがいい人間だとはとても思えなかった。
「準備万端のようだね!」
「財布持っただけであとは手ぶらという状態はそれに当てはまるのかな?」
◇




