4 灰色に見える風景
食事を終え、お互いの帰り道の分かれ道に立つ。
結局、勝利の商品として【驚きの安さ満腹の三百円定食!】を奢ってもらった。ただ奢られたりするのはいやだが、こういうのなら嫌な気分にはならない。
彼女が笑顔で振り向く。
「楽しかった? 相川君?」
「ん?」
「今日は随分と爽やかな表情だったからさ。ずっとそういう笑顔のままでいればいいのに」
そう言い、気安く僕の胸を拳で叩いてくる。
「どうだろう? 楽しいというよりもは忙しかったという感じかな。誰かさんはそそっかしいから」
「ツンデレしなくていいんだよ?」
「なにそれ」
ハッハッハッハーと彼女が高笑い。近所迷惑な行動を僕は白けた目で見る。
「まあいいよ。またね!」
「あー、はいはい」
適当に手を振って遠ざかっていく彼女を見送る。
考えてみれば、『死』に近づいている彼女を観察しようという思いがなかった。いや、気が付けば忘れていた、という感じだ。
……楽しい、か。人間嫌いな僕がそう思うはずがない。今更楽しめるわけがない。
自分の思考が嫌でたまらなくて、そんな自分を変えたくて変わった日常を過ごしてみた。けれど、こんなこうどうごときに、果たして意味なんてあるんだろうか?
ひどく色あせたこの世界。どこまでいっても苦しくて、救いようがないこの世の中。
僕はなにを求めているんだろう? 何を願っているんだろう?
水の中で息を潜めていれば、いつか景色が変わると思っていた。でも、そうはならなくて。
僕が何かに対して想うということ。同情。感謝。喜び。
それに対して意味がないと気づいて、虚しくなった。
親切をしたから死んでしまった人がいた。それがいやでたまらなかった。
だから、僕は――。
……もう少し彼女を、人間を真面目に観察しよう。『死』をよく見よう。
でも、たぶん僕が求めているものは……そこにはない。
◇
人の醜さを、僕は知っている。
愚かしさといった欠陥。それに気づいていても直すことのできない不可能性。
それで、嫌になった。たぶん、失望したのだ。もう救いようはないんだって。
でも、だからといってすべてを諦めるというのは違うのだ。
だから抵抗のような、足掻くという行為をした。
終わりの見えない袋小路。光のささない穴倉。
――人の善意の行動が必ずうまくいくとは限らない。
それがこの世の中の理。
◇




