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デートスポット


「……服部。僕を助けたの、お前だろ? とりあえず、ありがとう」

 隙を窺って、話しかけてみる。

「お! バレてた⁉」

 ニヘラとわざと気持ち悪く笑う服部。なんでわざわざそんなことするのか……。だがそれも人気者としてのひとつの要素なのだろうか? いまいち、わからない。

「服部」

「お、なんだ?」

「なんでわざわざ僕を助けたのか、聞こうと思って」

「バカだな相川。困ってる人がいたなら助ける、普通だろ?」

「ほんとにそう思ってるの?」

「正義は勝つものだ。だから当然だ」

 僕が疑わしそうな視線を向けると服部は笑った。

「はいはい、いくら俺だって全部正義が勝つなんて思ってねーよ。でも助ける能力があるなら、自分ができることなら、やるんじゃね? こういうことを身の程を正しく知るって言うんだよ」

「へえ。初めて聞いたよ、そんな言葉」

 僕がそう言うと服部は嬉しげな表情をし、白い歯を見せる。

「だろ? たまに俺は言葉の発明家になるんだ」

 服部は嬉しそうだ。しかし、ふとその表情が影に染まる。

「……相川、できることならもっと早くにお前を助けたかった。でもできなかった。だって俺は――」

「言わなくていい。君のその気持ちは人間として当然のことだ。それに、完璧すぎるものなんて機械ぐらいだ。欠点があるぐらいが、ちょうどいい」

「ハハッ、そうか。でも今だって、俺はお前のことが羨ましい」

 服部の気持ちはわかってる。吉野早枝が好きなのだ。だから今、彼女の隣にいる僕を羨ましく思っている。だが、真実を知った時、それでも彼は僕の立場を望むだろうか。

 服部の横顔を凝視する。「なんかついてるか?」という言葉に首を振る。

 きっと、それでも望むだろう。服部(コイツ)はバカだ。どこまでも真っ直ぐで純粋。彼女と似た類いの珍しい人間。今までの行動を見ていればわかる。感情のままに、打算なく行動するバカらしさは――少し、羨ましいかもしれない。

「服部、お前には感謝してる」

「何回も言うなよ照れくせーな」


 土曜日。休日ということで僕は彼女と待ち合わせをしていた。

 遠目から集合場所である噴水場を見つけ、時計を何度も確認する彼女が見えた。

 僕はわざと時間に遅れてきていた。早く来すぎたら「楽しみにしてたでしょー」などと言われると思ったからだ。頭の中でこんな高度な情報戦を勝手に繰り広げている僕はバカなのかもしれない。

 本来、五分おくれで着く予定だったのだが、いろいろあって十分の遅刻だ。

「あー、来たー! もう! 来ないかと思ったんですけど~!」

「楽しみで眠れなかったんだ」

「うわっ、うそつきの顔だ」

「まあ、普通に遅刻した。ごめん」

「もうっ! しっかりしてよね! 私の時間は有限なんだから!」

「わかってるよ。時間にルーズでごめんね」

 有限。その台詞が頭の中で反響するも、次の瞬間には彼女の動作によって掻き消された。

 腕に熱が籠り、彼女が頭を擦り付けてくる。振り払うことはせず、僕は言う。

「歩きにくい、離れて」

「もーう、照れちゃって~」

 そうは言われはしたが僕の顔は無表情だ。いつもの何やってんだコイツ、の顔。実際の心中はそうではないのだが、感情の乱れを悟られたら負け、なかば本能が僕の態度を決め付けた。

「はいはい。で、どうするの?」

「んー、どうしたい?」

「どうとでも?」

「じゃあ褒めて」

「何を?」

「……もうっ!」

 突然彼女が僕の脛を蹴りつけた。粗野で暴力を振るう彼女はきっと女の子らしさを出す養分が足りていないのだろう。

「はいはい、かわいいよ」

 プイッ、と背後を向ける彼女に呟くように言った。そして彼女は振り返る。

「なにか言った?」

「……なにも」

「そう」

 お互いに装うのはなんともない、という雰囲気。しかし、彼女の機嫌は良くなったようだった。

「私のこのスカートとか可愛くない?」

 彼女はそのスカートを両端でつまみ、お辞儀。僕としてはまず今後の行動をどうするのか決めて欲しいのだが、山の天気のようにすぐに機嫌を変える彼女にそんなことを言っても無駄だろう。

 ひとまず無難なことを言っておく。山の天気を怒らせたら今後の予定が遭難する。

「いいんじゃない?」

「でしょー。女子力高いでしょー」

 適当な一言にも気をよくしてくれたようで何よりだ。

 ……まあ、いつもの彼女なのだろう。

「あのさ」と彼女は言う。

「あのさ……私が倒れた時のこと、本当に、感謝してる。ありがと」

「え? なんだって?」

「もうっ」

 彼女は楽しげに笑う。今更、気にすることじゃない。君の気持は、届いているから。

「いや、正面からじゃ恥ずかしくてね。君、命の恩人じゃん? で、その埋め合わせ、何が欲しい?」

「自由」

「広々とした空間に行きたいのかー」

「なんでもいいよ」

「ねーねー、もっと体とかそこら辺のこと期待してたんだけど」

「ドンマイ」

「うん……頑張るよ私」

「ああ、今までの全部冗談だから気にしなくていいよ」

「むぅ、そう。とりあえず、仕方ないから予定決めよっかー」

 僕の言葉もまた、彼女の気を晴らしたようだった。テンションをおよそ360度を二回転した彼女は再びうるさいテンションに戻り、宣言する。

「はいやー!」

 そう言って出てきたのは何かが詰め込まれたバインダーだ。

「デレテレッテレーン♪ 旅行のパンフレット~!」

 バインダーの中には大量の旅行パンフレットが入っていた。そのためバインダーはとても分厚く、重そうだ。

「この私の計画力を見て天才って呼んでもいいよ」

「バカの天才」

「素直じゃないなあ!」

「とりあえず、僕が行きたいところは特になし。近場ならどこでもいいから」

「あ、もう神社行くって私決めてるから」

 じゃあ今までのやり取りは何だったのだろう?

 そう思うが、彼女のことを考える。彼女は、死ぬ。僕は神を信じない。だが彼女は信じているのかもしれない。だから彼女は神頼みでも何でもしたい状況。だからすがり付く、奇跡を信じる。長い間病気と戦い続けた彼女だ。今更そんなものを信じているわけではないだろう。だが、彼女の気持ちが少しでも楽になるのなら……。

「了解、文句を言いたいところだけど我慢してあげよう」

 彼女の指差した神社は遠い。だから僕は近場が良かったのだが。

「あ、ちゃんと楽しいデートコースも組み込んでおいたよ!」

 もっと違う場所で気を利かせて欲しい。



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