好転して――
退院した。ついでに足のギブスも取れた。
あの後、僕は母との決着をつけなければいけない。そう思った。
彼女が父のことを聞いた、というのは母以外にあり得ない。昔の僕だったらそんな母に対して怒りを抱いただろう。だが今は違う。たまたま結果がいい方向に動いたというのもある。だが、母は僕のことを思っていてくれていたのだ。いまだに思想は相容れない。それでも、このままではダメだと思った。
今更大きな行動は起こせない。だから小さなことから、頑張ろう。
本当に小さな一歩、確かな一歩。
ある時、黙って済ます、家族の食事の時。
「母さん。いつもごはんありがとう。それと、今まで、いろいろとごめんなさい」
小さな声で呟き、自分の部屋へと戻った。
後から母のすすり泣く音が聞こえた。
次の日の朝は母の表情が晴れやかだった。ポツポツと、少ないながらに会話した。
家族。
今ようやく、僕はその意味を真に感じてる。
クラスでは僕の扱いがだいぶ変わった。どうやら彼女を必死に助けようとしていたことからイメージが良くなったとか。こういう好印象なイメージになったのは理由があるらしい。最初は例のごとく僕がストーカーで、好印象どころか悪印象がつきそうな勢いだったのだが、それは違うと触れ回った人物がいたそうだ。彼女から聞いた話なのだが、あの服部がやってくれたことらしい。正直静かに過ごしたい僕にとってありがた迷惑ではある。
そう思っていた。僕を怪物として見ていた彼らは、最初は恐ろしげにこちらに近寄ってきたが、いつのまにか険が取れている。僕の反応は「ああ」とか「そうだね」とか、会話をぶち切るような対応を一貫していたのだが、それで大人しい生徒だと思われたのだろう。敵対しない相手なら普通に接すればいい。大抵の人はそう思うものだし、僕もそう思う。
まあ、これらのことは、八割方、服部の手腕によるものだ。
だが意外と、悪くない。
そんなこんなで僕は今、嫌われていない。いや、それよりも厄介な状況に追い込まれていると言えるだろう。例えば、これは僕をますます追い詰めるような出来事だった。
「ジャン! 私の彼氏、相川君でーす!」
「……え?」
クラス中が静かになる。
「え? って言われてもね? ほら、君と私、契約したじゃん」
「え? なにが?」
「私の物になってくれるんでしょ?」
「いや……いろいろおかしい気が……。それと一応否定しておくと記憶にないよ」
「どう皆! これが私の相川君! 面白いでしょ!」
騒ぎとなる。僕は彼女を引っ張って廊下に連れていく。追ってくるものはいない。
「これだから君という奇想天外頭のおかしいびっくり箱の――」
「お、いつもの呪文の詠唱が始まった」
「ひとの話を聞こうか?」
こんな感じで、無理やり僕の印象の改善が進められている。結果として、何人かと喋るような仲にはなかった。
……思ったほどは、悪くない結果だった。
◇




