第3話
●新宿の大通り
昼の大通り。
道路は渋滞で混み合っている。
あちこちで衝突事故が起きて喧嘩も勃発している。
降車して逃げる者もいる。
渋滞の只中で、車内の後部座席の贄田はぼやく。
贄田「あーあ、こりゃ進まないねぇ」
野村「怪異災害時の規定に従えば、このような状況は防げるのですが……」
贄田「パニックの人間がそんなの守るわけないでしょ」
運転席で苦言を呈する野村に対し、贄田は半笑いで皮肉る。
野村、バックミラー越しに贄田を見て、心配そうに尋ねる。
野村「それより戦えそうですか? メンテナンスはまだ終わってませんよね」
贄田「大きな損傷は治したし大丈夫。そっちこそ平気なの? 能力が不安定なんじゃない?」
贄田、寝転がりながら指摘する。
野村、少し考え込んでから答える。
野村「仕事をしている方が気が紛れます」
贄田「それは変態だねぇ」
野村「えっ!?」
贄田「仕事好きは変態だよー。私なんていつだってサボりたいもん」
野村「それはそれで社会人失格だと思いますが」
贄田「否定できないねぇ」
何かに気付き、ハッとする贄田。
前方から灰色の濁流が迫ってくる。
濁流は渋滞の車や人々を呑み込み、凄まじい勢いで広がっていく。
濁流の水面には、無数の胎児の顔が浮かび上がっている。
無数の胎児が不協和音のように呟いている。
胎児A「たすけて」
胎児B「こわい」
胎児C「くるしい」
車内の贄田、呆れた様子で苦笑する。
贄田「うわぁ、ヤバいじゃん。推定等級はA+だっけ」
野村「はい……ですが、これはSでしょうね」
贄田「成長型ってこと?」
野村「ええ、おそらく。人間を取り込むほど強化されるタイプの怪異かと」
贄田「どんどん厄介になる奴じゃーん……でも、今回は相手が悪かったかな」
贄田、ニヤリと笑う。
野村と贄田、ほぼ同時に車外へ出る。
贄田、濁流を指差して命じる。
贄田「さぁ、野村クン! やっておしまい!」
野村「了解です。援護を頼みます」
野村、真面目な顔で両手を打ち鳴らすように合わせる。
野村「いただきます」
野村、全身の皮膚に亀裂が走る。
亀裂が人間の口になり、舌を出して笑い出す。
口が一斉に空気を吸い始め、迫る濁流を飲み始める。




