第19話:契り……、それは危険な快感。
『ラプンツェルにはよろしくって言われたけど……、ルカにその気がなければどうにもならないわ』
『わたしはすぐにでも触れあいたい……でもルカはどうなのかしら?』
こんな場面にきてしまってはいるけれど、わたしはあれこれ余計なことを考え始めてしまっていた。
だって、なにかを考えていないと緊張でどうにかなってしまいそうだったから。
月夜の光を浴び、薄絹をまとっただけの夜の人間verのルカは本当に美しい。
きっとわたしの心臓の音も、静まり返っているこの森なだけに一層大きく、ルカには筒抜けですべて聞こえてしまっているに違いない。
あの太くたくましい腕がわたしを包むと思うと、それだけでドキドキしてしまい。
あの長くしなやかな指先がわたしの敏感なところを丁寧に探り当ててゆくのだと思うと、背筋にぞくぞくっとした震えが起こる。
そしてあの……。
カエル呪いの名残りだと思いこんでいた、太くてかたいアレ。
アレが今となっては、わたしにはなぜかとても逞しく見えている。
上を向いていると元気に種を運べる状態であると、ラプンツェルが言っていた。
見ると腹に着くほど上を向き、血管が浮き出て脈打っているようだった。
どこまで膨れていくのだろうか、凝視すればするほど大きくなっていっているように感じた。
「カ、カリンよ……、そんなに見つめないでくれ……」
ルカにそう言われてハッとした。
「ご、ごめんなさい。でも、これが……、あの、これから、その……」
これからわたしもラプンツェルが見せてくれた薄い本のように、我を忘れて熱く乱れてしまうのだろうか。
こんなことを妄想し、身体をもじもじムズムズそわそわとさせてしまうわたしは、普通ではないのでは……!?
こんなわたしを、ルカはどう思うだろう。
こんなにもはしたない妄想をするわたしを知ったら軽蔑されてしまうかしら……。
「どうした、カリン。夜は冷えるのでそばへ」
ルカはそう言うと、大きな掌で私の腰をぐっと掴み引き寄せ、自身の身体とピタリと重ね合わせた。
「あっ……」
彼の手のひらから伝わる火傷しそうなほどの熱と、肌と肌が触れ合う人の温もりの心地よさに、わたしの身体の芯が疼いて震え、声が漏れ出てしまった。
ルカはそんなわたしを見て、驚いた表情を見せた。
「……いつになく甘い声だな。思わず誘われてしまいそうだ」
ルカは十字の傷がついた手でわたしの手を取り、10年前のあの日のようにキスをした。
「いいんだな、カリン」
その言葉に、全身の毛穴が総立ちしぞくぞくと震える。
指先へのキスだけなのに、体の芯まで熱くなる。
わたしは小さく頷いて見せた。
キスはそのまま腕を伝い、唇に届く。
仲睦まじい小鳥の番が啄み合うように、何度も何度も軽いキスを交わす。
ルカの舌先が私の唇をぐるりとなぞり、そのまま唇を割り入ってきた。
熱い舌先がわたしの口内をくまなく探ると、そのままわたしの舌を捉えて弄び始め、わたしは息の仕方を忘れ、その舌の動きについていくのに必死になっていた。
呼吸もできず、そのうち意識はもうろうとし始める。
蠢く熱い舌の気持ちよさと、朦朧とする意識で、わたしは中にでも浮かんでいるんじゃないかと錯覚をした。
ルカがわたしの様子に気が付いたのか、唾液の糸を引きながらゆっくりと名残惜しそうに唇を離した。
わたしの頭はぼーっとしたままだ。
「カリン、私が欲しくてたまらないという顔をしているな」
やや攻撃性をはらんだ瞳で見つめられ、腰や太腿がピリピリと痺れる感覚に襲われた。
人生で感じたこともない切ない感覚にもどかしく、わたしの身体は無意識で、むず痒さに腰をくねらせ膝を擦り合わせ始めていた。
『ああ、恥ずかしくて死んでしまいたい。なのに……』
『全身の感覚が鋭くなってしまったみたいに、もっともっと触れてほしくてピリピリする……』
ルカの唇はそのままわたしの首筋へ、さらにその下へ。
ぞわぞわとする初めての感覚に、わたしの背が仰け反り、震えた。
「カリン……そんなに身体を震わせて。声を我慢しなくてもよいのだぞ?」
「その可愛い声を、私に聞かせてくれないか?」
そう言うと、ルカの細く長い指先はするするとわたしの身体を滑り降りてゆき、さらにその下へ。
丁寧に、そして器用に、探り当てるように下へ、下へ。
「あっ……!!!」
「今宵こそ結ばれようとしているのだ。私の大切なカリンを壊してしまわないように、入念に……な」
その頃には、わたしの頭は痺れて真っ白になり、何も考えられなくなっていた。
息の仕方も忘れ、目の前にはチカチカとした星が飛び交い、身体はふわふわとして天地もわからない。
幻想の世界に迷い込んでいくのではないかと思えるほどに。
現実が現実味を帯びず、遠のいていく意識の中、ルカの声だけが聞こえた。
「こんなにも私の指を締め付けて……私を受け入れる準備はできているようだ」
「さあカリン、本物の夫婦になろう」
ルカがわたしの頬に優しくそっと触れ、優しく撫でるのを感じた。
その手の甲には、あの日の薔薇の十字の傷が見える。
いよいよなんだ。いよいよルカと本当に結ばれる。
約束のとおり、わたしはルカのお嫁さんになれる。
『わたしは、本当はもうずっと前からわかっていたのだわ。この人がカエルの姿になってしまおうと、ルカであることを……』
「夫婦となりましょう、わたしの愛するルカ」
「10年前の約束を果たそう……」
痛みは一瞬で。
『これが契り……意識がなくなりそうなほど危険な快感だわ』
薄れゆく意識の中、ルカは私にこう囁いた。
「カリン、愛している」
わたしも愛しています……ルカ……




