第17話:こどものつくりかた。
倒れたハインリヒはいっこうに目を覚まさないので、わたしたちはここで一夜を明かすことにした。
いつもどおりに、カエルのルカを思いっきり木に投げつける。
眩い光とともに人間の姿のルカが現れる。額から血を流し、ボロボロの。
「さ、さすがにこの方法では身が持たん……。早くハインリヒを目覚めさせ、魔女の情報を聞き出さねば……」
「その前に私が★になってしまいかねない」
ルカはハインリヒの介抱をしている。
まだ寝るには早い時間。わたしとラプンツェルは焚き火の前で雑談を始めた。
ラプンツェルはこの年になるまで、魔女がラプンツェルの機嫌を取るため差し入れてくれていたというあらゆる世界の本を読んでいたので、本の中の話ではあるが、世界中の出来事を聞くことができた。
わたしが広大だと思っていたこの森――東西南北に栄える巨大な城と城下町を囲む、どこまでも続くこの森ですら、世界に比べればほんの一角でしかないのだという。
氷だけの大地で覆われた国、どこまで行っても砂しかない国、この湖よりも広いという「海」、しかもその海の水は塩辛いのだとか……。
ロレーシア城にも大きな書庫はあれど、どれも自国の言葉で書かれた、自国のことを書いた本ばかりだった。
「――はい、今日の話はここでおしまい」
気が付けば、わたしは食い気味にラプンツェルの話に耳を傾け、胸を躍らせていた。
「ラプちゃん、あともう少しだけ「海」の話が聞きたいわ」
「だーめ、カリンママ。これからは「家族として」「ずっと」、それこそ「死ぬまで」「永遠に」一緒なんだから!毎日お話してあげるから!」
ラプンツェルは語気をところどころ強めながら返してきた。
「そ、それはそうなんだけど……」
ラプンツェルの話が楽しすぎて時間を忘れてしまっていたが、もうかなり夜も更けてきていた。
わたしはしゅんとしながら毛布を広げ、寝床を準備し始めた。
「ふふっ、カリンママ。拗ねた仕草もかわいいね。じゃあ、お話をもう一つだけ――」
「ええっ!? 何のお話をしてくれるの!?」
わたしは飛びつくようにラプンツェルに駆け寄った。
「それはね……」
ラプンツェルはそういうと、一冊の薄い本を取り出した。
で、出たーーーーーーーーーーー……
そっちかい!と、わたしは心の中で叫んでいた。
ラプンツェルは急に真顔になり、わたしにこう言った。
「カリンママ。これはね、大事なことなんだ。だからよく聞いて?」
「この本に書かれているのは、『こどものつくりかた』なんだから」
「こどもの……作り方?」
ラプンツェルは、これまでに幾度となく数々のこの薄い本をわたしに見せつけてきた。
『こどものつくりかた』であると見せられてきたこの薄い本たちは、どれもこれも全裸の男女が汗を飛び知らせながら絡み合う絵が描かれており、到底子供と結びつくものではなかった。
わたしが乳母から聞いた話では、夫婦となる誓いを立てた男女が同衾の儀を果たすと、キャベツの中からだったり、鳥が運んできたり、川から流れてきた桃の中だったり、チューリップの中、竹の中……まりで宝探しのように現れると聞いて、子供心にその日が来るのを楽しみにしていた。
それがこんな……。
でも、これまでラプンツェルと話をしてきて、ラプンツェルは素直で思ったことをそのまま口に出してしまうほど素直な良い子であることはわかった。
多少行動に問題はあろうとも、世界中の本の内容を記憶する博識なラプンツェルのこと。
だから、おそらく真実なのだろう、と私は確信した。
「教えて、ラプちゃん。本当の『こどものつくりかた』というものを――」
ラプンツェルは、口の橋を上げ、にやりと笑った。




