第11話:塔の中で、二人きり。
わたしの胸に顔をうずめ、頬擦りするラプンツェル。
その図体に似合わず、あまりにも無邪気に甘えるそのさまに、わたしは胸が少し苦しくなるのを感じた。
『物心つくかどうかの年頃で、ラプンツェルはご両親に捨てられてしまった……。 彼はあまりにも世間を知らなすぎて、甘えることが本から得た知識しかないのね……。 なんてかわいそうなのでしょう』
母を幼いころに亡くし、魔女の呪いのせいで家族から腫物のように扱われ、与えられるべき愛情を受けられなかったわたしと、どこか似ている。
そう思うと、同情だけではないなにかを感じざるを得なかった。
これが『母性』というものなのだろうか。
わたしの胸に縋るラプンツェルが愛おしく感じ、そっと彼の頭に手をやり、撫で下ろす。
「寂しかったのよね、ラプンツェル。 わたしでよろしければ、甘えてくれてかまわないわ」
ラプンツェルはパッと顔を上げ、私をじっと見る。
そして満面の笑みを浮かべた。
「本当!? ぼくを受け入れてくれるの、カリン、ありがとうーーー!!」
「ええ。 わたしに思い切り抱きついてかまわないのですよ、さあ……」
――わたしが言い切るよりも早く、ラプンツェルは片手でわたしの両手首を掴み私の頭上で押さえつけ、もう片方の手は器用にするするとワンピースの裾をたくし上げ、滑るようにわたしの太腿にその手をなぞり始めた。
「!!!!!」
「ラ、ラプンツェル……? なにを……」
「っ…… あっ……」
その感触に身体は仰け反り、全身が粟立ち、身震いが起きた。
思わずラプンツェルの顔を見上げると、その目からは光が消えていた。
*********
塔の下で、私はカリンからの合図を待っていた。
その間に私は私で、なにか手掛かりになることはないか、魔女のことを思い出そうと試みていた。
あの時なにか……。
私がカエルになる際に、魔女の呪文のような声が聞こえたのは覚えている。
なんと言っていたのかまでは思い出せない。
ただ、とてもリズミカルで、早口言葉のようなテンポだったような……、それだけは覚えていた。
「もしかしたら……、呪いを解く呪文も存在する?」
私がそんなことを考えていた、その時だった。
「っ…… あっ……」
「!?????」
それは確かにカリンの声だった。
しかも……。
しかもあれは、男女の情事の最中のような……、 ……な!?
「え????? は????? カ、カリン!?」
私は青い身体を一層青くさせ、わなわなと肩を震わせた。
カリンに限って……。
いや、私が甘かった。
塔の中の人物は、生まれてこの方母親と魔女以外、年の近い女性を見たことがない成人男性なのだ。
そこにカリンほどの可愛らしい女性が現れたら……。
よく考えればわかることではないか!
しかもうら若い――おそらく私より若い――絶世の美男子。
10年もの間私を思い続けてくれた健気なカリンを信じてはいるが、私でも見惚れてしまった容姿やその声。
そして出口のない塔の中で二人きり。
万が一のことが起こってしまったら……。
その時だった。
バサッ!とものすごい音を立て、頭上から何かが降ってきた。
「!? こ、これは……」
これは、カリンが持って行った、イラクサで編んだロープ。
これでは、カリンはもう降りることができない……。
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