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バラの乙女とバラの騎士と黄金のバラ  作者: 香田紗季
バラの乙女とバラの騎士編
9/35

読みに来てくださって、ありがとうございます。

よろしくお願いいたします。

 クラベルは夢を見ていた。誰かに温かく包まれている。誰よりも安心できるその人の匂いは、アシェル家のバラ「クリームシフォン」とシダーウッドをブレンドした、あの人だけの香水の香りだ。


「もう大丈夫。幸せになるんだよ」


 あの人がそう言ったような気がする。心のつかえが何だか取れたような気がして、ほっとしたクラベルは再び暗い眠りの深淵に落ち込んでいった。


 クラベルが意識を取り戻したのは10日後だった。このまま死んでしまうのではないかと誰もが思っていたという。頭も心も、曇りがとれて妙にスッキリと晴れている。


「なぜ私は助かったの?」

「ガロが、バラの力を使ってくれたからだよ」

「バラの力?」

「そう。バラの妖精の加護にはいろいろあるらしいんだけどね、ガロは自分の命をクラベルに差し出してくれたんだ」

「そんな! ガロが? 私を裏切っていたのに?」


 いや、違う。ガロファーノはいつもクラベルを守っていた。そして、次の瞬間、夢で聞いた言葉を思い出した。あれはガロファーノだった。いつでもクラベルの幸せを願ってたガロファーノの言葉は、偽りではなかったのだ。


「クラベル。今、お前は信用できると思う家族以外の男は、いるかい?」


 父に聞かれ、クラベルは少し考え、小さな声で、ガロ、と答えた。父はほっとした様子を見せた。


「お前が、ガロを拒絶したのは覚えているか?」


 そういえば、眠りに落ちる直前まで、ガロファーノのことがとてつもなく憎く、自分を裏切ったひどい人だという思いが強かった事を思い出す。頭がなんだか重くてうまく働いていなかったような気もするが、それは自然な感情だったはずだ。


「だって、ガロが私をだますようなことをしていたから」

「どうしてそう思ったんだい?」

「あの人が()()を教えてくれたから」

「あの人?」

「名前はよく覚えていないわ。でも、私を守ってくれていた人」 

「ザイデルバスト、か?」

「そう、そんな名前の人」

「そうか」


 アシェル伯爵は大きく呼吸してから、クラベルを真正面から見る形に座り直し、よく聞くんだ、と言った。


「お前は、ザイデルバストに嘘を吹き込まれて弱った所に、何らかの魔術を掛けられ、ガロを嫌い、ザイデルバストを信用するように心を歪められていた。ザイデルバストの目的は、お前とガロを仲違(なかたが)いさせて、『バラの乙女』と『バラの騎士』の座から引きずり下ろすことだった。ルーチェ公爵家とオルテンシア嬢は、『ヴェレッド王のバラ』の栽培に失敗したことでザイデルバストの怒りを買い、いいように使われていたようだ」

「それでは、オルテンシア様がうちに来たのは……」

「お前を誘拐するためだ。お前とガロを物理的に離すために、お前たちの『ヴェレッド王のバラ』を切り刻み、お前が一人になったところで誘拐し、ザイデルバストが言葉巧みにお前の感情を誘導し、弱ったお前に禁術を掛けた」

「ガロは私を裏切っていなかったの?」

「当たり前のことだ。なぜお前がガロを疑ったのか、その方が私には驚きだった。よほどの術だったのだろう。ザイデルバストはガロからお前を奪うことで、ガロを弱らせて『ヴェレッド王のバラ』を枯らそうとしたんだ。私が王城に呼ばれたのも私をベルから引き離すための策で、王城からの招集令状は、ルーチェ公爵が偽造したものだった。我々はすっかり、奴らの術中にはまってしまったんだ」

「ガロは? ガロはどこにいるの?」

「分からない。ガロはあの晩、アシェルの家を出て行こうとしていた。使用人たちが、お前が倒れたとまだ邸の中にいたガロに伝えたんだ。それで、ガロはお前を助けるために禁じられてたバラの力を……分かりやすく言うと、お前にガロの寿命を半分与えたんだ。その時に、ガロはザイデルバストが禁術を使った痕跡に気づき、ザイデルバストの術を解くために力を使った。ガロは元々()()()()()ためにバラの力を使うことは許されていた。だが、()()()()()()ために禁じられていた力を使ったことを、神殿と国王陛下に気づかれた。ガロは瞬時に現れた神官たちに拘束され、ガロの中にあったバラの力を全て取り上げた上で連れ去られてしまったんだ。もう王城にもいないし、王族でもない」

「追放? バラの力を取りあげられる? どうして?」

「バラの力を治療行為のために王族内で使うことは、バラの妖精も許したらしい。だが、バラの妖精は、人間の力ではないのだから、人間の都合で自由に使ってはならないとお決めになったらしい」

「人の命を救うためでも?」

「自然の理を曲げている、ということだよ」


 自分のせいで、ガロファーノが理不尽な目に遭っている。納得できなかった。辛かった。原因が自分にあると分かっていたが、王家が許せなかった。そこまでして王家が守りたいものとは何なのか? クラベルには分からなくなってしまっていた。


「ベル、王家が守りたいのは、この地と民の安全だ。そのためならば、一族であろうが貴族であろうが、利用する。使えないものは税を無駄遣いすることになるから、切り捨てられる。厳しい世界なのだよ」

「あの、ガロが今どこにいるのか、本当に分からないのでしょうか?」


 クラベルの命を、ガロファーノは確かに助けてくれた。クラベルはまだザイデルバストの術から解けたばかりで混乱しているところがあるが、あれほどガロファーノを信頼していたのだ。きちんと話し合えば、2人とも幸せになれるはず。私のせいでガロが、と泣きじゃくるクラベルを妻と侍女に任せ、アシェル伯爵は騎士団の一部をガロファーノの捜索に回すことを決めた。


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