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第一部最終話になります。
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話し合いの結果、「バラの乙女」には薄い水色のバラを咲かせた侯爵家の令嬢が選ばれ、その「バラの騎士」だった王族の男子が新王に決まった。新王はガロファーノの従兄弟であり、従兄弟の父である前王の弟は良識的な人間であった。もう1人の最終候補だった、濃い紫色のバラを咲かせた伯爵家の令嬢は、薄い紫のバラがそれ以前から存在したことを強く主張し、候補から降りたいと願った。
「薄いとはいえ幻と言われた青バラには、紫よりも水色のバラの方が一歩近づいています。バラの赤系の色素が完全に抜けた水色のバラには、たとえこれまで無かった濃い紫のバラでも、到底その価値は及びません」
濃い紫のバラを咲かせた伯爵令嬢とその「バラの騎士」は、「バラの乙女」になることも王になることも固辞する代わりに、2人の結婚を望んだ。この2人もお互いの信頼を深め、愛し合っていたのだった。紫のバラの伯爵令嬢は、自分の「バラの騎士」が王族に復帰すると、新王の王兄の妃として輿入れした。
「水色のバラの君」と呼ばれた新王妃は、真の「バラの乙女」ではない。このことは、国中に一抹の不安を抱かせることになった。だが、真の「バラの乙女」が新しいバラの妖精と結ばれるためだと知ると、貴族も庶民も、アシェル伯爵家を重く扱うようになった。新王妃は、アシェル家の「ヴェレッド王のバラ」を見て、自分は本来「バラの乙女」たりえないのだということを骨の髄まで理解したようで、王家の中にあったアシェル伯爵家を潰そうとする動きを全て封じた。
クラベルとガロファーノの結婚式は、それは盛大なものとなった。新王が邪な気をおこさないようにと、選定の日から1ヶ月で式を挙げてしまったのだ。
「私は本来王になるべき人ではなかったのだし、私には『水色のバラの君』がいるからね、クラベル嬢に目を向ける暇なんてないよ」
と新王は笑っていたが、ガロファーノはクラベルを奪われまいと、どこへ行くにもクラベルを抱いていた。庶民からは熱々の新婚さんだねえ、などという声が聞こえてきたがそれは決して悪いものではなく、愛し合う2人が引き裂かれずにすんでよかった、と純粋に思って発した言葉だった。
そう、この頃から、ガロファーノは前王がクラベルを狙っていたことを、少しずつ噂として流し始めていたのだ。「ガロとベル」の話は劇になり、地方や他国にまで上演しにいく劇団もあった。ヴェレッド王国の前王は、大悪漢であると、人々に刷り込んでいった。そんなガロファーノの行動を知らないクラベルは、デビュタントの白い衣装に、「ヴェレッド王のバラ」の金色を加えたウェディングドレスを着用した。急がせれば新しいドレスは作れる、とガロファーノは主張したが、クラベルは頑なにそれを拒否した。
「一度しか着ないデビュタントのドレスと、一度しか着ないウェディングドレス、私はずっともったいないと思ってきたの。両方とも、貴族女性であれば、一生のうちで一番お金を掛けるドレスになるでしょう?デビュタントのドレスは、確かに去年用意したものだったけれども、お金を掛けすぎるのもよくないわ。特に、私たちの結婚はみんなに認めてもらっているとは言え、真の『バラの乙女』と『バラの騎士』の役割を放棄した形で成立しているのよ。新国王夫妻よりも目立つような衣装にするわけにはいかないわ」
その代わり、とクラベルは続けた。
「王族しか身につけられない黄金の『ヴェレッド王のバラ』がアシェル家にあるんですもの。それを使わない手はないわ」
王族しかできないはずの「ヴェレッド王のバラ」を使った結婚式を、伯爵家の、正式ではない結婚式で使うのだ。それも、王家のものよりも美しく輝くバラを。それは、これまで不可侵とされた王家への大きな挑戦となり、アシェル家が特別な家だということを知らしめるツールとなる。
「だから、衣装は二の次。『ヴェレッド王のバラ』と『クリームシフォン』を効果的に使うためにお金を使いたいの」
なるほど、それも一つの手だ、とガロファーノもアシェル伯爵も思った。黄金のバラに包まれた真の「バラの乙女」、その隣には前王から真の「バラの乙女」を守り、愛を貫いた新しいバラの妖精。2人を引き裂こうとした前王と前バラの妖精の悪行と一緒に人口に膾炙すれば、王家に大きなダメージを与えられるだろう。
2人が都の大聖堂で結婚式を挙げた日、国中のバラが咲いた。ローズペタルのフラワーシャワーは都中に降り注ぎ、都に残っていた邪気を払った。美しいクラベルの幸せそうな微笑みと、クラベルを深く慈しむ優しい目をしたガロファーノの姿に、かつてガロファーノに釣書を送った令嬢たちは、自分たちの出る幕ではなかったときれいさっぱり諦めがついた。
「ねえ、ガロ、真の『バラの乙女』って、結局何だったと思う?」
「俺は、エグランティエの『ローズ復活計画』の犠牲者だったと思うよ」
「それなら、どうして真の『バラの乙女』にはバラの栽培能力が求められたのかしら?」
「エグランティエがバラの妖精だったから、そして自分の分身とも言えるバラを、大切に育ててくれるローズが好きだったからでは?」
「それなら、真の『バラの乙女』の力って?」
「王太子や王になる『バラの騎士』に、王となる覚悟を持たせるってことだろうか? 真の『バラの乙女』は、ある種の聖女だった。その聖女に並ぶことのできる男でなければ、乙女も国も守れないからな。王に、真面目に国を守らせる力を持っていた、とも言えるかもしれないな」
2人にとって、2人がどう呼ばれようと気にすることではない。ただそこにクラベルがいて、ガロファーノがいる。それだけでいいのだ。ガロファーノがクラベルを後ろから抱きしめる。首にはまだあのバラのあざがある。金色に咲き誇る、ヴェレッド王のバラのあざだ。そのあざにガロファーノが顔を寄せて香りを深く吸い込む。遠くから見ている人々からは、ガロファーノがクラベルの首筋にキスをしているようにしか見えないだろう……とクラベルが思っていたら、本当に首筋にキスをされた。
「これから、俺は影の存在になる。俺のことを知らない貴族はいない。姿を見せないからといって、俺がいないと思い込んで、ベルに手を出そうとする奴があらわれないように、しっかり見せつけておかないと」
ちり、と痛みが走る。あざとキスマークが重なったら、どんなふうに見えるのだろう。
「ガロ、私を守るために、できることをすべてしてくれてありがとう。ずっと、ずっと、私の傍にいてね」
「もちろんだよ、ベル。ベルがもう俺のことを嫌いになっても、離してやらないからな」
2人のキスに、見守っていた人々から歓声が沸き起こる。黄金のバラとクリーム色のバラが、2人を守るように揺れていた。
全25話、読んでくださってありがとうございました。
第二部は「バラの子どもたち編」です。どうぞ!




