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ガロファーノとクラベルは、奥の庭園で抱き合ったまま、呆然としていた。国王は死に、バラの妖精だったエグランティエは、ローズと共に消えてしまった。近衛騎士たちは邸の中からこちらを窺っている。アシェル伯爵夫妻は、家令たちと少し奥まったところへ身を潜めていたが、全てが終わったとみて、ガロファーノとクラベルの所へ戻ってきた。
「終わったのですか?」
「ああ、終わった。俺が新しいバラの妖精になった」
「クラベルはどうなるのでしょう?」
「まずは新国王を選び、即位させることが先になるだろうな」
クラベルは、ガロファーノから離れようとしない。まだ恐怖から解放されず、言葉が出ないのだ。
「近衛の隊長はどこにいる?」
「お呼びになりましたか?」
一部始終を見ていた近衛の隊長は、ガロファーノがバラたちから力を与えられて、ただの『バラの騎士』からバラの妖精になるところを見ている。この国は、バラの妖精の加護で守られている国だ。そのバラの妖精を粗略に扱うことはできない。
「国王の体はないが、身につけていたものはその辺りに散らばっているだろう。それを持って王城に戻り、至急新国王を選定する準備をするよう、宰相に伝えろ。それから、王太子と国王の両方がいない状態など、周りの国が何をしてくるか分からない。国境を守るつるバラたちには指示を出してあるが、国境を守る軍に注意を促せ」
「分かりました。バラの妖精は、王城にはいらっしゃらないのですか?」
「俺は、行かない」
「なんと、お待ちください。それではこの国が……」
「国王と王太子が決まったら、俺を呼べ。その時に話をする。それまでは王城には行かない。これは決定事項だ。下がれ」
ガロファーノは近衛の隊長に指示を出すと、クラベル、アシェル伯爵夫妻と共に邸の中に戻った。
「想定外のことばかりで、用意した兵士は役に立ちませんでした」
「いや、これから王家が兵を差し向ける可能性がある。邸を守らせるためにちょうどいい。それより、これからのことを相談したい」
「クラベル、もう話せるか?」
「ええ、何とか」
クラベルの右手は、ガロファーノの左手としっかりつながれている。
「王も前のバラの妖精もいなくなった今、俺とベルが一緒になることを妨げるものはいない。新王がベルを王妃に、という話をするかもしれないが、俺が新しいバラの妖精になったのだ、加護を引き上げると言えば屈するだろう。王家が諦めるまでは加護を続けてやる。だが、これで俺は終わりにするつもりはない」
ガロファーノはクラベルの目を見て言う。
「俺の人間の部分は、確かに王族だった。だが、王族は今やその力の使い方も理解せず、バラの妖精が守ってくれると国軍まで怠けている有様だ。だから、この国のあり方を変えようと思う」
「何をするの?」
「王家を滅ぼす」
アシェル伯爵夫妻の顔が真っ青になる。
「俺が王位を取るわけではない。妖精だからな。それに、バラの妖精が国を滅ぼしたとなれば、クラベルも悪く言われかねない。だから、これから王家の力をどんどん削いでいく。そして、いずれ兵を挙げる。俺ではない誰かが」
「人に任せるのですか?」
「いや、育てるんだ。ふさわしい人材を」
「私たちの子どもを、簒奪者にするの?」
「いや、ヴェレッド王を簒奪者という者はいないだろう? 悪い王家なら、排除してみんなが住みやすい国を作る。そういうものだ」
「……そう」
「まだこの計画は杜撰だと認める。今考えたばかりだからな。だが、子どもたちを立派に育てることが、この国の未来に繋がるのなら、そう思ったんだ。計画を練り込むことに時間を掛けるのは大切なことだ。いや、時間をかけて確かな計画にするために、子どもたちに託すんだ」
「今はまだガロの計画に賛成だとは言えません。ですが、未来をよりよくするためにいろんな選択肢を考えることには賛成します。現段階ではそれでよいでしょうか?」
「ああ。それでいい」
ガロファーノの所に、バラの花びらが1枚、飛んできた。その花びらをつかむと、香りを嗅ぐ。
「エグランティエは、妖精王に捕らえられた。神の審判を受けるまで、俺たちに干渉することは絶対にない。妖精王からの知らせだ」
クラベルは、ガロファーノが本当に今までと違う所にいるのだと気づいた。
「ガロ、あなたは、あなたにふさわしい世界へ行ってしまうの?」
「約束しただろう、どんなことがあっても、俺はベルといる。俺がバラの妖精になってしまったから、不安になったのか?」
俯くクラベルにガロファーノははっきりと言った。
「俺はクラベルと結婚する。だが、人間ではないから、正式な結婚にはならない。それでも、俺とベルは普通に結婚式もするし、配偶者として俺はここに住む。クラベルは将来アシェル伯爵を継ぐ。戸籍上独身であっても、事実婚で子どもを育てればいい。ベル、それでいいだろうか?そうすれば、アシェルの一門も今まで通り生活できるはずだ」
「ガロ……」
「だめなら他の方法を考えるが、ベルが俺と一緒になる運命だけは何者にも邪魔立てさせない」
「お父様……」
「私は、ベルが選んだ道を支持する。ベルが一番幸せになれると思う方法を選びなさい」
クラベルは、ガロファーノの目を見つめる。ガロファーノの目も髪の色も、バラの妖精になっても変化していない。そうだ、ガロファーノの力は格段に強くなったが、内面は基本的にクラベルのよく知るガロファーノなのだ。
「ガロ、私、アシェルの家を継ぐわ。ガロと正式な結婚ができなくても、ガロが隣にいてくれるなら、それでいい」
クラベルとガロファーノがアシェル伯爵夫妻を見る。2人は静かに頷いた。
「王家に横やりを入れられる前に、我々も行動しよう」
読んでくださってありがとうございます。
次回は暗い要素がなくなるはずです。
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