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バラの乙女とバラの騎士と黄金のバラ  作者: 香田紗季
バラの乙女とバラの騎士編

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読みに来てくださってありがとうございます。

ちっと短めですが、よろしくお願いいたします。

 王から伝えられた、クラベルを側妃に召し上げるという話をどうやって回避するか。王は既に日取りまで決めようとしている。アシェル伯爵は国外逃亡の準備をしながらも、この国でガロファーノとクラベルが穏やかに暮らせる方法を模索していた。ここ2、3日、クラベルがガロファーノと深刻そうな顔で相談しているのを見るにつけ、駆け落ちだけはしてくれるな、と言いたいのを我慢している。最悪、駆け落ちもありだが、そうなったら我が一門が極刑に処される可能性があるから、それだけは避けてほしいのだ。


 ガロファーノとクラベルは、クラベルが妖精化しただけでは一門の命が危ないことを理解した上で、違う方法がないか、話し合っていた。一門の命のためには、やはり一門全員での国外逃亡の上、妖精になることが一番だとは思うが……


 待って。


 クラベルははっとした。ザイデルバストが『バラの騎士』ではなくなった段階でザイデルバストをルーチェ家から王家に戻さず、その企みを未然に阻止できなかった王家には責任がないのだろうか? 王家の責任を追及する形で、こちらに優位な条件を引き出せないだろうか?


 ガロファーノにこの気づきを話すと、ガロファーノは手札の一つにしよう、と言った。ガロファーノは最近バラの力を使いこなせるようになってきており、王城内の様子をバラを通じて知ることができるのだという。


「最近の国王の行動は、明らかに以前と違うんだ」


 ガロファーノに取っては実の父である。その父が壊れていくのを見るのは、辛いだろう。


「ザイデルバストがベルを誘拐した事件、あの時までは、頼れる人だった。だが、クラベルはどんどんきれいになっていくし、ザイデルバストにまで求められた。他人の『バラの騎士』までその香りに酔うようなクラベルに、国王は女性として興味を持ってしまった。俺が『ヴェレッド王のバラ』の中で体力を取り戻している時に、バラの妖精が教えてくれたよ。デビュタントの時に、国王がクラベルのファーストダンスを狙っているって。デビュタントの時に王族と踊るのが慣例になっている国もあるが、このヴェレッド王国は違う。国王がファーストダンスを踊るのは、配偶者のみだ」


 だから、気をつけて。


 ガロファーノは、クラベルをその膝の上に載せて、後ろから抱きしめる。バラの蕾のあざは形を変え、どんどん膨らんできている。


「あと1週間もすれば、『ヴェレッド王のバラ』が咲き始める。おそらく今日か明日の内に神官と使者が来て、バラの状態を確認し、国王に報告するだろう。そして、バラが咲いたら報告するように言われるはずだ。その時国王も、バラの色を確認するため、候補として残っている3家を訪れる。いいかい、国王はもちろん王族だ。バラの力を持っている。普段はしないが、ベルをつれて転移しようとするかもしれない。だがら、絶対に俺から離れないように。いいね?」

「わかったわ」


 ガロファーノは最近、この体勢でクラベルを抱きしめながら、あざの辺りにかおを埋め、うっとりと香りを堪能する時間が増えた。クラベルとしては恥ずかしいのだが、ガロファーノには必要な時間らしい。これがないと力が出ないなんて言われると、クラベルもガロファーノの傍にいたい気持ちがあるから、つい許してしまう。


「ベルの香り、本当にいい香りだ。本当は、俺はベルさえいれば、他のものはどうでもいいんだ。妖精になってから、そういう考えがどんどん強くなっている。でも、それだとベルが悲しむだろう? それに、今まで生きてきた中で培った人間としての考え方や習慣は、そう簡単になくなるものではない。妖精にも人間にもなりきれない今の状態は辛いが、ベルが傍にいて、絶対に離れないって言ってくれるから、頑張れるんだ」

「ガロ……」


 ガロファーノは一度殺されかけたようなものだ。いや、一度はあの世の光を見てしまっている。臨死体験のようなものだ。人生観が大きく変わるのも無理はない。


「私は、ガロといる。でも、私をこれまで守ってきてくれた人たちも、守りたい。私のわがまま、叶えてくれる?」

「ベルのお願いなら、何なりと」


 クラベルが頭を斜め後ろに傾けると、2人の目が合う。唇どうしのキスはまだしない、と2人で決めている。命を半分譲り渡した方法については正直に話したが、お互いの中で一線を決めておかないとそのまま既成事実となってしまうことを、2人とも恐れている。貴族として染みこんだ価値観が、今は役立っている。


「今ね、1つ思いついたんだ。時間がないから難しいけれども、アシェル伯爵とも相談したい。今から一緒に伯爵のところに行こう?」

 

 2人は先触れもなくアシェル伯爵の執務室のドアをノックした。


「おや、ガロ坊ちゃんとお嬢様、どうなさいましたか?」


 アシェル伯爵の護衛騎士がドアを開けた。


「お父様にお話があるの。お話、できそうかしら?」


 今は緊急事態だ。何かあればいつでも執務室に来ていいと言われている。護衛騎士は2人を中に入れると、アシェル伯爵に声を掛けた。


「どうした? 何か思いついたか?」

「はい。人払いを」

「分かった。済まないが、みんな下がってくれ」


 誰もいなくなると、ガロファーノが思いも寄らない策を話し始めた。


「王を、退位させればいい」


 アシェル伯爵とクラベルは息を呑んだ。確かに、現王が退位してしまえば、王権によってクラベルを召し上げることはできなくなる。だが、今、この国には王太子がいない。新王のめどが立たないし、そもそもどうやって王を退位させるのか?


「力づくというのも、アシェル騎士団だけでは難しい。他の貴族を巻き込むにも、時間はおそらくバラが咲くまでの1週間しかない。伯爵、どう思う?」

「王の退位であれば確かに我々が国外に行く必要はないかもしれないが、難しいな。いわば反乱になる。他の王族がまとまってこちらに向かってこられたら、いくらガロでも太刀打ちできないだろう」

「『バラの騎士』全員をまとめられれば、可能性はある。だが、『バラの騎士』に関係していない貴族はどう動くか……」

「もう少し詰めよう。クラベル、お前はちょっと外してくれるか?」

「私も当事者よ」 

「お前は知らない方が、こちらが動きやすくなることもある。お母様のところに行って、近々に迫った、バラが咲いた時に王家をお迎えする際の準備をしていなさい」


 父にそう言われたら、クラベルは従うほかない。


「お父様、ガロ、危険なことは避けてね」

「できるだけね」


 執務室の扉を閉める。扉の外で待っていた護衛騎士に、中で2人が密談を続けていることを告げておく。


 決戦まで、約1週間。重い空気が、アシェル家を包んでいた。

読んでくださってありがとうございました。

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