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ガロファーノの意識が戻ったのは、どれくらい経った後だったのだろう。男と女が何か話している声が聞こえる。男の声に聞き覚えはないが、なぜか知っている気がする。そして女の声は……
「ベル!」
ガロファーノが目覚めたのは、バラの妖精とクラベルが出会った時だった。その時バラの妖精は、ガロファーノが「ヴェレッド王のバラ」の中にいることをクラベルに教えていた。そして、このバラの木が生きていること、信じて世話をしていればガロファーノに再会できるということも。
クラベルはそれ以来、毎日ガロファーノに宿る「ヴェレッド王のバラ」の世話をし、話し掛けてくれた。クラベルが元気になったと分かって、本当にうれしかった。できることならこのまま飛びだしてクラベルを抱きしめたかったが、「ヴェレッド王のバラ」がそれを止めた。
〈傷ガ マダ 癒エテ イナイシ オ前ガ 知ルベキコト タクサン アル〉
ガロファーノは、時折やって来るバラの妖精や「ヴェレッド王のバラ」から、バラの妖精の力や、妖精の世界、バラの木がうれしいこと等、人間の時には知り得なかったことを学んでいった。ガロファーノに会いたいと涙を流しながら話しかけるクラベルに思わず飛び出そうとしたことは、一度二度ではない。
ガロファーノの傷が癒えてくると、「ヴェレッド王のバラ」にも変化が現れた。春先になったこともあり、芽が出たのだ。シュートが伸び、葉がたくさん茂り……そして、デビュタントの日を迎えた。出かける前にガロファーノの前に姿を見せたクラベルは、本当にきれいだった。このままでは、明日には大量の釣書が届くのが目に見えた。ガロファーノは、やって来たバラの妖精と「ヴェレッド王のバラ」に、そろそろ外に出たいと相談した。
「完全体ではないから、何かあった時に力を出し切れないかも知れないぞ」
「構いません。ある程度で十分です。一度失ったと思ったバラの力を再び与えられ、使えるようになるなんて、夢のようです」
〈修行モ シッカリシタ カラ キット 大丈夫ダロウ。ベルヲ 守レ〉
「行ってくる!」
ガロファーノが奥の庭園に現れた時、庭師たちが片付けをしていた。
「お、おい、ガロ坊ちゃんじゃないのか?」
「本当だ、ガロ坊ちゃんだ!」
「ご無事だったんですね!」
「いつお戻りに?」
庭師たちがガロファーノを取り囲む。もみくちゃにされながら、ガロファーノは自分がいかに庭師たちに愛されていたのかを実感した。
「今帰ってきたんだ。家令はいるかな?」
「ええ、いますよ! きっと大喜びしますぜ!」
「あ、でもさっきご主人様たち、出発しちまったよな?」
「急いで支度をして、追いかけようと思うんだ。俺は部屋に行くから、誰か家令に、準備を手伝ってくれる人を回すように伝えてくれるかい?」
「おお、いいよ、言っておいてやる!早く行ってやってくださいよ、お嬢様喜ぶだろうなあ」
部屋にたどり着いたガロファーノを、庭師たちから話を聞いた家令が見つけて走ってくる。家令が走るなんて、初めて見た。
「ガロファーノ様、お帰りなさいませ!」
「ああ、ただいま。すぐに支度できるか?」
「お手伝いします。ガロファーノ様の近侍もすぐに参りますよ」
「ありがとう。ベルが泣くといけないから、急ぎたい」
「かしこまりました」
手早く着替えを済ませ、髪を整える。久しぶりに靴を履くが、きちんと手入れされていたようで、違和感もない。
「家紋付きの馬車は既に出てしまったので、家紋なしの物になりますが……」
「構わない。転移するから」
恐ろしいことをさらっと言って、ガロファーノは振り返ると、
「行ってくる」
次の瞬間には、既に姿はかき消えていた。
「ガロファーノ様、今までいましたよね?」
「は、はい」
「幻では、ない」
「そう、思います」
「衣装は……ないですねえ」
「着て行かれましたよね……あの方、行方不明の間に、すごい人になってしまわれたんでしょうか?」
そうかもしれませんね、と家令はつぶやいた。ガロファーノが「ヴェレッド王のバラ」の中にいたことは、アシェル伯爵親子しか知らない。
・・・・・・・・・・
王城の庭に転移したガロファーノは、まず、王の所に侵入した。
王はガロファーノに気づくと、ひっと叫んだ。
「ご無沙汰しております、国王陛下。ご挨拶に参りました」
「儂を殺しにでも来たのか?」
「いいえ、あなたのおかげで、私は半妖半人ではなく、純粋な妖精となれました。以前と比べてできることも増えましたし、人間に理に従わねばならないという制約からも離れられました。これからのびのびと生きていけそうですよ、妖精として、ね」
「……何が言いたい?」
「今日は、ベルのデビュタントです。あなたがベルと踊ることは許さない。踊ったら……分かりますよね?」
「儂を脅すのか?」
「人間が妖精に刃向かえるとでも?」
「……チャンスはいくらでもある。」
「いいえ、ありませんよ。ベルに一切触れさせませんから。ああ、それから、ザイデルバストが何か企んでいるようです。私がバラの力を-」
「バラの力だと!お前から奪ったはず-」
「私は妖精ですからね、そんなもの取り戻しましたよ、当然、ね。あ、さっきの話の続きですが、私は捕縛時にバラの力を使うだけに留めたいんですよ。だから、騎士たちを何人か、会場入り口に用意してください。私の指示に従って動いてもらいますから」
「……儂を殺すのか?」
「状況により、ですかね。バラの妖精は、王家に加護の力を与え続けるかどうか、考え始めていますよ」
私に話を合わせてくださいね、では後ほど。
ガロファーノは再び転移した。ホールにはデビュタントを祝って、白いバラの飾りがあちらこちらにある。出入り口のバラに目をつけると、ガロファーノはそのバラの1つに話しかける。
「お前の仲間に、ザイデルバストを見つけたらすぐに俺に報告するように伝えろ」
風もないのに、バラが揺れる。ガロファーノは返事をしたバラの花にねぎらうように触れ、姿を消した。
ガロが黒く見えた方、ガロはただベルを守りたいだけです。
力を持つ者は、清濁併せ持たねばならないのかもしれません。
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