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よろしくお願いいたします。
ガロファーノと帰宅したクラベルは、ガロファーノに手を引かれるまま、「ヴェレッド王のバラ」の所に行った。デビュタントに出かける前に、ここでガロファーノに声を掛けたことを思い出す。たった数時間前のことなのに、随分長い時間が経ったように感じる。
「ベルが行ってきますって言った時、どうして俺も行きたいと思った。まだ完全ではなかったんだが、無理をして人間の姿に戻ったんだ。王城に着いてみたらベルがまたあいつに攫われそうになっていたから、焦ったよ。間に合って、本当に良かった」
「ガロ、ごめんなさい。私の心が弱かったばかりに、ザイデルバストの術に嵌まって心を操られてしまった。そして、あなたをひどく傷付けてしまった。それなのに、ガロは私にまた会いに来てくれた。私、もうガロと離れたくない!」
「ベル、もういいんだ。あれは事故だったんだ。ベルの心変わりがあいつの魔術だと分かった時は、ほっとしたんだ。ベルに、本当のベルに嫌われたわけじゃないって分かったから。だから、バラの力を奪われて、人間の体のままでは死んでしまう、死んだらベルに逢えないって思って、妖精体になってアシェル家に何とか戻ったんだ。そして、妖精体となった体さえも維持できなくなって、『ヴェレッド王のバラ』の中に吸い込まれた」
自分の意志でバラの中にいたわけではないのか。クラベルの心は痛んだ。
「『ヴェレッド王のバラ』の中で、俺はいろんなことを知った。ベルが毎日話しかけてくれたこと、返事はできなかったけれども、ちゃんと聞こえていたよ。それに、バラの妖精が、バラの力についていろいろ教えてくれた。『バラの乙女』と『バラの騎士』の役割も、俺にもまだまだ知らないことがたくさんあった」
ガロファーノが空を見上げる。上限の月は既に遙か西に傾き、星がいつもよりも輝いているように見える。
「俺は今、月なんだ」
「月?」
「そう。太陽なら、みんなの役に立てる。星なら、仲間がたくさんいる。でも、月は太陽のように役にも立てず、仲間もいない……中途半端な存在になってしまった……」
「……ガロ、私がいてもだめなの? お父様やお母様や、騎士団や邸のみんなでも?」
ガロファーノは視線をクラベルに落とした。曖昧に微笑む。答える気は無いのだろう。ゆっくりとクラベルの首筋に顔を近づけると、首元を覆うレースをめくり、首筋のバラのつぼみのあざにそっと鼻を寄せた。大きく息を吸い込む。表情がゆるゆると溶けていく。
「……ガロ?」
「……ベルの香りがする。いい香りだ……」
「……?」
そのままクラベルの肩に頭を預ける。頭をぐりぐりと肩にこすりつける。
まるで大型犬ね?
ガロファーノがいなかった時間を埋めるように、縋り付くガロファーノを気の済むまで甘えさせる。愛おしさが募る。クラベルはガロファーノなしの人生は考えられないと再認識した。
「ベル、明日いろいろ話をしようと思う。今日はこれだけ伝えておくよ。俺はベルを二度と離す気は無い。だが、ベルにとって、それはとても辛いことになるかもしれない。それでも俺と一緒にいたいかどうか、考えておいて」
ガロファーノはクラベルの頬を両手で包むと、両の親指でその頬をそって撫でた。
そういえば、ガロ、いつから「俺」っていうようになったんだろう?
復活してからのガロは今までと少しだけ雰囲気が違うことに小さな不安が生まれる。
「部屋まで送るよ。俺はベルの騎士だから」
指を絡めるように手を握り合って、黙ったまま2人は歩く。父は母と共に、王と話があるから帰りは遅くなると言っていた。
「お休み、ベル」
額に優しくキスされた。子どもの頃から続く、ルーティンの1つ。だが、1年以上間の空いたその習慣が、今日は妙にくすぐったく、恥ずかしい。
「お休み、ガロ」
クラベルの心臓は早鐘を打ったままだ。
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