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2月になった。あの緑の部分が大きくなることはなかったが、クラベルは庭師たちと毎日観察を続けた。そして、ぷっくりとした赤い突起が出来ていることに気づいた。この芽が葉になるのか、新しいシュートになるのか、まだ分からない。だが、もしこれが新しいシュートの芽だとしたら……クラベルは祈るような気持ちで、赤い突起に触れたいのを我慢しながらバラに呼びかけた。
「少しずつでいいから、大きくなってね。大きくなって、力をつけてね」
2月半ばになると、赤い突起は芽の形を取り始めた。ガロが、少しずつ元気になっている、そう思うと、クラベルはその芽が愛おしくてならなかった。
3月になると、他にも芽がいくつか出てきた。しっかりとした葉の形を取っている者もある。この時期には「芽かき」をしなければならない。内側から生えてきた芽や枝があると、将来枝が混み合ったり病気が広がりやすくなったりする。それを防ぐために早い内に芽をかき取り、必要な芽に栄養を回していく、という目的もある。芽の一つ一つがガロファーノに思えて、今年のクラベルは芽かきをするのが少しだけためらわれた。だが、芽かきをしないと立派な木に成長させることができない。クラベルは庭師たちと確認しながら芽かきをした。
最初の芽はベイサルシュートだったようで、ぐんぐんと太く、長い茎となっていった。新しいシュートにはたくさんの芽がつき、4月になるころにはたくさんの葉が茂るようになった。早いバラならば、蕾がつき始める。四季咲きの「クリームシフォン」のせっかちな株にも、小さな蕾がつき始めている。だが、「ヴェレッド王のバラ」には蕾はまだ無い。
「ガロ、もう4月が終わるわ。来月にはル・バル・デ・デビュタントもある。今年こそあなたとデビュタントに出たかったけれども、無理かもしれないわね」
「ヴェレッド王のバラ」の葉が、静かにそよいでいる。まるで、ガロファーノが何か伝えようとしているようだ。クラベルはそっとその葉に触れる。
「言いたいことがあるなら、早く私の前に戻ってきて。そこにいるのは分かっているんだから。デビュタントに間に合わないと、私、誰かのお嫁さんにさせられてしまうかもしれないわよ」
バラの葉が、さらにふるふると震えたような気がする。最近、こんなことが多い。言葉にならないが、ガロファーノと会話できているようでクラベルの心が少しだけ上向く。
来月のデビュタントを考えると、気が重い。ガロファーノのために作った衣装は今、自分の衣装部屋に置かれたクラベルのデビュタント用の白いドレスの横に並べられている。
あなたとファーストダンスを踊りたいっていうのは、わがままなのかしらね。
クラベルは誰にも聞かれないよう、心の中でそうつぶやいた。
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5月になった。アシェル家の「ヴェレッド王のバラ」は、昨年よりも大分小さくまとまっているが、十分な葉を茂らせている。ル・バル・デ・デビュタントに向かう前に、クラベルは「ヴェレッド王のバラ」の所に行った。
「ねえ、ガロ。今日がデビュタントよ。あなた、とうとう間に合わなかったわね。エスコートとファーストダンスは、お父様がしてくださることになったわ。見て、今日の衣装、去年あなたと相談しながら決めたものよ。もしあなたが遅れてでも参加できることになったら、私の衣装部屋にあなたの衣装があるから」
クラベルは「ヴェレッド王のバラ」の葉に軽くキスをすると、「お守りにちょうだい」と言って「ヴェレッド王のバラ」の葉を一枚、剪定ばさみで切り取った。髪は「クリームシフォン」の生花で飾られている。この国でデビュタントを迎える娘たちが髪に飾るものは、その家のバラと決められているからだ。花だけでなく葉も編み込んだクラベルは、「クリームシフォン」の葉に紛れるように、そのバラの葉を差し込んだ。
「……行ってくるわね」
さわさわと「ヴェレッド王のバラ」の葉が揺れる。いつもと違う揺れ方だったが、デビュタント前の緊張状態にあったクラベルがそれに気づくことはなかった。
バラを育てていると、本当に手がかかるんですよ。
すぐに病気になるし、虫が葉っぱや蕾を食べてしまうし・・・新芽をとにかく食べてしまうので、バラ農家さんや、公園でバラの管理をする庭師さんたちは、結構薬剤まみれになるんです。
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