アートの発言とクルルの収穫術
朝、一人の少女が布団をどけて、ベッドから降り、地面に足を着いた。相変わらず、ジト目で表情が読み取りにくいが、一目見てこれだけは分かる。まだ、眠たそうだ。
どうも、クルルです、おはようございます。
あ……まだご主人様は寝てるのか。
ベッドの方を見て、水紫が寝ていることを確認した。それもそのはず、まだ日が昇っていなく、外は闇に包まれていた。
昨日は、悪い夢でも見ていたのでしょうか。なんだか、体が重い。
クルルは水紫の隣で寝ている、祠に気付いた。なんだか、幸せそうな顔して
そっか、昨日は自分とホコラがご主人様を挟んで、寝たんだった。
あ、私…ホコラに酷いこと言ったけど昨日許されたんだった。今日起きて、私を見て何を言われるのかな。
違う。この人にどうお詫びしようかな…ご主人様は一緒に考えてくれるかな。
考えていても仕方がない気がする、もう寝よう。
◇ ◇ ◇
「おっはよー」
水紫はなんとなく、大きな声で叫んでみた。
「う、んぅ〜」
「ちょっとうるさいよ、みあにい。どうしたの?」
「ん、今日はな、少しレベルが高い依頼でも受けて、報酬貰って、異世界の料理でも堪能しようかなと」
「おぉー、良いね。僕もその依頼手伝うよ」
「まぁ、祠は連れてくよ。レベル上げて、早く強くなんないとな」
そう言い、寝起きの祠の頭をわしゃわしゃと髪が乱れる位の強さで、撫でた。
「ちょ、やめてよ。乱れる!」
「あ〜、いいなー。ホコラは撫でてもらって」
声が聞こえたと思ったら足元にクルルが座っていた。
「クルルちゃん、どうしたの?僕に何か用?」
「あれ、怒ってないの?昨日のこと」
「あははは、君は昨日は、本心で謝ったんでしょ?なら僕には怒る理由もないし」
そう言って祠はクルルに手を差し出した。
「あー、クルル手を握れ、これは俺達の国の挨拶みたいなものだから」
「うん」
クルルは祠の方に手を伸ばし 、握った。
「じゃ、これで僕達は友達、よろしくね」
「うん、ホコラお姉ちゃん」
「おーい、話は終わったか?」
手を鳴らし、こちらの存在を示した。
「うるさい、みあにい。寝起きの頭に響く」
「ほんとに」
「祠?いや…祠さんは、昨日いた二人のこと知りたいんじゃなかった?」
「聞きたい、聞きたい、仲間なの?」
「仲間だよ。隣の部屋にいるから呼んでくるわ」
俺は部屋を出て、隣の部屋をノックした。
はいよー、と声がした。起きてたんだと思い、部屋に入った。
「あ…………」
「あ!?」
固まってしまった。中にはお風呂上がりなのだろうか?髪が濡れていて、タオルで体を隠すアートの姿が…
「これが、ラッキースケベなるものか…」
「水紫…歯を食いしばってね」
次の瞬間、顔に痛みが走った。スパァンッと音が鳴った。思い切り振り切ったらしい。
そのまま俺の意識は深い闇に落ちていった。
◇ ◇ ◇
「…ん、」
「あ、みあにい、おはよ」
「ん、祠か。なんか顔近いような」
「あぁ、これしてるからね」
…なんか頭の下で何か動いたような…?
「あの、祠さん?これって、あれ?」
「うん、膝枕♪」
どうりで柔らかいものが頭の下で蠢いているな、と思った。
「あ、あぁ、ずるい。お姉ちゃんの番でご主人様起きた。死にたくなるほど羨ましい」
「あはは、死んじゃだめだよ。でも、堪能したから代わってあげるよ」
「はい、ご主人様、頭起こして」
俺は仕方なく頭を起こし、クルルが準備するまで待った。
「いいよ」
「あぁ」
クルルのお膝の上に頭を乗せた。幼女の…膝枕か…
「ふふ、みあにい、涎が」
「え!?」
慌てて、口元を拭ってみると確かに少し水分のようなものが…。
「すまん…クルル、中々良いぞ」
「うん、これで痛む頭を少し休めるが良い」
「え?クルルちゃんなにその喋り方」
祠は驚いていたようだが、俺も正直驚いた。こいつどこでそんな偉そうな言葉を…。喋り方?あれ?
「なぁ、クルル?お前…喋り方とか変えた?なんだか違和感が」
「うん、変えた。やっぱり気弱そうな喋り方はなんだか…。」
「まぁ、こっちの方がお前の声聞き取りやすいし、良いかな。声も可愛いし」
「ふ、可愛いって言われた…」
あ、可愛い。やっぱりクルルは可愛い。
「あの、水紫?私たちの事は無視かな?」
「む、すまん」
そういや、アートに殴られ…ひっぱたかれたんだった。
「こんな体勢で言うけどごめんなさい」
「いやーいいよ。ご飯奢ってくれたらね、許す。まぁ、今日中には元の場所に帰るんだよね」
「「「「え!?」」」」
4人は同時に驚いた。
特に奏瀬は驚いていた。口をパクパクしており、少し寂しそうな表情をしていた。そして、奏瀬は驚くべき提案した。
「えっと、アート!私も着いていきたい」
「え?なんで!」
「アートがいなくて寂しいからよ」
今度はアートが驚いていた。俺は何となく気付いていたが…ほら、あの2人いつも一緒にいたからね。
「アート、お前が良ければ連れて行ってやってくれ」
「うん?水紫はいいの?幼馴染みなんでしょ?」
「うん、それが奏瀬のお願いなら。それにまた会えるよな?」
「会えるよ。水紫の魔力は憶えた。鮮やかな紅だからね」
「えーっと、ずっと傍で聞いてたんだけど、これで一応お別れになるんだよね?だったらみんなでお別れ会とかしようよ」
「私もお姉ちゃんに賛成…」
祠とクルルはお別れ会をしようと言っている。俺も賛成だ。
折角だから、そうだな…
「俺の料理を振舞うことで良いか?厨房は宿の人に頼むから。祠とクルルは材料買うの手伝ってくれ」
「おけー」
「わかった…」
俺は何の料理を作るか、2人と相談していると、奏瀬が話し掛けてきた。
「水紫くん、私達は、何をすれば良いかなって思ったんだけど」
「ふむ、少しアートに聞きたいことがあるんだがいいか?奏瀬はステイな」
「犬…じゃないんだけどなー」
◇ ◇ ◇
「アートさん、お聞きしたいことが」
「どうしたの?改まって」
「錬成の魔法を俺にください」
すると、アートは考えるような素振りを見せた。
やはり、古代の魔法だから簡単にはくれないのだろうか。
探偵のように指を顎につけて1分。
「ふむ、いいよ」
「いいのか?」
「うん、考えるまでもない」
え?考えるまでもないの?
じゃ、今の間はなんだったのか。
「ふっふっふー、今のは何となくかっこいいかなーと思ったからね」
「あの、心読まないで欲しいかなー」
なんだこいつ、心読んできたぞ。どこかで大道芸人とかしたら儲かるんじゃないか。
「まぁ、今から錬成を授けるよ。ちなみに私は錬成を授けても、私のは無くならないんだよねー」
「そうか、なら遠慮なく、お願いする」
「任された」
アートは右手に魔力を纏い、水紫の頭に押し当てた。
なんだか、体の中に入っていくような感じがした。
「なんか、体に入ってくような気がした。これは?」
「うん、魔力。これで錬成は使えるよ。だけど、いきなり伝説級とかの武器は作れないよ」
「なるほど、経験が必要なんだな」
脳内に声が響く。
『錬成、錬成の加護を覚えました』
錬成:魔力を鉱石などの自然の物や魔物から剥ぎ取った素材に流し、素材の形を変えて、色々な物を作る。物作りに特化している。
錬成の加護:錬成で何かを作るときに失敗しにくくなる。そして、錬成で作った物は壊れにくくなる。
「へぇ、中々良い技能だな」
「でしょー、まぁ、うまく使ってよね。……これで私の話は以上だよ」
「おけい」
うまく、とはあの話の事だよな。
◇ ◇ ◇
「さってと、俺らは一応買い出しとクエ行ってくるから…そうだな、奏瀬達は宿から少し食材をもらってきてくれないか?」
「あの人くれるかなー」
「まぁ、何とか説明すればいいんじゃないか?」
「じゃ、クルル、祠行くぞ」
「はーい」
「うん」
◇ ◇ ◇
水紫はギルドに着き、かんたんそうな依頼を探していた。
すると、同じく依頼を探していた祠から声をかけられた。
「ねえ、みあにいこれとかいいんじゃない?『アプルの収穫の手伝い』っていうの!これって、確実に林檎だよね」
「んー、形は林檎っぽいけど、色がなーオレンジって。で、報酬は?」
「えーと、アプル20個と3000テラ」
「へぇ。中々、報酬は良いな」
「そうだね。あ…なるほど。3時間は作業するんだね。中々、気が重くなると思うけど頑張ろうねっ」
「あ…うん、頑張ろう…」
年下に笑顔で頑張ろうって言われたら了承するしかないだろ。うん、仕方が無い。
「私は、風魔法でやるね」
「あぁ、その方法良いな。なら俺も斬撃でやってくか」
「決まりだね。おーい、ミーシャさ〜ん、これ受ける」
「はい、分かりました。では頑張ってきてくださいね」
「あ、うん」
もう一度言うが、笑顔で言われたんだから仕方が無い。
◇ ◇ ◇
俺達はしばらく歩き、アスフィ王国を出て森の中を歩きボラ村に着いた。
「ほわぁぁぁ、林檎がいっぱいあるね。みあにい」
「あぁ、色は違うけど、確かに形は林檎だなー」
「あんたたちが儂の手伝いに来たわっぱたちか?」
近くの小屋の中からおじいさんが出てきて、俺たちに話しかけてきた。
「はい、そうです」
「そうかそうか、儂はクウバだ、お前たちこれから頼むよ」
「すみません、お手伝いを始める前に1つお願いごと良いですか?」
「何かね?」
「このりん…いや、アプルの収穫には魔法を使っても宜しいでしょうか」
「ふむ?お主は魔法が使えるのか?」
「はい、斬撃魔法です。で、こっちは風魔法が使えます」
俺は自分が使える魔法とクルルの魔法を伝えた。
おじいさんは、少し考えるように腕を組んだ。考えること30秒、
「いいが、風魔法が使える子に頼もうかえ」
「分かった、クルル良いか?」
「いいよ。新しく浮かんだ魔法で綺麗にする」
「では行け、クルル」
「うん」
クルルは一歩農園の方に進み、雨刃嵐斬を発動するときと同じように魔力の収束を始める。だが、今回は指先に魔力を集中させている。
初お披露目の魔法だけどご主人様の前では失敗出来ない。もっとも、失敗してもご主人様は笑って頭撫でてくれると思うけど。
そう考えているうちにも、指先に魔力を集めていた。そして、ちょうどビー玉くらいの大きさになった時に、クルルはさらに別の魔法を使うべく、片方の手のひらに魔法を集め始めた。
…まず、実を落として。次は…地面に落ちないように吸い上げる。
「はぁ…はぁ…」
クルルはこんなに連続で魔法を発動するのは初めてなので疲れが出てきていた。
ついに、クルルは片膝を付いてしまうが、同時に魔法も完成したようだ。
「隙間に通せよ、風刺!」
まず、クルルの指から飛び出した 風刺 はアプルの実のヘタを切り落とした。そのまま、風刺は意思を持っているかのように枝の間を抜け、アプルを次々と切り落としていった。
「ふむ、凄いのお」
隣を見るとおじいさんは感心したようにクルルの魔法を見つめていた。
「はぁ…はぁ、凄いのはまだ…これから!」
片方の手のひらに収束した魔力を周りに蒔くように放出させ、指をパチンっと鳴らした。
「吸い上げろ、吸風!」
放出させた魔力はいきなりビュオォォォっと言う音を出しながら、竜巻を生み出していった。
「あれ、良く見ると、竜巻の目の当たりは風がふいてないよ」
「本当だ。あぁ、なるほどな。つまり、クルルの魔法は掃除機みたいなものか」
竜巻は周りの気を巻き込まないように、巨大化をし、風刺で切ったばかりの実を吸い上げ、中心の空間に纏めていった。
「ご主人様!籠を近くに持ってきて!」
「お、おう。分かった」
俺は近くにあった籠をクルルの足元に置いた。ついでに魔力を操作し、クルルが失った魔力分を自分の魔力から切り取りクルルに流してやった。
一瞬、クルルの体はビクンっと震えたがすぐに、
「あ、ありがとう。ご主人様。これでもう少し頑張れそう」
俺に感謝をした。まぁ、お礼をされるようなことはしたのかな?仲間だから当然だと思うけどな。
クルルは竜巻を両手で操作し、籠のすぐ真上までに置いた。
「解除」
その一言と同時に、竜巻は消え、籠の中にボトボトっと音を出しながらアプルの実が入っていく。
おじいさんはおぉぉぉ、と言う声を出し、魔法という力に目を輝かせていた。魔法とは便利なものだな、と言う呟きも聞こえた。
そして、クルルの方を向き、
「おぉ、見事だ。娘よ。うむ、短い間だが今回の依頼は終了だ。お前たち、ありがとうな」
「えへへ、疲れたけど依頼を達成できて良かった…」
クルルは疲れた顔をしながらも、何とか声を出しておじいさんの言葉に返事をした。
「お疲れ、クルル」
「お疲れ様、クルルちゃん」
「では、ギルドの方に報酬があるから、そこで達成依頼でもしてくれ。ではな」
「はい、どうもです。ではさようなら」
「あぁ、気いつけて帰れよ」
「はい、そちらこそ。お仕事頑張ってください」
手を振り、村を出て森を歩いていった。帰りはクルルをおんぶしてやり、幸せそうな寝顔を見ることが出来た。
さて、どんな料理を作ろうかと考えながら歩いていると、アスフィ王国の端が見えてきた。
まずはギルドに行って、依頼報告。次に報酬を貰い、買い出し。宿に戻って、料理を作れば。遂にお別れ会…か。何だか、今から考えていても寂しくなるな。
だが、あの2人が幸せになれるなら、水紫はお別れ会を盛大に盛り上げよう、そう考えていた。




