心の内
あー、しばらく気付かなかったけど今の殺気か…
うーん、何かしたと言えばやっぱり両手に花を持っているからかな。
………今日はクルルの声聞いてないな…なぜだろうか、嫌な予感しかしない。
祠と会った時以外は朝にしか声を聞いてない、気がする。
そういえば…真後ろから殺気が飛んできたな…。それに真後ろにいるのは……クルル…
水紫は後ろを向き、話しかけようとしたが。見てはいけないものを見た気がした。
彼女は黒い笑みを浮かべて後ろに立っていたからだ。
「っ!」
俺はクルルに何かしてしまったのだろうか。とにかく今は祠を連れて、帰ろう。話はそのあとだ…
「行くぞ」
「え、ちょ!?みあにい!待ってよ」
◇ ◇ ◇
何だったんでしょう、今日感じた殺気は…
目で直接見なくても分る、凄絶な殺気って言うんでしょうか。そんな感じがしました。
私は獣人なので、気配感知が出来ますが……殺気の流れる方向は明らかにミアさんに流れていました。
明日もミアさんはギルド行くと言っていましたが、心配です。しかし、私はただの受付員…冒険者のプライバシーには踏み込むことはできないことになっています。
「さて、どうしましょう」
あ…思わず声に出ちゃいました。ふふ、プライバシーの関係とかあるのにここまで考えてしまうとは私もミアさんと出会ってから変わりましたね。
あ…。と、私は昨日のことを思い出して、ポーチの中を探った。ありました…
そうだ。私は、昨日ミアさんに御守りを渡されたんでした。ミアさんもこの状況がになると分かっていたんでしょうか…それはないですね。
ですが、今はこの御守りが頼りです。どうか、ミアさんを守って…
◇ ◇ ◇
一人、ギルドの前に取り残されたクルルは声に出るか出ないかの声で呟いた。
あの女…許さない、私のご主人様取った。
そう呟く少女の目には殺意が宿っていた。
ご主人様を取り返すためにはどうすればいい…
少女は自分の心に問うてみた。だが、頭の中でどう試行錯誤しようが一つの考えにしかたどり着かなかった。
…そうか消せばいい……
ならば、実行は明日の依頼をしている時だ。ご主人様と私とあの女で行く。ご主人様に用を作れば良いだろう…ご主人様からあの女を引き離せば。
この作戦がご主人様にバレたらどうなるかなぁ、殺されるかなぁ、あは♪
だけど、成功したらご主人様は永遠に私の物。
そう、考えたらクルルの心は更に闇に染まっていった。
その時、前からちゃらちゃらしてそうな男たちが歩いてきた。
「おいおい、この奴隷、主人に置いてかれてんじゃねぇか」
「はぁ、かわいそうだねぇ」
「どれ、少しは可愛がってやろうぜ」
「そうだな、大人しくついてこいよ、」
さしずめ、順番に男ABCDと言ったところだろう。
クルルは迷ったが、頭の中で考えを纏めた。
「分かった、着いてく。私も良いことしてあげる」
クルルはは下を向き、さっきご主人様に向けた顔を浮かべた。
私は男たちに連れられ、今は狭い路地を歩いている。時間的に夕方だからそれなりに暗い。
さて、何しようかな。思考を巡らせた。この人達をどう消そうか迷っていた。
何故か、この人達は一向に私を襲おうとしない、どうしたのだろうか。まぁ、いいか、苦しめて殺そう。
「雨刃嵐斬…」
私は消え入るような声で魔法を唱え、風の魔力玉を手のひらの上に出現させた。そのまま自分の前を歩いている、男Aに押し付けた。
押し付けた魔力玉は男に張り付きそのまま静止していた。
しばらくして、他の男たちが何かに気付いた。
「お、おい!お前の背中に何か付いてんぞ!?」
確かに、こんな明るい物が張り付いていたら流石に気付くけど。気付くの少し遅くないかな。
「すまん取ってくれ」
仲間の男Bは張り付いた物に手を伸ばし…触った。
ギュルルルルルルルルルッッッッ
いきなりそれは回転し、Bの手のひら、Aの背中を抉るように切り刻んだ。
「ガアァァッッッ!!?!?」
「ググゥゥ!??」
おー、Bは余り叫ばないように必死に耐えてる。偉い偉い。
A、Bの仲間は何があったのかと聞いているが、流石にこの痛みだ、答えることは出来ないだろう。
クルルは、飛び火する前に急いで、壁を蹴るようにして屋根の上に上がった。男Cを連れて…。
狼の獣人なのでそれなりに身体能力は高いようだ。
「ぐ、何をする!」
「良いから、黙って見てて。騒ぐと殺すよ」
そして 一言呟いた。
「解放」
グギュルルルルルルルルルッッッ
風の魔力玉は少女の言葉に呼応するかのように激しく回転を始めた。先程の弱い回転が冗談かのように。
回転しながらも、更に風の魔力玉は大きさを増していった。本来の雨刃嵐斬の大きさに届いた。おおきさは縦30メトラ、横20メトラである。
それは、男ABDの体を無惨に切り刻む。男達だけでなく、ここは狭い路地なので、家の壁も切り刻み、更に家の中にいる人間達をも、声は出せずに臓器だけを撒き散らして死んだ。
「どう?見える?あなたの仲間の無惨な最後が」
「ひっ」
クルルは男Cに聞いた。
Cは恐怖で声が出せなかった。自分達はなぜこんなに恐ろしいやつに声を掛けたのだ、なぜ、この子から溢れ出る殺気に気付くことが出来なかったのだ。そして、今更だがを後悔していた。
「ねぇ、聞いてる?あなたは今から私の新作魔法で痛みつけられるんだから、もうちょっと嬉しそうにして」
「新作…魔法……?」
「うん、幻に閉じ込めて、一生切り刻まれる夢を見させる魔法♪もちろん、痛覚もあるから。いっくよー、霧幻」
右手を前方にかざした。紫色の霧を放出した。そしてその妖しげな霧はそのままCの耳から体内に入っていった。
「ギゲッガァ!?」
「ふふ、そろそろ効いてきたね。今頃、頭の中では様々な形で切り刻まれているんだろうなぁ」
例えば、ハサミで、包丁で、チェーンソーで、剣で、魔法で…
血しぶきは出せないけど声は出せるよね。
それじゃぁ、永遠の苦しみを楽しんでね、またね。
クルルは歩き出し、闇に溶けていった。
「ギギッ!アグガァァァァ!!!??!」
男の絶叫だけは闇に溶けることはなく、街中にひびいていた。
そして名も知らぬ男は叫び続け、痛みにされるがままにされた。クルルが去ってから、一時間後、発見された時には既に男の精神は正常には稼働していなかった。
◇ ◇ ◇
「ただいま」
「おかえり、あのなお前に話がある。だから、お前も隠さずに言いたいことを言ってくれ」
「うん」
水紫は、クルルが帰ったのを確認し、クルルが何を考えていて、何を思っているのか知りたくて、対話に挑んだ。
「ま、座ってくれ」
場所は、宿の俺の部屋。
「大丈夫、他のみんなはいないから。聞き耳も立ててないから安心して俺と会話してくれ。まずは、一つ目、何故俺を睨んだ?」
「えっと、それは…」
クルルはどうしようもなく困ったという顔でこちらを見ている。ふむ。
「なら、二つ目の質問。帰りが遅い理由は?俺らが走ったあと何をしてた?」
「絡まれた」
「ほぅ?言っとくけど俺はお前の強さを知っている、だから絡まれたとしてもすぐ逃げられるだろ」
「それは、その…」
はっきりとしないな。何か隠したい理由があるのか?
「では、街中で雨刃嵐斬をぶちかました理由は?」
「それは男の人達がしつこかったから、暗い路地に連れていかれた時につい…」
「殺したんだろ。分かっているからな?俺が見たのは凄く大きい風魔法だからな。否定してもいいぞ?」
「否定しない」
「うん、そっか。じゃ、この話は終わり。祠を呼んでくるからな?」
「え?え?なんで、あの女をよんでくるの!?………………あっ」
やっぱりな、この感じは元の世界の知識であったな。
『ヤンデレ』だな。一応、反応を見よう。
「別に呼んできてもいいだろ?祠は今日来たばかりで、この世界のことも良く分からないんだから。ちゃんと話をしないと」
「どうして!?どうして、ご主人様はあいつのことばかり気にするの?ご主人様の隣は私だったのに今日加わったばかりの女に取られないといけないの?」
えーと、えと。なにこれ、この子はこんなに俺の事を見てたのか?そんなに俺の隣にいたかったのか。まさか気付いていなかった俺のせい?
ていうか、クルルも最近加わったばかりじゃないか。祠があんなに言われる必要もないと思うけど。
「いい加減にしてよ!!」
「「!!?」」
突然、宿の扉がバンッと開かれた。そこから現れたのは、祠だった。
「あ、あのな祠さん?入るなって言わなかったっけ?」
「っ!」
「クルルちゃんさいい加減にして、僕は何かしたっけ、クルルちゃんにも君のご主人様にも」
「………してない…けど」
「してないよね。何この言われようは!!」
「あのーそこまで言わなくてもいいのでは?」
「みあにいも黙ってよ。クルルちゃん、あのね、君の今の精神状態は私も、みあにいもとても嫌なんだよ。だよね?」
俺は一瞬考えていた。
今は傷付けた方がいいのだろうか。いいんだよな?クルルが悪いとかそういうのは関係なくてこれからも旅をしていく仲間には出来るだけ幸せにしてもらいたいしな。
それに壊れた物を治すには一度壊さなくちゃ、直らない。
クルルは俺のことを少し俯くように見ていた。体はふるふると震えていて、俺も少し心が傷んだが、ちゃんと伝えよう。そう思った。
「なぁ、クルルはさ。俺が他の人に目を向けて、そのまま忘れられるのが怖かったのか?」
「うん」
はぁ、水紫は息を吐き続けた。
「あのな?クルルと主従関係を結んだ時のこと覚えてるか?奴隷であるクルルのことを幸せにするって言ったよな?もっと俺のこと信じてくれよ、それが嘘だったときは俺を責めていいからさ」
「う、う…ん」
「お前に世界を見せることと、幸せにすることが俺の目標の一つでもあるんだ。だからさ、そんな感情に振り回されてないで俺と仲間を信じろ」
「うん…うん…。信じる。私、頑張ってこの感情無くしてご主人様達と仲良くしたい…」
クルルは、水紫の言葉に心を貫かれたのか大粒の涙を目から零していた。
「よしよし、大丈夫だよ」
水紫は、クルルの背中をさすり頭を撫でた。
「クルルちゃん、僕にも謝って」
「うん、ごめんなさい。祠お姉ちゃん」
「うん、大丈夫だよ。僕もそんなに怒ってないから。そんなに気にしないで」
「うん、うん…迷惑かけてごめんなさい」
「よかった。良かったよぉ」
ん、誰の声だろう?首を回してみると、扉の隙間から部屋の様子を見ている、奏瀬とアートがいた。
良く見たら奏瀬は涙を流していた。
アートは近付いてきて、耳元で囁いた。
「水紫、よく頑張ったね。でも、なんか私を慰めてくれた時と似てたな」
「うん、まぁ、気のせいだろう」
「ともあれ、誰かに被害が出る前にこの件は終わらせることが出来たね、おつかれ」
「そうだな」
良かった、本当に。俺は心からそう思った。
俺達はクルルが泣きやみ、静かに寝息をたてるまでずっと側で見守っていた。
今回はクルル回。
ヤンデレって書くの難しい。ていうより、ヤンデレっぽく書けてたかな、不安です。




