レンゲル
「おい! 春騎、望。ちょっと、話がある」
神治がそんな話を持ち掛けたのは、バノドスを倒した次の日の放課後の事だった。
「どうした、神治……。恐い顔してよぉ……」
「流君……、何かあった?」
二人の顔を見ると、不機嫌そうにしていた神治は、突然机を蹴り飛ばした。
「お前ら! この前、言ったやろうが! 相手ナメとったらマジで死ぬってな!! キュルネピンが雑魚なだけで、他の奴らは強いってよ!! 春騎ぃ!!」
突然、指差され呼ばれた春騎は、思わず「はいっ!!」と返事をして、立ち上がった。
「お前は、まだ半覚醒か!? この前のヤービダヌの時、ヤバかったの覚えてるよなぁ!? 早く完全に覚醒しろ! 春騎の肉を乗っ取ってしまえ!! わかってんのか、ルシベス!」
神治は、怒鳴るように春騎に言うと、春騎の返事を待った。
「俺……。ルシベスじゃねぇのかよ……。まだ、完全にルシベスじゃねぇのかよ!?」
「まだって、それにも気付かねぇのかよ!! まだだ。まだ、春騎が残ってる。春騎として生きていくのは構わねぇ。でもよ、春騎という人格は、喰い潰してしまえ。わかったな、ルシベス」
「わかり……ました。アルモレヌス様……」
うなだれた春騎は、ボソッと呟いただけだった。
「そして、望!! 昨日のバノドスとの戦い、見せてもらったけどよ! 初めから、全力で戦えよな!! しかも、最後の最後までカッコ付けとったけど、全力じゃあねぇだろ! 相手がバノドスで良かったものの、もっと半端ない奴が来たら、確実に殺されっぞ!!」
神治の言葉を聞いた望は、逆に神治に掴み掛かった。
「見てたのなら、どうして助けてくれなかったの!? どうして、ずっと見てただけなのよ!?」
「甘えんなよサレネ。お前の本気なら、バノドスなど、初めから敵じゃあ無かっただろうがよ!! それをチンタラ、戦いを引き延ばすような事をやりやがって! しかも、死骸を残して帰るたぁ、どういう事だよ! ここは、物界の世界なんだぞ!!」
「ご、ごめん。それは、完全に忘れてた……」
「忘れてた……じゃねぇよ! あれじゃ、ただの変死体じゃねぇか!? 俺が見てたから、片付けておいたんだぞ! 助けてじゃねぇだろがよ!!」
初め勢いの良かった望も、神治の気迫に押され、落ち込むようにして、黙り込んでしまった。
「でもよ! じゃあ神治は、初めから速攻かけれんのかよ!?」
突然立ち上がり、神治の胸倉を掴んだ春騎だったが、「見本が来てる」と神治に静かに言われ、手を離された。
「よし! 行くか!!」
突然立ち上がると、教室を出ていく神治を二人は無言で追い掛けた。
「なあ、どこまで行くんだよ……」
「こっちに何かあるの?」
ただついて来るだけの二人は、不安の表情を隠せずにいた。
暫く歩き続け、辺り一面木で囲まれた場所に来ると、神治は足を止めた。
「おい! いつまで、ついて来るつもりなんだよ!!」
神治が大声を出すと、春騎と望の二人はビクッと身体を震わせ、互いの顔を見つめ合った。
「流石はアルモレヌス。気付いていましたか。して、このような場所へ来て、どうするつもりです?」
空から聞こえる声に、春騎と望は上をキョロキョロと見渡した。
「相手してやっから、かかってきやがれ!! レンゲル!」
神治は、別に上を見るでもなく叫ぶと、武具を装備せずに構えに入った。
「それでは、お言葉に甘えて……死ねや!! アルモレヌス! 私達の世界を返しなさい!!」
突然、上方から人が降って来たと思うと、神治は左右の手に長刀を出し、剣撃から生じる衝撃波を飛ばした。
しかし、それを空中であるにも関わらずレンゲルは、ヒラリヒラリと軽く避けると、神治へと突進してくる。
「ちぃ!!」と舌打ちをしながら、神治が刀を振り下ろした瞬間、レンゲルは姿を消した。
「甘いぜレンゲル」
言葉を発した神治の後ろで、双刀を身体に突き刺されたレンゲルが、身動きをとれなくなっていた。
「アルモレヌス。どうして私を刺せたのだ……」
「はっ! 笑わしてくれんじゃねぇか。お前は元々、相手の攻撃を読みだけで回避するんじゃなかったっけ? しかもだ、俺に刺されんのは、初めてじゃねぇよなぁ!!」
話をしているうちに、表情が邪悪に変化していった神治は、刀の突き刺さったレンゲルを持ち上げると、まるで豆腐を切るかのように、斬り刻んでいった。
「アハハハハハ! 一滴の血も残さず、消し飛んでしまえぇ!!」
急速の剣撃により生じた剣熱により、肉から流れ出る血も、少しずつ蒸発していった。
「悪魔だ……」
思わず漏らした春騎の一言に神治は、鋭い視線をぶつけた。
「わぁぁぁぁ! ごめん! ごめん!!」
両膝をつき、両手を合わせる春騎の肩をポンと叩いて、「悪魔……か、当たりかも……しんねぇな」と神治は呟いた。
「ちょっと待って! ねぇ、今のレンゲルって奴が言ってた「私達の世界を返せ」って何のこと!? それに、どうしてあなたは、七闘鬼の事をそんなに知ってるのよ! さっきのレンゲルだって、初めて会ったって感じじゃなかったし……」
悪魔を肯定した神治に疑惑の募った望は、恐る恐る質問してみた。
「ま、いつか知る事だ。話してやるよ。けどよ、聞いたら自分に責任持てよ!!」
神治は、深く息を吸い込むと、ゆっくり吐き出したのち、話を始めた。
「前に、邪闇界の奴らが、超常界や物界に戦乱を起こしたって話はしたよな。それは、当然の事なんだ……。この世界は、元々邪闇種が住んでいた。それを初めに侵略したのは、俺達、超常種なんだよ。型物ってのは、その時に産み落とされた超常種の成り損ない。物界の奴らの言う天使や神って存在は、元々、超常種ではなく、邪闇種なんだよ。そもそも、この超常種・邪闇種って呼び方も本当じゃない。ラズリセルが、この世界を侵略し、奴らをたたき出した時に、付けた呼び名だからな。その時俺もそこにいた。すまねぇな春騎、嘘ついててよ。俺は犬じゃねぇ。生粋の超常種だ。その侵略戦争の時、俺はラズリセルの側にいた。そして戦ったのさ、七闘鬼達と。だから、奴らは全員知っている。話を元に戻すと、この世界の害虫は、邪闇種じゃなく、型物や、俺達超常種なんだよ。俺達超常種は、侵略種族……、そう、さっき春騎が言った悪魔ってのは、あながち嘘じゃねぇって事だ」
「ちょっと待って! じゃあ私達は、故郷を取り返そうとしている奴らを殺しているって言うこと!?」
望がヒステリックな声をあげて、話を中断させたが、神治は黙ったまま頷いた。
「じゃあ、俺達のやってる事って一体……」
春騎も悔しそうに、地面を見詰めながら呟いたが、神治は何も答えなかった。
そして神治は、空に刀を向けると大きな声で叫んだ。
「邪闇界邪闇主ダロン! 聞いているだろう! デルスは、お前らにこの世界を返すつもりなど、毛頭ないだろう! お前らが、俺の持つラズリセルの魂を奪った途端、【楔】の力を解放し、不純な輪廻へと戻し、お前らを再び封印するだろう! まずは、デルスを倒せ! その後、俺達が相手になってやる!!」
声は空虚に消えたようにも感じたが、「第二段階終了」と神治は、その場に座り込んだ。
「神治……。俺達は……」
不安気な表情のまま落ち込む二人に対して、「俺を……信じてくれ」と、神治は肩を軽く叩く他、出来なかった。




