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キュルネピン

(まさか、あのサレネまでもが物界へ寄生しておったとは……。しかし、何故じゃ。何故、アルモレヌスにばかり強者が集うのじゃ。このままでは、核を取り戻す前に、過去の過ちを繰り返してしまう……。仕方がない。ここは、奴らに動いて貰う事としようか……。待っておれよ、アルモレヌス!!)


「ちょっと! 流君! 余裕なのはわかるけど、もうちょっと真面目に授業受けなさいよ!!」

「あ〜! うっせぇ!! 何なんだよ、お前はよ! うっせぇつーの!」

「ハハハハ! 神治が……、尻に敷かれてる! ハハハハハハ!!」

「笑うんじゃねぇよ! 春騎!」

 授業の合間の休憩時間。珍しく、神治と春騎・望が話をする風景があった。

 クラスメート達は、望が神治達といる事に対して、陰口ととれる話をコソコソと言っていたが、当の本人達は、特に気にも留めていないようだった。

「うわぁぁぁ!!」

「キャァァァァ!!」

 突然、廊下が騒がしくなったが、神治達は何も変わる事なく、話を続けていた。

「アルモレヌスは、一体何処におる!!」

「ルシベスは、一体何処におる!!」

「サレネは、一体何処におる!!」

 教師の制止と学生の混乱の叫び声の中、太い大声が響き渡っていた。

「神治!!」

「流君!」

 三人は、即座に立ち上がると、廊下に飛び出した。

「アルモレヌスは、一体何処におる!!」

 大声を張り上げる、小さなオッサン? が、人混みの中を歩いてくる。

「何だぁ? あのオッサン!?」

「えっ! でも、あの身長……百三十センチ位しかないよ……」

「お前ら! 見た目で判断すんじゃねぇよ! デルスの野郎、とうとうコイツら出してきやがったか!?」

 ふざけて指差す二人を差し置き、妙に真剣な表情で、ファイティングポーズに入っている神治を見て、春騎と望も、戦闘体制に入った。

「お、アルモレヌス。久しぶりじゃのう」

「久しぶりじゃねぇよ! それより何だ! その格好は!!」

「仕方ないやろぉ。物界において、ワシのパワーを引き出そうと思ぉたら、この肉が一番良かったんや」

「ふざけやがって! 春騎! 望! 気ぃ抜くなよ! ナメてっと、ぶっ殺されっぞ!!」

「なあ神治……。あのオッサン、知ってんのか!?」

「あんなオッサン知らねぇ!!」

「じゃあ、どうして気をつけろなんて言うのよ!」

「あのオッサンは知らねぇが、あのオッサンの中身なら、よーく知ってるぜ!!」

「だから、誰なんだよ! あのオッサン!!」

「コイツは、キュルネピンだ!」

「「キュルネピン?」」

「キュルネピンを知らねぇのか!? まあいい! コイツに勝ったら、教えてやるよ!!」

 神治が言葉を放った瞬間、キュルネピンは姿を消した。

「来るぞ! 構えろ!!」

 神治の合図より先に、春騎は腹部に激痛を覚えていた。

 神速の如く動き、手にした棒にて、神治達を攻撃していたのだ。

「くそぉ! 見えねぇじゃねぇか! あのオッサン!!」

 キュルネピンの攻撃は、激しさを増し、姿を捕らえる事が出来ない上に、腹部・胸部・腕部・脚部へのランダムな、打撃が続いた。

「く!! 流君! 道程君! このおじさんのウッ! 相手、私に任せてクゥッ! 貰えないかしら!?」

「何!! 望! 大、丈夫……なのか!?」

 一応、確認しつつ、神治と春騎は後方に下がると、バトルフォームを解除した。

 それを見たキュルネピンは、望の前に姿を現した。

「お、お嬢ちゃん。一人でやるんかいな?」

「ナメないでよ! これでも、元ラズリセル様側近兵が一人、サレネですからね!」

 そう言うと、望は気合いと同時に黄金に光る拳と白衣を身にまとった。

「ほな、ワシは手ぇ抜かへんで!!」

 そう言い残すと、キュルネピンは再度姿を消した。

 望は、両手を下にダランと垂らしたまま、目を閉じ、じっとしたまま動かない。

 そのままの姿勢で、時折繰り出される打撃を、手刀で流しつつ、相手の気配をただ読み続けていた。

 攻撃がなかなかヒットしないキュルネピンは、少し焦りを感じたが、本当は少し手抜きしていた神速を、最大限まで上昇させ攻撃を再開した。

 スピードの乗った打撃を受け流す事が出来なくなった望は、両腕を顔の横に付け、背中を丸めガードポジションをとったまま、微動だにしなくなった。

 動かなくなった望を、サンドバッグのように、腕・脚部を怒涛の打撃で叩き続けた。

『ぬほほほほ。お嬢ちゃん、結局手も足も出ぇへんみたいやのぅ。こりゃあ、勝ったも同然やわ。ほれ! ほれ! ほれ! いつまで、耐えられるかいのぅ?』

 怒涛に続く、まるで嵐のような打撃の中で、望は、微かに感じるキュルネピンの気配を探り続けていた。

 そして、キュルネピンの百二十七回目の打撃が、望の足にヒットした際、望はバランスを崩して、膝をついた。

「やっぱり無理じゃねぇかよ!!」

 春騎が飛び出そうとした瞬間、神治に腕を掴まれ、神治の指差す方向を見ると、望が掌を二人の方へ向け、うっすらと笑っていた。

『ほな、畳み掛けまんでぇ!!』

 キュルネピンが、膝をつきガードの崩れた望にトドメの一撃を、頭部目掛けて放った瞬間、望が立ち上がると同時に、天井にめり込むようにして、キュルネピンが姿を現した。

「が! ぐほぅ!! お、お嬢ちゃん……、な、何したんや!?」

「お腹のガードが、がら空きだったから、一発おみまいしただけよ。私が撃たれた数に比べたら、大した事ないでしょ?」

 暫くして、腹部の肉が背中に突出したような、いびつな形になったキュルネピンが落ちてきたと思うと、望は、床につく前に、また天井へと打ち返した。

「がぼぅ!! だ、だ、だずげでぐれ゛」

 口から大量の血を吐き、天井にめり込んだまま、キュルネピンが叫んでいたが、望はキュルネピンを見上げたまま、右手を白銀に光らせると、自分の足や腕にその光を当てた。

「あ! ゴッメ〜ン。おじさん、言うの忘れてたけどぉ、私、ラズリセル様のところにいた時、回復班だったんだぁ。だ・か・ら〜、こんな傷、ほら! もう治っちゃった!!」

 無傷の状態に戻った望が、天井にめり込んだままのキュルネピンに、その姿を可愛らしく披露すると、みるみるキュルネピンの顔は、恐怖に歪んでいった。

「詐欺や! イカサマや! こんなんないやろ!? 助けて、な! 助けてぇや……。助け……」

 再度、天井の板と一緒に剥がれ落ちてきたようなキュルネピンは、望に腹部を強打され、望の腕が背中から突出した。

「ゴメンなさ〜い。おじさん、柔らかいから、突き抜けちゃった。……じゃ、そろそろ死になさいよ!!」

 と言うが否や、望はキュルネピンを右腕から引き抜くと、空中に放り投げ、跡形が無くなるまで、殴り続けた。そして残ったモノは、血まみれの望と、学校の廊下だった。


 教師や生徒は、何が起こったのか理解出来ず、半狂乱で早退する者・夢だと思い込む事により、現実逃避する者・目の前の惨劇に気絶する者と様々であったが、不思議と神治達三人に関わろうとする者は、一人もいなかった。

 いや、誰も関わりたくなかったのかも知れない。

「なあ、輪中。あんなに強くてよ、あんな技があんだったら、初めから教えてくれよな! ……ってか、もしかして、神治知ってた?」

「当たり前だ。サレネとの付き合いは、長ぇんだぞ。俺がラズリセルのトコにいた時から……、いででででで」

「ラズリセル様と言いなさい! ラズリセル様と!!」

 望が神治のこめかみを拳でグリグリとしていると、春騎は突然真剣な表情になり、「で、誰なんだよ! キュルネピンってのはよ!!」と、神治に顔を近付けた。

「いででで――っていい加減離せ! 痛ぇよ!! わぁった! わぁったから離れろ! 俺にそっちの趣味はねぇ!!」

「バ、バカ野郎! 俺もねぇわ、そんなモン!!」

 春騎が慌てて離れると、神治は少し難しい顔になった。

 その表情を見て、春騎と望は、生唾を飲み込み、神治の言葉を待っていた。

「キュルネピン。あれは、邪闇種だ。この世界には、超常界・物界・そして、歴史から抹消された世界、邪闇界が存在する。邪闇種ってのは、転生寄生の影響を受けない珍しい種でよ。邪闇界内のみで、寄生が行われる。しかし奴らは、元々超常界や物界を我が物としようと、過去に数々の戦乱を起こした。その為に、旧超常主ラズリセルによって、世界の裏側の世界。超常界も物界も干渉出来ねぇ世界に、隔離・幽閉されたんだ。アイツらは、七闘鬼と言って、能力の抜きん出た奴らが七体存在する。その内の一体が、キュルネピンって訳だ。奴らの本体も、元々は超常種と同様、幻想生命体。だから、物界の型物に寄生して、襲ってきやがったんだろう」

「どうして、そんな奴らが……。幽閉された奴らが、ここに来るんだよ!!」

「そんなの簡単なことじゃねぇか! デルスだよ。デルスが、……きっと、俺達を倒せば、物界をくれてやる。とでも、言いやがったんじゃねぇの!?」

「……許せないわね。デルス」

 望のその言葉に頷いた二人だったが、春騎は少し浮かれていた。

「でもよ。今回、望一人で勝てたじゃね? って事はよ、後六体もパパッと片付けられんじゃねぇの!?」

 その言葉に反応し、神治の顔を咄嗟に覗き込んだ望だったが、その表情を見て、すぐに落胆した。

「春騎……。それはねぇ。キュルネピンは、七闘鬼の中でも先兵だ。邪闇種の中で抜きん出た存在、七闘鬼。その中で、一番弱ぇのが、キュルネピンなんだよ! これから先、ヤベェ奴らが来ると思う。気ぃ引き締めてくれよ! じゃねぇと、確実にぶっ殺されるからな!!」

 神治の話を聞いて、顔面蒼白になった二人は、ただうなだれたまま頷くしかなかった。




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