ミルキリシス
ルシベスが覚醒し、アルモレヌスと共闘を始めてから、物界時間にて、一週間が経過していた。
「デルス様。超常界最強と言われたあの二方が、裏切り者と化し、【楔】の核の奪還が苦しくなってきた、等とは考えておりませんか?」
「何を! 貴様、ミルキリシスか。貴様ごときの腕で、アルモレヌスとルシベスを討てるとは、思わんが……」
「デルス様。既にあれは、アルモレヌスやルシベスではありません。物界の型物に寄生した、世界にとって、最も中途半端な存在です。あのような、半端な愚物など、このミルキリシスが粉砕し、【楔】の核を持ち帰りましょう」
「うぬぬぬ。そこまで言うなら、見せてみよ! ミルキリシス。吉報を待っておるぞ」
「では」
二つの揺らめく影は、言葉を交わすと、それぞれ辺りに溶け込むように姿を消した。
「やっぱ、あれだねぇ」
「〇ッポ?」
「違ぇよ! 殴られてぇのかテメェは!!」
「うわ! ゴメ! ゴメンって」
「あれから来ねぇな……。と思ってさ」
「アイツら?」
「俺達が強すぎっからかな?」
「流石アルモレヌスだね。言う事が違ぇわ」
神治と春騎は、普段の生活に戻っていた。
ただ、少し違うのは、春騎がルシベスに覚醒した事により、その運動能力と頭脳力が、飛躍的に向上した事であった。
「それにしても、酷ぇよな神治」
「は? 俺?」
「文武両立なんて、今時めちゃくちゃすげぇ奴だと思ってたのに、こんな裏があるんだもんな」
「裏って何だよ! 裏って!」
「だって、そうじゃねぇか!? 俺も目覚めた途端、この情報量と運動能力。マジで、凹むわ。真剣に、授業やってた時が、バカみてぇじゃねぇか!?」
「そう言うなよ! 殆どの奴が、それで当たり前なんだからよ!」
神治は、深くため息をつくと、春騎の肩をポンと叩いた。
「で、納得しろってか!? 納得出来る訳ねぇだろ!!」
「やっぱり?」
「ぁったりめぇだ!!」
春騎が、肩の手を払い退けながら叫ぶと、神治はその手を頭の後ろで組んだが、すぐに手を降ろした。
「と、噂をすれば何とやら……、ってヤツか!?」
「みてぇだな! もう隠す事もなく、すげぇ気配じゃねぇか!」
「ん? この気配は……。ってまさか、な……」
「いや、そのまさかみてぇだぜ!」
辺りの空間がギューンと歪んだと思うと、辺りとは全く異質な半透明な物質が現れた。
「「ミルキリシス!!」」
神治と春騎は、同時に叫んでいた。
「久しぶりだなぁ、アルモレヌス。それに、ルシベス。テメェらがいなくなってから、超常界は、大荒れだ! デルスは、一層踏ん反り返ってやがるし、周りの奴らも、大半の奴が物界へと寄生しやがった。超常界に物界の魂が紛れ込み、物界の記憶を保った超常種が出現。雑魚の分際で、半不死の身体が気に入ったらしく、デルス部隊に宣戦布告。気が付きゃ俺も、アルモレヌスの側近だったってだけで、反逆者扱いだしよ! 冗談じゃないぜ、全くよぉ! でも、肩身の狭い思いは今日で最後だ! テメェらの首と【楔】の核を持って帰って、汚名返上してよぉぉぉぉ!!」
敵意剥き出しに、大声を上げるミルキリシスを、神治と春騎は冷めた目で見るしかなかった。
「お前が俺らに?」
「何をするって?」
「テメェらぁぁ!! ナメてんじゃねぇぞぉぉぉぉ! って、ぶちギレてる場合じゃねぇな。テメェらみてぇな、半端な奴らをぶっ殺すのに、この俺様が本気になる訳がねぇだろぉが!」
キレたと思うと、すぐに落ち着いたミルキリシスを見て、二人は互いの顔を見ると笑い転げた。
「喜怒哀楽の激しい奴ぅ!!」
「つーか、早変わりの天才!?」
「「ギャハハハハハハ」」
「テメェらぁ! 瞬殺だ!! 何も考える暇もないくらいに、瞬間的にぶっ殺してやる!! 半端種と超常種の違いを、その身に刻んでやる!」
「またキレた」
「キレないとか言っときながら、キレやがった」
「「ギャハハハハハハ」」
二人の言葉に、理性を失い始めたミルキリシスは、予告もなしに、攻撃に切り替えた。
「ぅおっと! 相変わらず、冗談の通じねぇ奴だな」
「さっさと、退散願おうかってよ」
バカ笑いをしていたかと思うと、突然二人がマジ顔に変わった途端、蒼白と深紅に輝く光の武具を身に付け、フォームに入っていた。
ミルキリシスは、その実体の無い身体を活かし、空間に消えては突如現れ攻撃し、消えては突如現れ攻撃を繰り返した。
その状態に武装はしたものの、手を出すことの出来ない二人は、互いに場所を離れ、自分の周りの空間が広い場所に立ち止まっていた。
反撃に転じない二人に対し、ミルキリシスは、余裕の笑みを浮かべていたが、二人同時に攻撃出来ないまどろっこしさに、少々苛立ちを覚え始めた。
ミルキリシスの攻撃のキレが鈍り始めたのを察知した春騎は、自分への攻撃を回避した後、防御の姿勢を崩さぬまま、神治の攻撃範囲を攻撃出来るポジションに移動し、神治への攻撃を繰り出すミルキリシスを狙って斬り付けた。
「おおっと!! へ! 流石ルシベスだよな! 昔はよく、俺と一緒にアルモレヌスを護ったからなぁ!!」
春騎の斬撃を紙一重で避けたミルキリシスは、ゆっくりと二人から離れた所に姿を現した。
「はぁ!? 俺の聞き間違いかねぇ! 誰と二人でって? アルモレヌス様を、お護りしていたのは、俺だけだった筈なんだけどなぁ……」
春騎は、意地の悪い表情で、ミルキリシスに言葉を投げ掛けた。
「んだとぉ!! テメェと俺とで、最強の側近だったじゃねぇのかよ!!」
「はいぃぃ!? 神治ぃ、訳のわかんねぇ事言う奴がいるけど、あんな奴いたかぁ!?」
「ミルキリシスだろ? 確かあいつは……、雑魚だったっけ?」
「「ギャハハハハハハ」」
春騎と神治の言葉に、完全にキレたミルキリシスは、また姿を消すと、攻撃へと移行した。
「テメェらみたいな、その重そうな肉を持った奴らに、そんな事言われる筋合いはないわ!!」
空間の至る所から、泣き叫ぶような声が聞こえ、神治と春騎目掛けて、斬撃が繰り出される。
「ミルキリシス。お前の剣の腕じゃ、春騎には、勝てねぇよ!」
「神治の剣の腕、忘れたのかよ!」
「俺の剣と春騎の戦斧、この二つのコンビネーションを忘れたとは言わせねぇぞ!」
「お前の剣は、所詮神治の剣に比べれば、遊びなんだよ!!」
二人は、ミルキリシスの斬撃を避けながら、交互に叫んでいたが、大きく溜息をつくと、仁王立ちへとフォームチェンジした。
「「もう遊びは終わりだ!!」」
二人が叫び、肉体に神経を集中した瞬間、光の鎧が燃える炎のように、揺らめく鎧へと変化した。
それと同時に、武器の形態も変化。神治は蒼白に輝く、細身の長刀へ。春騎は、深紅に燃える両刃斧へと姿を変えた。
「見た目が変わっても、その肉は変われないんだよ!」
そう言って、ミルキリシスが空間からの斬撃を繰り出した刹那、神治と春騎の姿が、フッと消えた。
『何ぃ!』
驚いたミルキリシスが一瞬姿を現した瞬間、ミルキリシスは刀と斧とで、その精神体を三つに分断され、姿を消すことも出来ずに、地面に墜落した。
「な、な、何が、何が起こったんだ!」
怯えた表情で、二人を振り返ったミルキリシスだったが、もうその解答を得ることは出来ず、空気に溶け込むように姿を消した。
「ミルキリシス。お前は、肉体に執着し過ぎなんだよ」
「型物は重荷なんかじゃねぇ。これが、パワーの象徴なんだからよ。と、言っても、俺もこの前、神治に教えてもらったんだけどな」
二人がバトルフォームを解除すると、輝く武具は、同時に消えて無くなった。
「けどよ神治。ミルキリシスのヤツ、何かやべぇこと言ってなかったか?」
「超常界の魂が物界に、物界の魂が超常界にってヤツか?」
「そうそう。それ」
「いいんだよ。それで」
「でも、型物に寄生した超常界の奴らが、襲って来るんじゃ……」
「それは、有り得るな。でも……、今は、堪えなくちゃいけねぇんだ。これからの為に」
「何だか知らねぇけど、理由があるんだな?」
「ま、そういうこった。すまねぇな、巻き込んじまってよ!」
「気にすんじゃねぇよ! 神治らしくねぇぞ!」
「そっかぁ!?」
ふざけてはいたけれど、二人の目は笑っていなかった。
これから押し寄せる。大きな波乱の波が見えているかのように……。
「ってか、酷ぇって話終わってねぇぞ!」
「ぇええ!! また、その話すんのぉ!?」




