デルネググ・ウリャム
休日の昼下がり、望は神治の家を訪ねていた。
「神治に女の子が会いに来るなんて、雨でも降るのかしら」
「母さん、もういいよ……。で、望どうしたんだよ」
神治は、母親を振り切ると、望を部屋へと案内した。
口を閉ざしていた望だったが、神治の部屋に入ると、辺りの様子を気にしながら話を始めた。
「ごめんね。いきなり来られても、困るよね。でも、大事なことだと思ったから、きちんと聞いておかなきゃって思って……。あのね、流君が言っていた七闘鬼も、残るのもあと、三武神の二体のみよね。そして、流君はあと二体を知っている。という事は、どちらがどちらに当たっても大丈夫なように、私にその二体のこと教えてよ」
「そういう事か……。そりゃあ、確かにそうだな。わかった教える。でも、最終戦が終わったら……。いや、なんでもねぇ。じゃ、教えるぞ。まずはデルネググ。スピードと心眼の覇者だ。キュルネピンと互角のスピードを持ち、レンゲルと同じく、瞬時に相手の動きを読む。レンゲルのように、読みだけだったら、大した事はねぇんだけど、そこにあのスピードが加わったら、マジ厄介だ。そして、出来ればお前には戦って欲しくねぇのが、ウリャム。七闘鬼三武神筆頭、一騎当千の実力の持ち主。スピード・パワー・防御・読み、その全てが、他の七闘鬼に匹敵し、ダロンが唯一信頼する存在だ。コイツに勝つ為には、命懸けでぶち当たることのみ。ただ、これだけだ」
真剣に説明をする神治だったが、その表情に全く笑みはなく、不安感で溢れていた。
「流君。どうしたの? 何か心配事でもあるの?」
神治の顔色をみた望が、話し掛けた時だった。
「それは仕方のない事だ。アルモレヌスに心配はないだろうが、お前には勝利の確率が全く無いのだからな」
神治達が振り返ると、家が無くなっており、神治達がいた部屋だけが宙に浮いていたのだった。
「母さん!」
思わず叫んだ神治だったが、そこに母親の姿がある筈もなかった。
「それでは、邪魔な物も無くなったので、始めましょうか。アルモレヌス」
神治の前に現れた少年は、すでに構えた状態で話し掛ける。
「デルネググ! お前の相手は望に任せる。俺はウリャムを……」
「それは困りましたね。ウリャムは、確実にサレネを殺すと言っていましたが?」
神治が望の方を振り返ると、そこに望の姿はなくなっていた。
「くそぉ! お前なら望で何とかなるけど、ウリャムはヤベェよ!!」
「まあまあ、落ち着きましょうよ。どのみち、サレネも消さないといけない事ですし、あなたの苦労が一つ減ったと思えば……」
悔しがる神治を余所に、デルネググは淡々と話を進める。
「な、お前! 今、何って言った!?」
「おや? 違いましたか? あなたが進める世界統合計画……。それは元々、ダロン様が提唱なされていたこと。まあ、そこに私達の殲滅は入っていませんでしたが……。ねぇアルモレヌス、違いましたか?」
「もう、それ以上言うんじゃねぇ! わかった。お前を殺して、ウリャムのトコへ行ってやるぜ!!」
神治の目に怒りが満ちた途端、デルネググに向かって斬り掛かっていた。
一方その頃、望はというと……、自分をワシと名乗る少年と対峙していた。
「あなたはデルネググなの? ウリャムなの?」
「ククク。元超常種にもかかわらず、見た目でしか判断が出来ないとは、悲しいな。のうサレネ。ワシか? ワシはデルネググ。ちっとは、安心したか? ククククク」
「ウリャムじゃないのね!? デルネググなのね!? じゃあ、勝機は十分! 行くわよ!!」
そう言って、憂すら笑いを浮かべるウリャムに飛び掛かった。
最初から全力で。と指示を受けていた望は、黄金の胴着に赤金色の拳に身を包み、ウリャムの懐に入り込むと、連打撃を繰り出した。
「ククククク。アルモレヌスから聞いてなかったか? ワシは行動が読めるのだよ。お前が飛び出した時から、その動きは手にとるように把握している。しかも、その非力な攻撃で、ワシを殺せると思っているのか? ククク、ククククク。楽しいなぁ。のうサレネ。クククククク」
腹部に連撃を受けながら笑い続けるウリャム。その状況に望は、焦りを感じていた。
『スピードと、読みだけのデルネググにすらダメージを与えられないの? 私ってそんなに非力なの? どうしてなのよ!!』
スピードとパワーを限界まで上昇させ、連撃を継続する望。しかし、デルネググと偽ったウリャムは、微笑すら浮かべサレネの体力が尽きるのを、攻撃を受けながら待っていた。
「く! ちょこまかと、ウゼェんだよ! さっさと俺に斬られやがれ!!」
デルネググの裏を突くように、不規則な斬撃を繰り出していた神治だったが、デルネググのスピードに翻弄され、攻撃を当てることも出来ずに苦戦していた。
「右、右、右、そして左! ハハハハ! 簡単簡単ですね、アルモレヌス。それじゃあ、僕に触る事すらできませんよぉ! ハハハハ!! こっちですよ、こっち! 右、左、上、下、左! っと、何かゲームでもしているみたいですねぇ。ハハハハ!」
「くそぉ! 早過ぎんだよ! ちょろちょろと、目の前を動きやがって!! チィ!! またハズレかよ! あ〜欝陶しい!!」
キョロキョロと、辺りを見渡しながら、刀を振っていた神治だったが、自分へのダメージもなく、攻撃もヒットしない為、「もう止めだ止め、お前はウリャムの後に相手してやるよ!!」と、言い放つと、デルネググに背を向け走り出した。
「ちょ、ちょっと待ってください。あなたの相手は今、僕なのですよ。だから、ちょっ……ど、待……っで……」
神治を追い掛け、その進行方向に回り込んだデルネググだったが、違和感を感じる神治の表情を見て、引き返そうとしたが、すでに遅く、腹部と左肩に深々と刀を差し込まれていた。
「お前の読みは、ここまでは無理だったようだなぁ! これで、遊びは終わりだ!!」
そう言って、突き刺さった刃を抜く訳でもなく、縦横無尽に斬り付けると、振り返りもせず、望の所へと急いだ。
「ハァ! ハァ! ハァ! あ、あなた、本当……に、デル、ネググ、なの!?」
「デルネググ? ここまで戦っても、まだわからんとは、バカ正直ってヤツか? ククククク。そろそろ死のか? なあサレネ……」
ウリャムの策略に気が付いた望だったが、すでに次の行動に移る体力も残っておらず、ウリャムの腕に包み込まれるようにして、立っているのが精一杯だった。
ウリャムは望を突き飛ばすと、その両足首を掴んで、逆さに持ち上げた。
「ククククク。そろそろかのう? アルモレヌスは、まだ来んのかのう。早く来いアルモレヌス。クククク、クククククク」
望を逆さに持ったウリャムを見付けた神治は、声も掛けず、刀を取り出すと、斬り掛かった。
しかし、背後からの攻撃にも関わらず、ウリャムはその攻撃を避けると、さも楽しそうに、神治の方へと振り向いた。
「やっと来たか。アルモレヌス。待ちくたびれたぞ。のう、サレネ。待ったよなぁ? ククククク」
そう言って、両手に持った二つに引き裂かれた望に、頬擦りした。
「!! あぁ! 望ぃ!」
神治は手にした刀を肩に担ぐと、ウリャムへ向かって突進した。
「お前で! テメェで! 貴様を殺ったら、最後だぁ!! 死にやがれ!」
闇雲に刀を振り回す神治を、ウリャムは楽しそうに眺めていたが、その動きを突然止めると、刀をその身に食い込ませた。
「な……に……!!」
「アルモレヌス。長かったよのう。ワシも、もう疲れたわ。これで、ダロン様の願いが叶うのよ……のう?」
刀が突き刺さったままのウリャムは、神治の肩を掴むと、その胸に爪を立てた掌を突き立て、胸を貫いた。
「ハハハ。そうだな。これで、ラズリセルの願いが叶うな。なんだか、気が合いそう……じゃねぇか……」
お互いに腹や背中から、臓物を垂れ流した両者は、そのままその場に崩れ落ちた。
『ラズリセル。終わったぜ! これで……これで、いいんだな……』
「ダロン様……。任務……完了……しま、した」
次の日、世界は何事もなかったかのように、継続し続けていた。
神治も、望も、その家族すら失った世界。
しかし、彼等が初めから無かったモノのように、世界の時間は止まることはなかった。




