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2-1-9 航空魔法の謎

「相談があるんだけど……」


リアナはふと何かを思い出したようにアリスを見た。


「フェンリスっていう、帝国の巨大飛空艇の構造を、どうにか解析できないかと思って」


アリスは一瞬だけ目を見開き、すぐに興味深そうにうなずいた。


「フェンリス?あの巨大な飛空艇ね。確かに、あれがどうやって空に浮いているのかは、かなり気になるわ」


「魔法研究所のメンバーだけじゃ手に負えないのよ」リアナは率直に言った。「私たちの魔法理論では説明できない部分が多すぎる。でも、あなたの視点なら、何か違う切り口が見えるんじゃないかと思って」


「……先に言っておくわね。

レガシー魔法は、いい加減で何でもありの力じゃない。体系化されていないだけで、ちゃんと独自の法則はあるの」


アリスはそう前置きしてから、少しだけ肩をすくめた。


「フェンリス級の相手となると……正直、私の研究範囲じゃ厳しい。

期待してたなら、ごめんなさい」


その言葉に、リアナの表情が一瞬だけ曇る。


「……でも」


アリスはそこで、話題を切り替えるように微笑んだ。


「いいわ。面白そうだし、挑戦しがいもありそうね。何が分かっていて、何が分からないの?」


リアナはカバンからノートを取り出し、フェンリスの粗い図面を広げた。


「普通の飛空艇なら、魔法エネルギーの循環や風の力を利用して浮遊させているけど、フェンリスはあまりにも巨大で、それだけでは説明がつかない。重さや形状を考えると、通常の浮遊魔法では到底支えきれないはずなの」


アリスは図面を覗き込みながら、静かに言った。「確かに、こんな巨大なものが空に浮くのは、空中での流体の動きや、揚力を生み出す機構が何か隠されているはずね。でも、見たところ、翼のような構造物も見当たらない」


「そうなの」リアナはうなずいた。「翼や帆のようなものもない。それなのに、どうにかして安定して空を漂っている。推進力を得るための魔法もありそうだけど、魔法だけでこれだけの質量を長時間浮かせ続けるのは無理があるわ」


アリスは指で図面をなぞりながら続けた。

「まず、この飛空艇の重さを考えると、下からの浮力を得るために、何か特別な魔法の装置が使われている可能性が高いわね。だけど、機体があまりにも大きいと、空気の流れに影響が出て、機体が不安定になるのは避けられない。特に、機体全体を均等に支えるためには、内部の重心が精密に管理されていないと、すぐにバランスを崩してしまうはず」


リアナはメモに書き込みながら、考えを整理するように続けた。「あんなに大きな船体を空中に浮かべるためには、揚力や浮力だけじゃなくて、何か他の力も働いているはず。もしかしたら、内部で重心を制御するための魔法装置があるのかもしれないけど、それがどこにあるかは分からない」


アリスは少し考え込み、さらに言葉を重ねた。「そして、もう一つの問題は風の流れよ。フェンリスが飛んでいる時、その巨大な船体が周囲の空気をどう動かしているのか。それだけの体積を動かすには、空気の抵抗も膨大になるはず。もし風の流れを魔法で制御しているなら、それも相当なエネルギーを消費することになる。推進力と揚力をうまく両立させなければ、いずれ動きが鈍くなるわ」


「確かに……」リアナはメモを取りながらうなずいた。「風を操る魔法は持続時間も短いし、消費も激しい。それが弱点になる可能性はあるわね」


アリスはさらに視点を変えた。「あと、防御。もしフェンリスが常時バリアを張っているなら、それも十分脅威だけど、永遠には続かないはず。あの規模でバリアを維持するなら、エネルギー供給には必ず限界が来るわ」


「私もそこが気になってたの」リアナは静かに言った。「防御システムが働いている限り、直接攻撃を仕掛けるのは難しい。けど、エネルギー源がどこかに隠されているなら、それを断てばバリアも弱まるかもしれない。問題は、そのエネルギー源がどこにあるかよね」


アリスは小さく笑った。「決定打はまだ見えないけど、可能性は見えてきたわね。風の流れや重心の問題、それにバリアのエネルギー供給。どれも重要な要素だし、きっとどこかに隙があるはずよ」


「ありがとう、アリス」リアナは少し肩の力を抜いた。「あなたと話していると、学生の頃に戻ったみたい。少し気が楽になったわ」


アリスも微笑み、肩をすくめる。「頭を使うのは嫌いじゃないもの。また何か分かったら、続きをやりましょ」


「ええ。またね」


リアナは立ち上がり、アリスに別れを告げた。フェンリスの謎はまだ深いままだが、それでも暗闇の中に、かすかな光が差し込んだ気がしていた。


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