2-1-10 エヴァとエレインの事情
サーラは、シェリーの助けを借りて、企業連合に強い影響力を持つ二人の少女── 《天秤の鎖》のエヴァ、《白羊の盾》のエレインの住所を突き止めた。
彼女たちは、伝説の魔法デバイスを所有する女王候補者の中でも、特に注目を集める存在だ。
サーラにとって、どうしても協力を得たい相手だった。
まず向かったのは、エヴァの家だった。
広大な敷地を誇るその邸宅は、高い塀に囲まれ、正門には厳重な警備が敷かれている。
正門で面会を申し込んだサーラだったが、予想通り門番に制止された。
「エヴァお嬢様は、ご家族の事情により、現在どなたとも面会できません」
門番の口調は丁寧ながらも、取りつく島もない。
サーラは食い下がり、せめて伝言だけでもと頼み込んだが、すべて断られてしまった。
隣で様子を見ていたシェリーが、少し困ったように口を開く。
「エヴァ、昔から過保護に育てられてたから……。両親が何もかも管理していて、自分の意志を貫くのが難しいのかもしれないわね」
サーラは、重く閉ざされた門を見つめながら、静かに息を吐いた。
鎖のデバイスを持つ、重要な女王候補。
その存在の重みを知っているからこそ、直接話せない現状が歯がゆかった。
「……他に、方法はないのかしら」
自分に問いかけるように呟き、ふとひらめく。
「──手紙を書くのはどう?」
「それなら、両親にも気づかれにくいかも。さっきの門番が休憩に入った隙を狙えば……」
サーラはすぐに手紙を書くことにした。
女王代理として立ち上がったこと。
国のために、共に力を貸してほしいという願い。
一言一言を慎重に選びながら、心を込めて綴る。
これで本当に、届くのだろうか。
彼女の心に、何も残らなかったら──。
そんな不安がよぎり、サーラは一度だけ筆を止めた。
それでも、書かずに引き返すよりはいい。
そう自分に言い聞かせて、もう一度文字を重ねていった。
シェリーの機転で門番の目を避け、手紙はそっと邸宅の郵便箱に差し込まれた。
次に向かったのは、エレインの邸宅だった。
こちらも立派な屋敷だったが、エヴァの家とはまるで空気が違う。
前庭には手入れの行き届いた花々が咲いているのに、
窓はすべて閉ざされ、屋敷の中から人の気配が感じられない。
静まり返った佇まいが、どこか重苦しかった。
玄関のベルを鳴らすと、しばらくして中年の使用人が姿を現した。
「エレインお嬢様にお会いしたいのですが……」
サーラの問いかけに、使用人は申し訳なさそうに頭を下げる。
「申し訳ありません。お嬢様は現在、面会をお断りしております。ご用件があれば、お預かりはできますが……」
直接会って話したい。
その気持ちを抑えながら、サーラは懸命に言葉を重ねた。
「私はサーラ・ヴェリルライトです。今、国が危機に瀕しています。
どうしても、彼女の力が必要なんです」
しかし、使用人は静かに首を横に振った。
「お嬢様は、最近ほとんど自室に籠っておられます。外界との接触を避けておられるので……」
これ以上踏み込むのは難しい。
屋敷を包む空気と使用人の態度が、それをはっきりと告げていた。
「……彼女にも、手紙を書いてみるのはどうかしら」
シェリーの言葉に、サーラは小さく頷いた。
エレインにもまた、心を込めて手紙を書いた。
デバイスの意味、彼女の存在が国の未来に与える影響。
そして、殻を破って共に立ち上がってほしいという願い。
手紙を郵便箱に差し込み、二人はその場を後にした。
応えてくれるかどうかは分からない。
エヴァも、エレインも、今は固い壁の向こう側にいるように見える。
それでも、心に届くことを信じるしかなかった。
帰り道、サーラは胸の奥に残る、拭いきれない思いを抱えていた。
思うようにいかないことばかりだ、と心の中で呟く。それでも、ここで投げ出すわけにはいかなかった。
女王代理になったからではない。
自分が逃げたら、誰がこの状況と向き合うのか。サーラはそう考え、ぎゅっと拳を握りしめた。
「でも……どうして、二人ともこんな風になってしまったんだろう」
シェリーは少し考え、静かに答えた。
「エヴァは守られすぎて、自分で選ぶことができなくなったのかも。
エレインは……責任感が強すぎるんじゃないかな。全部、一人で背負おうとして」
サーラは黙って頷いた。
どれほど高い壁でも、越えられないと決めつけるつもりはない。
彼女たちが再び前を向くその時まで、
サーラは何度でも足を運び、手を伸ばし続ける覚悟だった。
ブクマでサーラたちの応援をお願いします!




