2-3-23 二度目の迎撃
五基のフレヤレイドが突如飛翔してきたという予知を受け、王国の民は混乱の中で避難を始める。
王都全体が一気に緊迫した空気に包まれた。
だが、サーラはすでに帰還していた。
予知を受け取る前から、彼女は想定されうる最悪の展開を洗い出し、研究所と迎撃体制を整えていたのだ。
前回の経験が十分に生かされていたため、動きは早い。
サーラは即座に研究所へ魔法通信を送った。
魔法演算機による弾道予測は瞬時に完了し、
各フレヤレイドの着弾地点が次々と表示される。
その中でも、王都に最も近い一基目が、最大の脅威だった。
サーラの指示を受け、ミーナは一瞬の迷いもなく、相棒の火竜アルカンティスに跨る。
通常は仲間を背に乗せて飛ぶが、今回は単独。
そのためアルカンティスは巨体とは思えぬ速度で、空を切り裂くように飛び立った。
ミーナの表情には緊張が浮かんでいる。
だが、その手には《獅子の剣》が力強く握られていた。
「今こそ其の力を見せよ!
我が剣──ブラゼリオン!」
真名が呼ばれた瞬間、剣から放たれた炎がミーナの全身を包み込む。
獅子の覇気が爆発的に高まり、全身が鋼のような闘志で満たされていく。
フレヤレイドに接近した刹那、彼女は一瞬の隙も逃さず飛び出し、剣を振り下ろした。
弾頭部分が推進部から切り離され、宙を舞う。
それを確認したミーナは、剣から衝撃波を放ち、弾頭を強烈な風圧で南の海へと吹き飛ばした。
アルカンティスは巨体を翻し、彼女を乗せたまま再び上空へと舞い戻る。
「一基目は片付けた!」
報告を受け取る間もなく、サーラは次の行動に移った。
彼女はシルフフォーンの御守りを手に取り、風の精霊を呼び寄せる呪文を唱える。
「風よ来て、私に力を貸して!」
途端に空気が震え、巨大な竜巻が一気に発生した。
セレナは竜巻の中心で、空に向けて《磨羯の籠手》でヴァイを持ち上げる。
「導け──ストラグレイヴ!」
籠手が眩い光を放ち、魔力が爆発的に解き放たれた。
空気が震え、大地が歪むほどの衝撃。
「ヴァイ……お願い!」
轟音とともに頭上に放たれ、ヴァイの身体は弾かれたように空高く舞い上がる。
その手には、《天蠍の弓》が淡く光を帯びていた。
「貫け──カルシエーレ!」
瞬間、弓が輝き、4本の矢が同時に生成される。
意思を宿したかのような光の矢は、
正確無比な軌道を描き、空を駆け抜けた。
光の矢は4基のフレヤレイドの推進部を次々と撃ち抜く。爆発は起きない。
ミサイルたちは静かに勢いを失い、落下を始めた。
ヴァイは満足そうに息を吐き、弓を下ろす。
「減速させた!あとは任せる!」
サーラとセレナは続けて、レイラ、フィー、ルナを順に竜巻で打ち上げた。
三人は魔法の翼を展開し、空中で滑空しながら、別々のフレヤレイドへと向かう。
レイラは落下するフレヤレイドに素早く接近し、迷いなく《宝瓶の壺》を構えた。
壺が微かに振動し、魔力のうねりが空気を震わせる。
「飲み干せ──ヒュドラリウム!」
壺の口から、凄まじい吸引力が解き放たれた。
渦巻く空気とともに、巨大なフレヤレイドは丸ごと壺へと吸い込まれ、その姿を瞬く間に消す。
吸引の嵐が収まると、壺は静寂を取り戻した。
「後で出してあげるわね」
レイラは満足げに微笑む。
フィーは迫る弾頭を鋭く見据え、一瞬のためらいもなく《双児の双剣》を抜き放つ。
「輝け──セレティス!
守れ──アマルテウス!」
白銀の閃光が走り、セレティスにより弾頭は一刀両断された。切断面は滑らかで、推進部から完全に切り離される。
続けてアマルテウスが淡い光の膜を纏い、盾のように弾頭を包み込んだ。
「これで、大人しくしてなさい!」
フィーは二本の剣を旋回させながら弾頭を制御し、無害な状態へと導いていく。
攻撃と守護が一つの流れとして、完璧に調和していた。
「ふふっ、さすがに完璧すぎたかしら?」
ルナは静かに両腕を上げる。
《巨蟹の腕輪》が淡く輝き出した。
迫り来るフレヤレイドを前にしても、その瞳は冷静で揺るぎない。
「封じろ──カールスティール!」
渦を巻く光が螺旋を描き、フレヤレイド全体を包み込む。
反射の魔力が内側へ折り返し、硬い殻のような魔法障壁が形成された。
「やったか?」
フレヤレイドは完全に停止し、二度と力を発揮できない状態へと封じ込められる。
「任務完了」
ルナは冷ややかに微笑んだ。
サーラの指揮の下、迎撃は次々と成功していく。
残る最後の一基。
空には、もはや迎撃に向かえる者はいない。
だが、サーラは静かに息を吸い、
ここで切り札を切る。
「お願いね、アリス」
「任せて。今こそ、この《オクシオ魔晶》の出番よ」
オクシオ魔晶。
それはかつて王国へ侵攻し、撃墜された帝国の巨大飛空艇の中枢──
重力制御装置に組み込まれていた古代の魔石だ。
墜落後に回収され、アリスが密かに研究を続けていた遺物でもある。
アリスは魔晶の力で空へと舞い上がり、最後のフレヤレイドへ一直線に接近する。
加速する弾頭の目前で身を翻し、その表面にオクシオ魔晶を叩きつけた。
「これは、あの時のお返しよ!」
次の瞬間、フレヤレイドの重力が反転する。
落下でも爆発でもない。
機体はそのまま加速を保ったまま、大気圏を突き抜けて天の彼方へと飛び去っていく。
もう戻ることはない。
落ちることもない。
ただ、無限に飛び続ける。
「バイバーイ」
サーラたちは、すべてのフレヤレイドを無力化したことで、思わず安堵の表情を浮かべる。
互いに視線を交わし、勝利の余韻に浸った──その瞬間だった。
雲の裂け目から、もう一発のフレヤレイドが姿を現す。
五基は囮。
本当の脅威は、王国の聖地へ向けて猛スピードで飛翔していた。
「そんな……!」
サーラの声が震える。
即座に対応しようとするが、すでに打てる手は尽きていた。フレヤレイドは静かに、しかし確実に標的へと迫っていく。
広がる絶望の中で、サーラの心は必死に、次の一手を探していた。
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