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2-3-21 発射施設への潜入

夜明け前、風に削られた岩陰で、三人は最後の確認を終えていた。

前方には、闇に沈んだままの施設。灯りはない。動きもない。ただ、そこに在るという事実だけが、重くのしかかっていた。


エヴァは《天秤の鎖》を指先でなぞり、静かに息を整えている。

脳裏に浮かぶのは、鎖越しに感じたあの感触だった。

声にならない叫び。ねじ曲げられる魔力。壊れていく意思。

帝国の施設とは、こういう場所だ──それを、彼女はもう疑っていない。


シオンは無言で《人馬の槍》の状態を確認していた。

視線は施設に向けられているが、見ているのは別のものだ。

記録文書に残されていた、数値と注釈。

「被験体」「経過良好」「廃棄」

人の身体を素材として扱った痕跡が、まだ目の奥に焼き付いている。

ここを見過ごせば、あれは繰り返される。

それだけは、許せなかった。


エレインは少し離れた場所で、《白羊の盾》を撫でながら夜空を見上げていた。

青白い幻影の光。父が娘に語りかけていた、あの最後の言葉。

粛清された理由も、罪も、彼女はすでに知っている。

それでも、あの想いが無意味だったとは思えなかった。

ならば、その続きを止める責任が、今を生きる自分たちにある。


三人は言葉を交わさない。

だが、互いの背中を見ただけで、同じ方向を向いていることがわかった。


エヴァが小さく頷く。

それが合図だった。


今度こそ、帝国を止める。

理由は違っても、迷いはもうなかった。


暗闇に紛れて、エヴァたち三人はフレヤレイド関連施設へと潜入していた。

地方本部で得た情報が正しければ、この場所こそが帝国の最重要施設の一つ──そう呼ぶに相応しい拠点だ。


中心に近づくにつれ、空気が変わっていくのがはっきりとわかる。

警戒は異様なほど厳重で、見張りに立つ兵士たちは明らかに精鋭揃いだった。装備も簡素な警備用ではなく、実戦を想定した完全武装。

この施設が、ただの研究所や倉庫ではないことは一目で理解できた。


「……まるで戦時の要塞だな」


思わず、シオンが息を呑む。


「こんな何もない場所に、これほどの防備っていうのは……」

エヴァは周囲を見渡しながら、わずかに口元を緩めた。

「何かがあるってことよ。しかも、相当厄介な“何か”がね」


その声音は軽いが、瞳は一切笑っていない。


慎重に進むほど、緊張感は確実に積み重なっていく。

やがて三人の前に現れたのは、巨大な構造物だった。地表に張り巡らされたプラットフォーム、その中央に据えられた、天を貫くような発射台らしき設備。

用途を想像した瞬間、背筋がひやりとする。


「……フレヤレイドの一部、もしくは本体かもしれない」


エレインが、ほとんど息だけで呟く。


「期待通りね」

エヴァは低く笑った。「ここまで来て、手をこまねいているわけにはいかない。侵入するわよ」


施設内部は、外の厳戒態勢とは裏腹に、不気味なほど静まり返っていた。

人の気配はなく、広い廊下に響くのは自分たちの足音だけ。

その反響が、かえって神経を逆撫でする。


さらに奥へ進むと、広大な制御室らしき空間が現れた。

壁一面に並ぶ魔法モニター。沈黙したままの装置群が、まるで眠る獣のような圧迫感を放っている。


「やったわね、これは大当たりよ!」


エヴァは制御室に踏み込むなり、抑えきれない興奮を声に滲ませた。


「見てよ、この設備……」

エレインも思わず目を輝かせる。「まさか、本当に発射施設だったなんて」


「無人ってことは、まだ次の発射準備が始まっていないんだろう」

シオンは周囲を警戒しつつも、わずかに肩の力を抜いた。

「今がチャンスだ」


見張りの気配はなく、異変を告げる兆しもない。

エヴァは無意識のうちに、張り詰めていた肩の力をほんのわずかだけ抜いていた。

操作パネルに駆け寄り、いくつかのボタンに触れてみる。

しかしモニターは沈黙したままだ。


「システムは眠ってるみたいね。今は安全だけど、起動したら……」

彼女はゆっくりと制御室を見回した。

「ここが帝国の、とんでもない要になるはずよ」


「先手を打てば、奴らに大打撃を与えられるってことね」

エレインが小さく微笑み、手をすり合わせる。


「こんな好機、逃す手はない」

シオンも同意するように頷いた。「ここを潰せば、発射計画は大幅に遅れるはずだ」


「いいわね。壊す方法を考えましょう」


エヴァはそう言い、魔法を展開しながら制御システム全体を探る。


「とりあえず……まずは基幹システムに――」


三人は、まるで宝物を掘り当てたかのような高揚感に包まれていた。

この場所を破壊すれば、帝国の戦略そのものを大きく狂わせられる。

その確信が、冷静さをわずかに押し流していく。


「やれるわ。今の私たちなら」


エヴァの言葉に、迷いはなかった。


三人は手早く準備を始め、運命を変えるための最初の一手を打とうとする。


──その瞬間。


無音だった制御室に、突如として変化が走った。

沈黙していたモニターが一斉に点灯し、眩い光の中から立体映像が浮かび上がる。


中央に現れたのは、洗練された風格を漂わせる壮年の男だった。

長衣をまとい、鋭い瞳でエヴァたちを見据えている。その佇まいは、あまりにも整然としていて、どこか機械的ですらある。


男はゆったりと口を開いた。


『私は帝国魔法最高顧問、ロキスヴェイン・フェルサンド。この施設を訪れた君たちに──』


一拍置き、薄く笑う。


『まずは、歓迎の意を表そう』


エヴァたちは息を呑み、男の言葉を黙って聞いていた。


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