2-1-7 企業連合の現実
サーラはシェリーと共に、企業連合の本部を訪れた。現状の危機を打破するため、彼女たちは少しでも支援を得ようと考えていた。企業連合は長年にわたり王国経済を支えてきた中心的な組織であり、ここから何らかの協力を引き出せるのではないかという、かすかな希望があった。
しかし、連合のオフィスに足を踏み入れた瞬間、サーラの胸には言いようのない不安が広がった。かつては人の往来と声に満ちていたはずの空間は、今や驚くほど静まり返り、広い廊下には足音だけが虚しく響いている。社員たちの顔には疲労と困窮が色濃く浮かび、書類を抱える手にも力が感じられなかった。かつての活気は影も形もなく、建物そのものが息を潜めているようだった。
「こんなに酷い状況だなんて……」
サーラは思わず低い声でつぶやいた。王国経済の要である企業連合ですらこの有様であるなら、国内全体がどれほど追い詰められているのか──その現実が、重く胸にのしかかってきた。
しばらくして、シェリーの父であり企業連合の代表の一人でもあるクラヴィス氏が姿を現した。しかし、その姿からは、かつて漂っていた貴族的な威厳は感じられなかった。やつれた顔には深い疲労が刻まれ、目の下には濃い隈が落ちている。無精ひげも剃られないままで、常に完璧だった身だしなみへの気配りすら失われているように見えた。
「サーラ……あ、いや、サーラ様か」
クラヴィス氏は一瞬、昔の癖で名を呼びかけ、すぐに言い直した。サーラが今や女王候補の一人であり、伝説のデバイスの所有者でもあることを、改めて意識したのだろう。
「これは失礼いたしました。お二人とも、ようこそ」
サーラは静かに頷くと、前置きを省いて切り出した。
「クラヴィスさん。今、王国は非常に危機的な状況にあります。女王候補たちの捜索が急務です。そのためには、人手と資金がどうしても必要になります。企業連合の支援をお願いできませんか?」
クラヴィス氏は一度視線を伏せ、深いため息をついてから椅子に腰を下ろした。
「申し訳ございません、サーラ様。我々には、もはや余力が残っていないのです。貿易はほぼ完全に停止し、企業連合そのものが崩壊寸前の状態にあります。物資も資金も底を突き、人を動かす余裕すらありません」
その言葉に、サーラは一瞬、言葉を失った。企業連合までもが、ここまで追い詰められているとは、正直なところ想定を超えていた。
「でも……」
サーラは一度息を整え、しっかりと顔を上げた。
「女王候補を見つけ出すことが、この国の未来を守る鍵です。それが叶わなければ、どんな手立ても意味を持たなくなってしまう。どうか、何とか協力していただけないでしょうか?」
クラヴィス氏は苦しげに首を横に振った。
「我々も、王国のために力になりたい気持ちは同じです。しかし、今の状況では動かせる者もおらず、捜索に回せる資金もありません。我々の余力では、あなたを支援することは難しいのです……」
シェリーはそのやり取りを黙って聞き、唇を噛みしめていた。父の置かれた現実を突きつけられ、胸に痛みが走る。
「父さん……」
かすれるような娘の声に、クラヴィス氏は視線を向け、辛そうに言葉を続けた。
「我々がここまで追い詰められたのは、自ら招いた結果でもある。かつて魔法技術を輸出し続けたことで、帝国に力を与えてしまった。その代償を、今になって支払っているのだ」
その言葉は、重く空気に沈んだ。もし企業連合がこの状態で動けないのなら、王国を救うための選択肢は、さらに狭まってしまう。
──それでも。
サーラの胸には、まだ消えない火があった。短い沈黙の後、彼女は真っ直ぐに顔を上げる。
「それでも、私は諦めません。女王候補たちを必ず探し出し、戦争を止めるために動きます。企業連合が動けなくても、私は私の力でやってみせます」
クラヴィス氏はその言葉を受け、わずかに微笑み、敬意を込めて頷いた。
「サーラ様……どうかお気をつけてください。あなたのような存在が、今の王国には必要なのです」
「ありがとうございます、クラヴィスさん」
サーラは静かに答えた。
「ですが、今は立ち止まっている時間はありません。私は行動します」
シェリーも強く頷き、迷いのない声で言った。
「私も一緒に行くわ。サーラとなら、どんな困難でも乗り越えられる」
二人は決意を胸に、重苦しい空気の残る企業連合のオフィスを後にした。
女王候補たちを自らの手で探し出し、この国の未来を切り開くために。
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