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2-3-1 魔法生物との出会い

帝国の脅威を前に、王国は単独での対抗に限界を感じていた。

その打開策として白羽の矢が立ったのが、独自の魔法文化と自然の力を有する国ルルヴィナとの同盟交渉である。


サーラ、ヴァイ、カリナ、レイラ、そして黒猫ネフィリスは、王国の使節として、険しい山道を越えルルヴィナへと向かっていた。


サーラは標高が上がるごとに、風景がゆっくりと変化していくのを感じていた。

彼女たちが住む王国とは異なり、ルルヴィナの生態系には魔法が色濃く染み込んでいる。そこかしこに、見たこともない生き物たちが潜んでいる気配があった。


森の木々の葉は微かに発光し、岩肌には奇妙な紋様が、まるで最初からそこに刻まれていたかのように自然に浮かび上がっている。

魔法は、単なる技術ではない。あたかも空気や水のように、この地の自然界の一部として息づいていた。


「ここは、まるで違う世界みたいね……」


サーラは、思わず感嘆の声を漏らした。


その時、道の先に一人の人影が現れた。

ラフな旅装を身にまとった女性──アリスティア・レイヴンだった。肩にかかる黒髪を無造作に束ね、古びた鞄を抱えたその姿は、相変わらず放浪者らしい風格を漂わせている。


「やっほー、皆さん。こんなところで再会するなんて、運命ね」


楽しげに笑うアリスティアを前に、彼女を知るサーラは、驚きと同時にほっとしたような表情を浮かべた。


「どうしてここに?」


そう尋ねると、アリスティアは軽く肩をすくめる。


「レガシー魔法の研究が行き詰まってね。それで、気分転換も兼ねてルルヴィナまで足を伸ばしたの。いやー、ここは魔法生物の宝庫だよ。観察したいものが山ほどあるんだから」


彼女の瞳が好奇心に輝いているのを見て、サーラたちは思わず笑ってしまう。


「一緒に来ない?ここには、あなたたちがまだ知らない魔法生物がたくさんいるわよ」


そう言ってアリスティアは先導し、サーラたちは彼女に従って再び歩き始めた。


森の奥へ進むと、最初に姿を見せたのは「サラマンダイン」だった。

赤い鱗に包まれた小型のトカゲが、岩の上で日向ぼっこをしている。体温が上がると鱗がほのかに発光し、火花を散らすように体内の炎の魔力を放出する。その様子は、まるで小さな焚き火のようだ。


「彼らは火の属性を持つ魔法生物よ。発熱することで、周囲の魔力を活性化させるの」


アリスティアの解説に、サーラは興味津々で近づいた。


「触っても大丈夫?」

「もちろん。ただ、あまり驚かせないようにね」


指先でそっと触れると、サラマンダインは少しだけ身を縮め、すぐに安心したように体を丸めた。

その仕草に、サーラは思わず微笑む。


ネフィリスは、ふわりと尾を揺らし、どこか興味なさそうに瞳を細めた。


「へえ、こんな変なやつがのさばってるのか。僕でも予測不能だね」


次に現れたのは「ノームリング」だった。

ハリネズミに似たこの生物は、背中の針に土の魔力を蓄えている。土に潜って素早く移動できるため、農夫たちの間では「地の守り手」として親しまれている存在だ。


ノームリングが背中の針を震わせると、足元の土が軽く盛り上がり、まるで挨拶するかのように形を変えた。


「人間にもよく懐く生き物だよ。農場では、彼らが土を耕してくれるんだ」


アリスティアの言葉に、ヴァイは感心した様子で針に触れる。


「こいつ、案外可愛いじゃないか」


次に出会ったのは、「シルフフォーン」だった。

大きな耳を持つ白い狐で、その鳴き声は笛のような澄んだ音色を奏でる。森全体が、その音に包まれていく。


シルフフォーンの群れが駆け抜けると、風が木々を揺らし、穏やかな気流が、まるで道案内をするかのように一行の前を吹き抜けた。


「この子たちは風の魔法を使うの。旅人たちが迷わないように、風を操って道を示してくれるのよ」

「つまり、親切な風の案内人ってわけか」


そして最後に姿を見せたのが、「ウンディーネラ」だった。

小川のほとりに佇む青白い鹿で、水を操る力を持つ。ウンディーネラが水を飲む場所では、清らかな水が湧き続け、植物が瑞々しく繁るという。


「この子たちのいる川は枯れないと言われているわ。水と命を巡らせる存在なの」


サーラたちは、次々と現れる魔法生物たちに目を輝かせながら、ルルヴィナの自然の奥深さを肌で感じ取っていた。


しかし、アリスティアは最後に、ふと声の調子を落としてこう付け加えた。


「ただし──『ガルダール』だけは、滅多に見られないわ」


その言葉に、一同は自然と耳を傾ける。


「ガルダールは雷の力を持つ鳥よ。この山岳地帯で、その姿を捉えるのは至難の業なの」


その直後、頭上の茂みから、ばさりと羽音が弾けた。

すぐ近くに潜んでいた小鳥が、まるで会話を聞いていたかのように一斉に飛び立ち、思わずサーラたちは肩を強張らせる。


「この辺りでは、稀に山肌に焦げ跡が残ることがあってね」

アリスティアは、遠くの岩壁を見やりながら言った。


「落雷にしては不自然な痕よ。あれが見つかると、古い狩人たちは“ガルダールが通った”って囁くの」


真剣な表情で語るアリスティアに、サーラは驚きを隠せなかった。


「雷の魔法?四元素の他に、そんな力があるなんて……」


「そうよ。ガルダールのような存在がいるってことは、この世界には、まだ私たちの知らない魔法が眠っているという証拠なの」


その言葉に、一同は静かに頷く。未知なる力への期待と、わずかな畏怖が胸に広がっていった。


「滅多に会えないなら、もし出会えたら、すごくラッキーってことですね」


カリナの言葉に、皆が小さく笑みを浮かべる。


「まぁね。でも油断は禁物よ。雷の魔法は扱いが難しい。ガルダールに遭遇したら、慎重にね」


そう言い残し、アリスティアは再び歩き出す。

一行もまた、その背中を追って山の奥へと進んでいった。


魔法生物たちとの出会いを経て、サーラたちは、この地の自然が秘める神秘と力に改めて心を打たれる。

ルルヴィナ王国で待ち受ける未来に胸を躍らせながらも、どこか張り詰めた空気を感じ取りつつ、彼女たちは次なる未知へと足を踏み出していくのだった。


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