2-2-25 サーラの旅立ち
王都の門前では、朝日がゆっくりと昇り始めていた。
淡い光に照らされる中、サーラ、ヴァイ、カリナ、レイラの四人が並んで立っている。
サーラの肩にはネフィリスがちょこんと腰掛け、黒い尻尾をゆらゆらと揺らしていた。
彼女たちの背後には見送りの人々が集まっている。
その中で、シェリーだけは腕を組み、明らかに不満そうな表情を浮かべていた。
「やっぱり、私も行くべきじゃない?」
シェリーは真っ直ぐにサーラを見つめる。
「何か危険があったら、予知で助けになれるわ」
サーラは小さく息をつき、苦笑しながら首を振った。
「ダメよ、シェリー。あなたが王都にいないと、フレヤレイド発射の予知があっても、すぐに伝えられない。
あなたの役目は──ここで未来を見守ること」
「でも……」
シェリーはなおも食い下がる。
「王都から離れて、本当に大丈夫なの? サーラ、あなたのことが心配なの」
サーラは一歩近づき、彼女の肩にそっと手を置いた。
「大丈夫だよ。何かあれば、すぐに戻るから。
それに……あなたがここにいてくれる方が、私は安心できるんだ」
しばらく言葉を探すように沈黙していたシェリーは、やがて小さくうなずいた。
「……わかった。でも、絶対に無茶はしないでね」
「約束する」
サーラは柔らかく微笑んだ。
「ミーナたちは、王都防衛を頼むわ」
サーラは表情を引き締め、ミーナ、フィー、セレナ、ルナに向き直る。
「ミサイルが来たら、即座に迎撃して。あなたたちがいなかったら、この街は持たないから」
「王都から動くな、なんて言われる日が来るとはね」
ミーナは不満そうにため息をついたが、すぐに肩をすくめた。
「まあ、話し合いは得意じゃないし。こっちの方が性に合ってるわ」
門前には、サーラの姉たち──アリアとリアナの姿もあった。
腕を組んだアリアは、険しい表情のまま口を開く。
「……どうにも、嫌な予感がするのよ」
「やめなさい、アリア」
リアナが落ち着いた声でたしなめる。
「サーラはもう子どもじゃない。ちゃんと成長してるわ」
「それでもよ」
アリアは心配そうにサーラを見つめる。
「何かあったら、すぐ戻ってきなさい」
「もちろん」
サーラは少し照れくさそうに笑った。
「すぐ戻るよ」
「まったく、心配性なんだから」
リアナは肩をすくめ、軽く笑う。
「ネフィリスもいるし、何とかなるでしょ」
「その通り!」
ネフィリスは胸を張り、尻尾をピンと立てた。
「僕がいれば、万が一の時も安心だ!」
ヴァイは地図を広げ、軽やかな口調で言う。
「まずは東の山脈を越えるわ。休める場所は少ないから、覚悟しておいてね」
「道案内は任せるわ、ヴァイ」
サーラはうなずいた。
一方、カリナは大きな荷袋を担ぎ、不満げにぼやく。
「なんで私が荷物持ちなのよ……重すぎるでしょ」
「必要なものを全部詰めたから、仕方ないわ」
レイラはくすりと笑う。
「食料も、予備のポーションも入ってるもの」
カリナは袋を探り、中から缶詰のようなものを取り出した。
「……ペットフード? なんでこんなものまで」
「それは僕のだ」
ネフィリスが即座に反応する。
「ちゃんと栄養を取らないと、僕の勘が鈍るだろ?」
「まったく……」
カリナは呆れたように首を振る。
「これじゃ、私がただの荷物持ちじゃない」
「大事な役割よ」
サーラは笑って言った。
「あなたがいなかったら、私たち途中で力尽きちゃうかもしれない」
「まあ……そういうことにしておくわ」
カリナは苦笑しながら、荷袋を担ぎ直した。
「本当に大丈夫?」
シェリーは最後に、もう一度だけ問いかける。
「大丈夫」
サーラは肩の力を抜き、はっきりと答えた。
「あなたがここで見守ってくれているなら、私は迷わない」
門がゆっくりと開き、四人と一匹は歩き出す。
背後で王都の城壁が少しずつ遠ざかり、視線の先には東方の山々が広がっていた。
「サーラが同盟を持ちかけるなんて、思わなかったわ」
ヴァイが歩きながら、ふと振り返る。
「このまま戦うだけじゃ、帝国には勝てないもの」
サーラは静かに答えた。
「協力者が必要だと思ったの」
「良い判断よ」
レイラがうなずく。
「でも、ルルヴィナは簡単には心を開かない国。厳しい交渉になるわね」
「そのために、私たちがいる」
サーラは前を向いたまま、力強く言った。
「どんな道でも、私たちで切り開いてみせる」
「その意気だ!」
ネフィリスが誇らしげに尻尾を揺らす。
四人と一匹は、険しい山脈へと歩みを進めていく。
雲ひとつない空の下、その一歩一歩が、これからの未来を切り開く確かな始まりとなる。
背後では王都のざわめきが次第に遠ざかり、代わりに風と足音だけが、乾いた道に残っていた。
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