2-2-24 未来のための同盟
広間の中央に鎮座する円卓には、十二人の女王候補がそれぞれの席に着いていた。
誰もが、戦争の行方を左右する決断を下す立場にあることを自覚しており、場には自然と張り詰めた空気が漂っている。
サーラは、胸元で静かに脈打つグラビティウムの感触に意識を向けた。
内なる声に耳を澄ませた後、隣に座るシェリーと軽く視線を交わす。
一度、深く息を吸い込み、覚悟を固めてから口を開いた。
「帝国に対抗するために、他の国と同盟を結ぶべきだと思う」
その一言が、円卓の中心に落ちた瞬間だった。
場は驚愕に包まれ、誰もが言葉を失ったままサーラを見つめる。
この切迫した状況で、同盟という“外交”の話題が出るとは、誰も予想していなかったのだ。
「今、同盟?」
ミーナが首をかしげ、半ば呆れたように苦笑する。
「それ、本気で言ってるの? 帝国が攻め込んでるっていうのに、悠長に交渉する余裕なんてないでしょ」
「それでも、同盟を結ぶ価値はあるわ」
サーラは一歩も引かず、毅然と答えた。
「フレヤレイドに怯えて時間を浪費するのは、帝国の思う壺よ。
それに──帝国の侵攻を二度も食い止めた王国を見て、便乗しようとしていた国々は、不平等条約の話を引っ込めている。
今は、こちらが有利な条件で交渉を進められる、数少ない好機なの」
ミーナは眉をひそめたが、すぐに言い返すことはせず、考え込むように黙り込んだ。
「でも、どの国と同盟を結ぶつもり?」
ヴァイが慎重な口調で問いかける。
サーラは資料の束を取り、円卓の上に二枚の地図を広げた。
「東方のルルヴィナ王国か、西方の砂漠国家ディセリス。このどちらかよ」
「なるほど……」
シオンが低く呟き、視線を地図に落とす。
「どちらも強力な助けになり得ますが、同時に大きなリスクも抱えていますね」
「ルルヴィナは高山地帯の自然と魔法で守りを固めているわ」
ヴァイが言葉を引き継ぐ。
「彼らと組めば、防御面は大幅に強化できる。でも、信頼を築くには時間がかかる。
帝国の侵攻に間に合うかどうか……そこが問題ね」
「一方で、ディセリスは即戦力よ」
ミーナが不敵な笑みを浮かべた。
「砂漠の民は戦闘に長けてるし、傭兵団の実力も確か。
帝国にこちらの本気を見せつけられれば、牽制にはなるかもしれない」
「ただし、傭兵は金で動く存在よ」
ヴァイは静かに釘を刺す。
「契約が切れた後に残るのは、信頼じゃない。不確実な未来だけ」
議論は次第に熱を帯び、意見が交錯していく。
冷静な分析と感情的な反発が入り混じり、円卓の空気はますます重くなっていった。
シェリーが、場を和らげるように穏やかに口を開く。
「ルルヴィナと同盟を結べば、長期的な協力関係を築けるわ。
戦争が終わった後も、助け合える関係になれる。でも……時間が必要ね」
「それが問題なんだって言ってるのよ」
ミーナが苛立ちを隠さず返す。
「時間をかけてる間に帝国が攻めてきたら、全部水の泡じゃない」
シオンは静かに資料を閉じた。
「結局、どちらを選んでも一長一短です。
選ばなければ、何も始まらない──それだけは確かですね」
重い沈黙が、円卓を包み込んだ。
誰もが、口に出さずとも理解している。
この選択が、王国の未来を左右するのだと。
やがて、サーラがゆっくりと顔を上げた。
「私たちの目的は、ただ帝国に勝つことじゃない。
この国の“未来”を守ることよ」
彼女は壁に掛けられた地図へ歩み寄り、ルルヴィナ王国を指し示す。
「私は、ルルヴィナとの同盟を選びたい。
即効性はない。でも、守りを固め、信頼を築くことで、反撃の機会は必ず作れる」
シェリーが静かにうなずき、ヴァイも同意を示した。
「防御が強ければ、帝国も簡単には踏み込めないはずよ」
「……ふん」
ミーナは不満げに鼻を鳴らしたが、やがて肩をすくめる。
「そこまで言うなら、乗ってあげるわ」
他の候補者たちも、次々と同意の意思を示した。
多数決の結果、ルルヴィナ王国との同盟方針が正式に決まる。
サーラは、ほんのわずかに肩の力を抜いた。
「次は……どうやって信頼を得るか、ね」
シオンが薄く笑みを浮かべる。
「簡単な道のりでは、なさそうですが」
広間には、決断を下した安堵と、これから始まる試練への覚悟が静かに漂っていた。
女王候補たちはそれぞれの思いを胸に、新たな局面へと踏み出していく。
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