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2-2-18 汚染魔法

ライザとヴァシリーは、一度は地下牢に収監された身だった。だが、帝国の機密情報を提供することに同意したことで、教団の敷地内に限り、一定の自由を与えられている。レイラの必死の訴えが後押しとなったこともあり、厳重な監視は続くものの、牢に繋がれていた頃とは比べものにならない行動範囲が認められていた。


それでも、その自由がもたらしたのは安堵ではなく、むしろ重苦しい現実だった。


二人からもたらされた情報は、誰の想像をもはるかに超える脅威を孕んでいた。

帝国は「フレヤレイド」と呼ばれる戦略兵器──論理魔法を応用した長距離攻撃用ミサイルを、すでに実戦配備の段階まで進めていたのだ。


「フレヤレイドが撃ち込まれた地点では、半径十数キロにわたって魔法汚染が発生する」


ライザは感情を抑えた声で、淡々と語る。


「その範囲内では魔法の法則そのものが完全に狂う。術式は崩壊し、魔力の流れも断ち切られる。修復には──数千年かかると言われている」


「数千年……?」


思わず、サーラが息を呑んだ。

その言葉が現実感を伴うまで、わずかな間があった。


「そうだ。その間、魔力は循環せず、まともな魔法は使えない。生物も環境も魔力に適応できず、魔法的に“死んだ土地”になる。数百年で回復する可能性も、理論上はゼロじゃない。だが……」


ライザは一拍置き、静かに続ける。


「最悪の場合、永遠に戻らない」


その場に沈黙が落ちた。

これまで帝国が投入してきた兵器──大型飛空挺フェンリスや、人型兵器ヘルダルは、いずれも物理的破壊にとどまるものだった。都市を壊し、人を殺す。だが、土地そのものは残る。


フレヤレイドは違う。

魔法という世界の基盤そのものを破壊し、土地を未来ごと切り捨てる兵器だった。


「ただ、この兵器は滅多に使われることはない」


沈黙を破ったのは、ヴァシリーだった。


「フレヤレイドを使えば、その地域の魔法的価値も、資源も、すべて消し飛ぶ。帝国にとっても、占領地を自ら捨てるに等しい行為だ」


「土地が無価値になるなら……使う意味がない、ということ?」


サーラが確かめるように問い返す。


「そういうことだ」


頷きながら、今度はライザが言葉を継いだ。


「だからこそ、撃たないことを前提にした“抑止力”として使われる。存在を示し、脅しとしてちらつかせるだけで、他国を屈服させる。それがフレヤレイドの本質だ」


「……でも」


サーラは不安げに視線を伏せる。


「その抑止が、もし崩れたら?」


ヴァシリーは重く頷いた。


「その瞬間、この戦争は終わる。だが、勝者も敗者も関係ない。使われた場所は魔法的に死に、人は二度と住めなくなるからな」


サーラは黙り込み、思考を巡らせた。

フレヤレイドが存在する限り、帝国は常にその影をちらつかせ、相手に従うよう圧力をかけ続けるだろう。撃たずとも、恐怖だけで支配する。それが帝国のやり方だ。


もしも、この兵器が使われれば。

それは戦闘の終結を意味するだけではない。


魔法と文明、その両方が、一瞬にして崩れ落ちる未来の到来だった。


「──フレヤレイドは、使わせない」


サーラの声には、迷いがなかった。


—-


「──フレヤレイドを使え」


皇帝ルキウス・ヴァルトラの言葉には、躊躇も逡巡もなかった。

それは命令であり、判断であり、帝国そのものの意思だった。


恐怖による支配は、撃たずとも成立する。

だが、恐怖が疑念に変わった瞬間、抑止は意味を失う。

ならば答えはひとつしかない。


疑う余地のない“現実”を、ただ一度、見せつければいい。


「使えば終わる」と誰もが知っている。

だからこそ、使う。

終わらせる覚悟のない者に、支配する資格はないと、彼は信じていた。


王国が必死に回避しようとする未来を、

皇帝は冷静に受け入れ、選び取った。

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