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2-2-6 数は力なり

冷たい朝霧が、戦場一帯を白く覆っていた。

視界は悪く、遠くの輪郭は曖昧に溶け込んでいる。


その霧を切り裂くように、帝国軍は着実に侵攻を開始した。

各方面の歩兵部隊と歩調を合わせて進むのは、屈強な人型兵器──ヘルダル。


三十体を超える巨大な機体が、まるで儀式めいた規律をもって整然と行進する。

その姿は、王国側の兵士たちに言いようのない圧迫感を与え、前線には隠しきれぬ畏怖の色が広がっていた。


「王国の貧相な戦車なんぞ、ただの障害物だ」


帝国軍の指揮官たちは、余裕を含んだ笑みでそう言い放った。

彼らの持つ情報では、迎撃に現れるのは数百台規模の戦車。

だが、そのすべてが無人であるとは、想像すらしていない。


王国の技術力を過小評価し、

「兵力不足を補うための捨て駒」

その程度の認識しか持っていなかったのだ。


しかし、戦闘が始まった瞬間──

その油断が、致命的な誤りであったことを思い知らされる。


最初の衝突は、中央戦線で起きた。


進軍する帝国軍の前に、無人戦車群が密集陣形を組んで姿を現し、正面から突撃を開始する。

歩兵たちは当初、それを愚直な迎撃だと判断した。


だが、次の瞬間、状況は一変する。


戦車群は、まるで事前にすべてを見越していたかのように、三つの戦闘モードを正確無比に切り替え始めた。


まず展開されたのは、完全防御モード。

前列の戦車が一斉に装甲姿勢を取り、鉄壁の盾となって後続を庇う。


銃弾、魔法弾、即席の対戦車兵器。

あらゆる攻撃が叩きつけられるが、それらはことごとく弾かれ、吸収され、無効化されていく。


歩兵たちは何度も突撃を試みる。

だが、無傷のまま立ちはだかる戦車は、寸分の狂いもなく反撃の間合いを測り続けていた。


「なんだ……この動きは……!」


帝国の前衛兵が、悲鳴にも似た声を上げる。


その叫びに応じるように、数台の戦車が破壊槍モードへと移行した。

機体先端から形成された長大な魔法エネルギーの槍が、一直線に解き放たれる。


轟音とともに、帝国兵たちの隊列が薙ぎ払われた。

ヘルダルそのものに傷はつけられない。

だが、随伴する歩兵たちは、一撃で戦列から消えていく。


混乱は、瞬く間に広がった。


さらに戦車群は、高速移動モードへと切り替わる。

重厚な外見からは想像もできない速度で戦場を駆け、敵の側面、そして後方へと回り込んでいく。


統率の取れた歩兵部隊は包囲に気づく。

だが、反応が追いつかない。


「後退しろ!囲まれるぞ!」


焦燥に満ちた命令が飛び交う。

しかし、その時にはすでに遅かった。


戦車たちは、まるで意思を持つ捕食者のように、地形の起伏や障害物を利用しながら、じわじわと帝国兵を追い詰めていく。

気づけば敵は、峡谷や沼地といった不利な地形へと誘導され、退路を失いつつあった。


「なぜ……こんなにも統率が取れている……?」


ある将校が、ヘルダルの操縦士に無線で問いかける。

返ってきた答えは、短く、重かった。


「分からない。ただ──こちらの読みを、すべて外されている」


その言葉が意味するものを、帝国軍はようやく理解し始める。


無人戦車は、単なる兵器ではない。

“知性”を備えた戦術システムとして、戦場そのものを支配しているのだ。


各戦線に散らばるヘルダルが応戦を試みる。

だが、戦車群はそれらを巧みに避け、距離を保ち、あくまで歩兵部隊のみを切り刻んでいく。


「これほどまでに、追い込まれるとは……」


指揮官たちは、無人兵器にここまで計算された戦術を取られるなど、夢にも思っていなかった。

人間ではない。

だからこそ、恐怖も迷いもなく、同じ最適解を繰り返し叩きつけてくる。


その事実が明らかになったとき、兵士たちの士気は、音もなく崩れ始めた。


ヘルダル自体は、依然として無傷で立っている。

だが、肝心の歩兵が失われていく以上、物量を生かした攻勢は成立しない。


敵の統制が揺らぎ始めたのを察知し、戦車群はさらに包囲を強め、不利な地形へと押し込んでいく。


「まだ、大丈夫」


中央司令部。

魔法ホワイトボードの前に立つサーラは、戦況を冷静に見つめていた。

そこには、敵が想定以上に動揺している様子が、はっきりと映し出されている。


「戦場では……数がものを言うのよ」


サーラは戦車の配置を確認しながら、誰に言うでもなく、静かに呟いた。


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