2-2-4 無人戦車、再び
「戦場では、数がすべてとは限りません」
先ほどシオンが口にしたその言葉が、サーラの胸の奥に小さな棘のように引っかかっていた。
考えないようにしても、思考の底で何度も反芻される。
「……数の問題は、本当に解決できないのかしら」
独り言のように零れた声に、すぐ隣にいたシェリーが反応した。
「どういう意味?」
問いかけられ、サーラははっとしたようにホワイトボードの前へ戻る。
ペンを持つ手を止め、目を閉じて記憶を探った。
「シェリー。
《処女の書》の試練で使った無人戦車……覚えてる?」
「もちろんよ」
シェリーは即座に頷いた。
「あれ、すごく便利だったわ。敵を牽制できたし、危険な場所にも気兼ねなく送り込めた」
その言葉を聞いた瞬間、サーラの中で何かが噛み合った。
曖昧だった思考が、一気に輪郭を持ち始める。
「あれなら……」
サーラは確信を込めて続けた。
「もしかしたら、今の状況を覆せるかもしれない」
「え?」
シェリーが目を瞬かせる。
「無人戦車の設計は、試練のときに私の頭の中に完全にインプットされている」
サーラはゆっくりと言葉を選びながら説明した。
「構造は単純だし、必要な資材も特殊なものじゃない。
もし──あれを量産できたら」
「量産……?」
シェリーが思わず聞き返す。
「ええ。数百台規模で」
サーラはホワイトボードに指を走らせ、戦車の簡略図を描き始めた。
「低コストで組み立てられる上に、魔法で遠隔制御できる。
兵士の消耗も抑えられるし、私が論理魔法で自律行動のルールを組み込めば、一度に大量運用も可能よ」
エヴァが腕を組み、冷静に分析する。
「なるほど……敵の物量に、こちらも“数”で対抗するわけね。
でも、そんな数をどうやって揃えるつもり?」
「大規模な工房は必要ないわ」
サーラは迷いなく答えた。
「魔法の複製術を使えば、ある程度の数は一気に増やせる。
最初の試作品さえ完成すれば、あとは魔法で増殖させるだけ。細かな調整は必要だけど、それは私が引き受ける」
「……本気なの?」
シェリーは半信半疑の表情だったが、サーラの目に宿る強い光を見て、それ以上は言葉を挟まなかった。
「今、一番重要なのは時間よ」
サーラはホワイトボードに配置図を書き足しながら続ける。
「敵の物量に真正面から対抗するには、こちらも数を揃えるしかない。
一台一台はヘルダルに及ばなくても、数で押し返せば流れは作れる」
「つまり、巨大兵器そのものじゃなくて、周囲の敵兵を削るってことね」
シェリーが理解したように頷く。
「数百台の戦車が散開すれば、無視はできない」
「前線の維持には十分かもしれません」
シオンも慎重に同意する。
「ただ、数百台の同時制御となると、相当な負荷がかかるはずです。どう運用するおつもりで?」
「制御は私が一括で管理する」
サーラは即答した。
「個別操作じゃない。自動化されたルールに従って動かすの。
複雑な命令は不要よ」
「でも、サーラ……」
リアナが不安そうに声をかける。
「そんなことして、あなた自身が限界を超えたりしない?」
「最初に仕組みを整えれば、あとは流れるように動かせるわ」
サーラは微笑み、断言した。
「……なるほどね」
エヴァが感心したように息を吐く。
「君の頭の中では、戦場そのものが術式みたいに見えてるわけだ」
「まあ、そんなところ」
サーラは小さく笑い、仲間たちを見渡した。
「無人戦車があれば、少なくとも敵を足止めできる」
「敵を分断できれば、大きなアドバンテージになりますね」
シオンが静かに頷く。
「私も賛成です」
「決まりね」
サーラはホワイトボードから離れ、はっきりと言った。
「時間との勝負だけど……これなら、勝機が見える」
シェリーが肩をすくめながら笑う。
「あなた、本当に無茶なこと思いつくのが得意よね」
「そうかもね」
サーラも笑い返した。
「でも、やるしかないでしょ?」
夜が明ける前、無人戦車の計画は動き始めた。
迫り来る帝国の猛攻に備え、彼女たちは再び立ち上がる。
静寂に包まれた家の中にあるのは、ただ一つ。
──戦う覚悟だけだった。
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